問題は参議院が強すぎることにあります。参議院の機能を見直すことで、ねじれがもたらす政治の停滞をある程度は緩和できると考えられます。
     参議院と衆議院には様々な違いがありますが、最大の相違点は議員の任期が衆議院議員より長く、かつ解散がないことです。
     参議院議員の任期は6年で、3年ごとに半数が改選されます。3年ごとの半数改選ですから、野党が参議院の過半数を制するためには、一回目の選挙で勝利し、3年後に行われる次の選挙で再び勝利する必要があります。一度の選挙で与党が空前の大敗を喫しない限り、通常、二度の選挙を経なければ与野党の逆転はありません。
     2007年の参院選で自民党は敗北し、参議院はねじれ状態に陥りましたが、その前に2004年の参院選の時点で民主党は自民党を1議席上回る結果を収めています。2004年に参院選で与野党の議席数が伯仲し、2006年の参院選で自民党が敗北した結果、参議院で与党(自民党・公明党)が少数派に転じるねじれ状態に陥ったのです。
     一方、2004年に当選した参議院議員は2010年の参院選で改選を迎えました。この参院選で民主党は大敗します。2004年の与野党の互角の結果が与党(民主党・国民新党)の参議院での過半数確保の足がかりだった訳ですから、2010年の参院選に敗れると、再び野党が過半数を占め、国会はねじれ状態に逆戻りします。
     民主党は2007年の参院選に勝っていますから比較第1党(過半数の議席はないが、院内では最も議席数が多い政党)のポジションは保ちましたが、2013年の参院選で自民党が連勝(民主党が連敗)した結果、与党(自民党・公明党)が過半数の議席を確保し、ねじれ状態はようやく解消しました。
     ここでの問題は一度野党が参議院で過半数を確保すると、政争における強力な武器となることです。
     参議院には解散がありませんから、与党がねじれを解消するためには次の選挙まで3年間を待たなければなりません。この間、政権が提出した法案が廃案に追い込まれる、首相や大臣の問責決議が提出されるといった揺さぶりが続くと、実績を作れない内閣の支持率は低下し、与党内では首相を交代させるべきか否かという内紛が生じやすくなります。
     その結果として与党が信任を失い、参議院で多数派を形成している野党が衆院選に勝利すれば、ねじれは解消します。ねじれは、衆議院の多数派が参議院を制するのではなく、参議院の多数派が衆議院を制して解消する可能性の方が高いといえます。現に民主党の鳩山政権は、政権交代によってねじれを一度は解消しています。
     このようなシステムを前提とすると、政権交代を起こすには参議院で足場を築くことが重要となります。参議院で勝つことが政権交代への道筋となる訳です。
     民主党は2007年の参院選で勝ち、その成果を足場に2009年の衆院選に勝利しました。同様に自民党も2010年の参院選に勝ったことが、2012年の政権奪還の足がかりとなっています。参院選で勝ち、しかる後に衆院選で勝つことが、さながら政権交代の方程式となっています。
     これが参議院の本来の役割といえるでしょうか。参議院議員の任期が衆議院議員より長く、かつ解散がない理由は、その時々の政情や権力闘争にとらわれず、長期的視野に立って政治を担うためです。そのために参議院は「良識の府」と呼ばれてきました。この参議院の特徴が、権力闘争に活用されることは、参議院の本来の役割と異なるといえます。
     参議院のあり方を再考する必要があります。ただし、参議院に「良識の府としての自覚を取り戻せ」と精神論で迫ることは余り有効ではありません。政治の世界では与野党とも生き残るか死ぬかの競争を繰り広げていますから、参議院の自覚を促すよりも、制度の改革を通じて問題の解決を図る方がよいと考えます。



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    2014.03.04 Tue  - 第5章 政治インフラの改革 -