参議院をどのように改革していくべきでしょうか。その対策には様々な議論がありますが、本書は以下の四つの対策が特に重要と位置付けています。
     対策の第一として、参議院で否決された場合の衆議院の再可決要件を3分の2から過半数まで引き下げることが必要です。
     参議院は6年間の任期が保障され、かつ、解散がありません。衆議院は解散がありますし、解散権は首相の伝家の宝刀ですから、首相と衆議院が法案をめぐって対立しても、首相は解散カードを武器に衆議院に法案通過へのプレッシャーをかけることができます。しかし、参議院にはそれができません。
     その参議院が法案を否決した場合、首相率いる与党が衆議院の3分の2の議席を確保していなければ、法案を再可決することは不可能です。法案がストップする中で局面を打開すべく、首相は参議院を解散させ、国民の信を問うこともできません。
     従って、衆議院での再可決要件を過半数に引き下げれば、首相や衆議院の多数派のリーダーシップを強化することができます。
     仮に、衆議院での再可決要件を過半数に引き下げれば、参議院がどのような批判や問題提起、対案を出しても首相や衆議院が無視し、再可決を繰り返しかねない、という危惧もあります。しかし、3分の2の再可決要件を設けて、参議院の権力を確かなものにするのではなく、参議院は批判や問題提起の重みによって衆議院を牽制することが重要です。
     参議院が問題を提起しながら、衆議院がその問題提起を無視して再可決を繰り返したとしましょう。仮に参議院の指摘が正しく、国民の支持を集めたなら、それを無視して再可決を繰り返すことは首相にとっても衆議院の多数派(すなわち与党)にとっても決してプラスではありません。評判を落とし、次の衆院選に影響します。
     参議院の役割は衆議院を牽制し、あるいは対案を示すことであり、法案の成立を阻み、権力闘争を激化させることはありません。二院制のメリットは、審議の場を二度設けることで問題を深く議論し、法案を改良することにあります。
     対策の第二として、問題の深掘りのために両院協議会のさらなる活用を図ることです。
     衆参で議決が分かれ場合、衆議院の賛成派議員(主に与党議員)と参議院の反対派議員(主に野党議員)が集められ、両院協議会が開催されます。
     つい最近までねじれ国会が長期間続いていたにも関わらず、この両院協議会での議論はほとんどニュースになりませんでした。党首討論なみに注目される討論の場を設け、国民に賛否の趣旨をアピールしていくべきではないでしょうか。その討論の結果、衆議院の主張に説得力があるならば参議院は譲るべきですし、逆なら法案の修正を目指すべきです。
     両院協議会での実質的な議論を通じ、法案の改善、否決後の対案などをしっかり形成できれば、ねじれの弊害は軽減できるはずです。これはねじれを政治に活かす道です。
     対策の第三は、参議院の役割をさらに限定することです。
     内閣の信任・不信任はあくまでも衆議院の役割に限定すべきです。三権分立は三権が対等であることが原則です。ところが、首相と参議院の関係でいえば、参議院の方が優勢です。参議院が首相や大臣の問責決議を繰り出し、内閣への不信任の姿勢を示しても、首相は参議院を解散させられません。だから、政権交代は参議院から起こります。
     参議院は衆議院の内閣への信任を尊重した上で、法案審議や行政の監視を行い、大所高所から意見を述べる(時には否決する)ことに限定する必要があります。法案や政策は追及しても、内閣における人事には口を挟めないという制度が望ましいと考えます。これは参議院の権限の制限というよりも、衆議院との役割分担といえるかもしれません。
     対策の第四は、国会の非効率なシステムを改めることです。
     内閣は一度国会に法案を提出すると、自由に法案を修正することができません。さらに一度衆議院を可決すると、参議院審議中の内閣による修正は不可能となります。本来、審議の過程で様々な問題が指摘されるはずなのですから、その意見を取り入れ自由に法案を修正してもよいはずです。むしろ、自由に修正しながら可決を目指すべきともいえます。
     国会での自由な修正ができないために、公務員は与党議員に事前に説明し、法案提出に際しては与党の事前の了承が重要となりました。その結果、かつての自民党政権では、多くの族議員が法案の作成に事前に関与し、首相のリーダーシップを制限していました。
     それでも参議院の過半数を与党が制しているうちは、このシステムは機能していましたが、ねじれ国会では役に立ちません。野党に事前説明を繰り返しても、与党と対決するために始めから反対ありきでは説明の意味がないのです。そして、法案が審議に入ると自由に修正できませんから、最後は多数野党による否決という結果が待ち受けています。
     内閣には法案提出の権限があるのですから、根回しなどせずに法案を提出し、国会で議論すればよいのです。衆議院で修正し、参議院でさらに修正してもよいはずです。法案が廃案になり、問題が解決しないことこそ最大の問題なのです。



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    2014.03.04 Tue  - 第5章 政治インフラの改革 -