大阪・ビル顔認証:通行人「気持ち悪い」 JR西でも賛否
毎日新聞 2014年03月06日 06時47分(最終更新 03月06日 11時46分)
JR大阪駅(大阪市北区)の駅ビル「大阪ステーションシティ」で、顔認証カメラで通行人を追跡する大規模な実証実験が4月から始まる予定だったが、市民からの抗議が寄せられたため、開始のめどが立たなくなっていることが分かった。
駅利用者らの抗議で開始のめどが立たなくなったJR大阪駅の駅ビル「大阪ステーションシティ」での大規模な顔認証カメラ実験。駅構内を行き交う人からは「気持ちが悪い」という声が上がり、実験を準備する側からは戸惑いも聞こえる。
駅ビル内の天井を注意深く見ると、真新しいカメラが多数、人の流れと並行にあちらこちらに既にセットされている。通路を行き交う人の顔を捉えるため、独立行政法人「情報通信研究機構」が新たに設置したカメラだ。
「怖いですねえ」。カメラの近くを通り掛かった京都市の主婦(55)は眉をひそめた。「何がって、自分の顔がいつ撮られているか分からないのがね。データをちゃんと消してくれるのかどうかも確かめようがないし」
「人の集まる所だから仕方がない」(62歳男性)という声もあったが、「何でそんなことするんですかね。居場所を知られたくないこともあるじゃないですか」(41歳男性)など、違和感を口にする人が目立った。
市民団体「監視社会を拒否する会」は5日、東京都内で記者会見し、共同代表の村井敏邦・大阪学院大法科大学院教授が「肖像権を認めた最高裁判決(1969年)もある。一般人の顔を勝手に撮影し追跡できるシステムは許されない」と批判。機構やJR西などに実験中止を求める要望書を送付した。
一方、JR西日本の社内には、ビジネスの観点から期待する声もある。ある幹部は「駅での人の流れについては、誰もデータを取ったことがない。災害時の対応だけでなく、駅ビル内での広告の出し方や店舗などへの利用客の誘導にも活用できる」と話す。ただ、社内には「利用客から批判されてまで必要な実験なのか」との慎重意見もあり、駅利用者らの反発を目の当たりにし、対応を決めかねているのが実情だ。
情報通信研究機構の能見正・ネットワーク研究本部統括は「顔認証はまだ精度が低く、どの程度追跡できるのかは始めてみないと分からない。少なくとも、駅にいる全員の行動を把握できるような技術ではないのですが」と話す。【日下部聡、石戸諭】