衆議院・参議院の役割を見直せば、おのずと両院の選挙制度についても方向性が見えてきます。役割の違いによって、必要な議員の選抜方法は変わるはずです。
     衆議院の役割の第一は、議院内閣制に基づき、政権を構成することです。行政を監視するとともに、首相や大臣を派遣して行政を統括し、内閣と協力しながら法案を成立させていく役割も担います。衆議院は、このような趣旨から必然的に政権をめぐる競争の場となります。
     従って、選挙制度は議員個人を選出すること以上に、政権政党を選択する制度が望ましいといえます。本書は先述の通り小選挙区比例代表併用制への変更を提案しました。この制度は政党を選択し、比例代表制に基づいて得票率に近い議席配分を実現する特徴があります。すなわち、政党選択に適した制度です。
     自民党を支持しているが、候補者がどうも気に入らない、候補者はよいのだが民主党から立候補していることは気に入らない、現行の小選挙区比例代表並立制では、このような事例が見られます。最終的に勝った政党は知っているが、自分の投票した候補者が当選したかを知らない人もいるのではないでしょうか。
     併用制のメリットはまずどの政党に勝たせるかを選べることです。並立制では、支持政党の候補者が気に入らなくとも、その政党に政権を委ねるためにはその候補者を選ぶ必要がありましたが、併用制では、政党を選ぶことが重要ですので、候補者がイマイチな場合は政党だけ選んで候補者は無記入でも構わないのです。
     一方の参院選は政権選択選挙ではありません。内閣や衆議院を監視し、よりよい政治の実現に向けた牽制が重要です。ところが、その参院選の重点が政党選択に傾くと、結局、衆議院と同じ政権選択選挙に近づきます。参議院では、政党ではなく、むしろ人を選ぶことの方が重要です。
     従って、参院選は現行制度から比例代表制を除いた単純中選挙区制か、単純小選挙区制として、あくまでも候補者を選ぶことに特化することが有用です。さらに、将来的に道州制、連邦制と地方分権を進めていくならば、参議院議員は地方代表として、一票の格差に関係なく、各都道府県、各州に同じ定員を定めることも可能です。
     参院選を候補者選びのための選挙と位置付けても、政党が候補者をバックアップする可能性は十分にありますから、議員と政党の関係を完全に断ち切ることはできません。しかし、実際の国会審議では、参議院議員は党議拘束(政党が自由意志による投票を禁止し、党の意向通り投票することを求めること)を禁止するといった対策も考えられます。
     逆に、候補者を重視する選挙となれば、各候補者は選挙区に地盤を作ることが重要となります。地盤が強固になるほど議員は党の支援を受けずに選挙を戦えますから、選挙後、党本部の意向に反し、自らの信念に基づいて提言することも可能になります。この点は党の支援が不可欠な比例代表による当選者とは真逆の立場です。
     参議院の権限を抑制し、衆議院での再可決要件を3分の2から過半数に変更すれば、ねじれによる政治の停滞は軽減できます。一方で、両院協議会の機能を強化し、衆参両院での法案修正を容易にすれば、参議院によるチェックは権力闘争ではなく、個々の法案の改良に傾き、ねじれの長所をより活かす可能性も生まれます。
     また、議会の会期の問題も考えなければなりません。
     通常、法案は衆議院可決後、参議院での審議に60日間の時間が与えられます。60日を経過しても参議院が議決を行わない場合に、参議院は法案を否決したとみなして衆議院で再可決を行うことができます。この60日間、衆議院は法案に手出しができません。
     2007年に発足した福田康夫政権では、与党は衆議院で3分の2の議席を確保し、再可決が可能だったにもかかわらず、この60日ルールに苦しみました。60日を待っている間に国会の会期が終わり、法案が廃案になるケースが増えたからです。そして、野党はそれを知っているからこそ、審議を引き延ばし、時間切れ・廃案を目指しました。
     この審議引き延ばしは、参議院で実質的な議論を深めるべきという本書の考え方とは正反対です。そこで、問題の解決のためには会期というルールを撤廃し、通年国会の実現を目指す必要があります。
     通年国会とは、会期を設けず、一年中国会を開くことです。この制度のデメリットとして、首相の外遊期間が確保できない、議員の拘束時間が長くなるといった問題も指摘されていますが、夏休みのような夏期休会などの制度を設ければよいだけで、会期を定め、会期中に成立しなかった法案を廃案にするような非効率なシステムは改善できるはずです。
     現在の安倍政権では、外遊期間を確保するために、首相や閣僚の答弁時間を減らす検討を進めていますが、短い会期という問題を考えずに答弁時間だけ減らすといった対応は国会審議を一層空洞化させかねません。答弁時間は効率化する一方で、通年国会を実現し、必要な時に、必要な審議を行えるようにすることが重要です。
     国会改革の目的は、政府の扱いやすい議会に変えることではなく、議会が議会としての機能を取り戻し、議論の充実化を図ることにあります。その目的に沿った議会制度のグランドデザインが必要です。



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    2014.03.04 Tue  - 第5章 政治インフラの改革 -