ウクライナ情勢が緊迫している。英国のヘイグ外相は「欧州における21世紀最大の危機」と言ったが、これでもまだ控えめな表現かもしれない。すでに、世界では「新たな冷戦の始まり」という評価が飛び交っている。私も以下の理由から、それに同意する。
国連という枠組みの限界をさらけ出した初めての事態
まず、これは単なる一過性の危機ではない。世界秩序を支える根幹のレジーム(枠組み)が揺らいでいる。
ウクライナに対するロシアの軍事侵攻は、実際の戦火を交えていないとはいえ、1945年以降、国連を中心に形成してきた世界秩序へのあからさまな挑戦である。しかも、主役が国連安全保障理事会の常任理事国である点が決定的に重要だ。
米国や北大西洋条約機構(NATO)はすでに対応策から軍事的選択肢を除いているが、それは単に「大国のロシアと一戦を交えたくないから」とか「戦っても勝てないから」といった理由からではない。国連安保理で武力制裁のお墨付きを得られる見通しが立たないのだ。なぜかといえば、当のロシアが常任理事国なので、拒否権を発動するに決まっているからだ。
ロシアが拒否権を発動したのに、米国や西欧諸国が安保理決議なしに無理矢理、武力介入に動けば、今度は米国や西欧諸国が国連憲章違反になってしまう。ロシアの行為が国際法違反なのは明白なのだが、それを正そうと欧米が安保理決議なしに武力対応すると、正そうとした行為自体が違反になる。いわば「法的強制力のトラップ(わな)」にはまったと言ってもいい。
したがって、ウクライナがいくら国連でロシアの非を責め立てたところで、欧米は支持するだろうが、国連全体としては、基本的にどうすることもできない。つまり国連は事実上、機能しない。今回の事態はそんな国連という枠組みの限界、あるいは無力化をさらけ出してしまった。
そこがたとえば、クウェートに侵攻したイラクの場合とまったく意味合いが異なる点だ。イラクの場合は、国連は曲がりなりにも機能して安保理決議に基づく多国籍軍を形成した。だから国際社会は正当性を持った強制力を行使できた。ところが今回はそれができないのだ。こうした事態がこれほど鮮明に表面化したのは初めてのことではないだろうか。
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