『宇宙家族カールビンソン』は、電車の中でも爆笑しかねない大変危険な作品です。
なんと申しますか、学生時代にクラスで一番面白かった友達の笑い話が、本人の事をよく知ってるクラスメイト同士にしか伝わらないもどかしさってあるじゃないですか。
読んでさえもらえれば判るこの面白さを、昔のクラスメイトじゃない今の友達にも、旧友の良さを判っていただけるようなイメージで、一生懸命書かせていただきます。
設定時点で面白いのに、キャラも全員面白いとか、ズルいですよもう。
物語は、宇宙船同士の交通事故から始まります。
初期登場キャラのほとんどは宇宙の旅芸人一座です。宇宙を渡り歩き、神社の境内などで芝居や曲芸をすることを生業としています。
ある日、次の巡業先に向かう惑星間航行中に、所属不明の小型宇宙船と接触しました。
小型宇宙船は、たまたま近くにあった地球とよく似た惑星アニカに墜落します。
その船には、小さな女の子とその両親が乗っていましたが、残念ながら両親は事故死。
旅一座の座長であるオカミさんは決意します。
それに子どもにゃ親が必要さ
わたしたちが親になってやるんだ!!わたしたちは芸人だよ!!出来ないものか!!
この子の親を演じてやるんだ!!さぁ一座上げての大芝居のはじまりだ!!
一座にとって一世一代の大芝居になるはずのこの演目は、彼らにとって乏しい地球の情報をもとに、地球と同じような環境や習慣を、惑星アニカで再現し、コロナに体験してもらことで話が進んでいきます。
夏になれば地球では海開きですが、アニカではモーゼの十戒のごとく、海が開きます。
夏の風物詩の入道雲も忘れてはいけませんが、アニカでは入道顔の大蜘蛛が、海岸を闊歩します。
お盆には、巨大ナスに4本の大木を刺した精霊馬が大地を駆け抜け、正月には巨大な鏡餅がズリズリと一座の眼前を行進します。
盆と正月が一度に来る天変地異が起これば、巨大ナスと巨大鏡餅が大喧嘩です。
うん、違う。なんか、いやかなり違う。
地球というよりは、主に日本ですね。そう言えば。
そんな中でも、コロナちゃんはスクスクと育ちます。
一座の役者たちをはじめとした登場キャラクターも個性的です。
コロナちゃんのペットの立ち位置を不動の座とするのは、「リス」のター君です。
ター君は、むき出しの脳ミソにしか見えない頭部に、神経組織のような細身の体でです。
アップに耐えられないが為に、出てくるたびにひどい目に合うけども、実は良家のおぼっちゃんです。
何を言っている判らないかもしれませんが、読めば判ります。
惑星アニカの原住生物も忘れてはいけません。
同じ種族で沢山出てきますが、みんな映画が大好きで、特撮とかカメラアングルとか、映画好きのニッチなこだわりを一人一人が持っています。
時たま、世界の黒〇監督みたいなのや、奥さんと名字の読みが同じな、庵〇監督みたいな原住生物も出てきます。
彼らの憩いの場、映画館の館長をしている2足歩行する犬(?)のジョンは、映画監督でもあります。
ただ、口が色んな方向に開いたり、頭が取れたり、グロい上に死にそうで死にません。特技は三味線です。
何を言っている判らないかもしれませんが、多分あさりよしとお先生は本当に映画がお好きなんだと思います。
そして、本作最大の謎の存在は、コロナちゃんのお母さん役のオカミさん(座長)の連れ合い役たる「お父さん」です。
お父さんは、色んな意味で最強です。
物語の終盤に差し掛かるまで、その出自は謎に包まれていますが、様々な超兵器形態にトランスフォーム出来、超絶技で料理を作れば、その匂いだけで飛んでる虫を殺してしまいます。
コロナを愛するあまり、やることなすことコロナに嫌われてしまう、超次元のボケの数々。
そして、どんな超装甲の汽車が来ても一撃で破壊してしまう「宇宙最強の男」をして、
「あっちは町内一強い~~~。」と諦めさせてしまう、無駄にカッコ良くて超破壊力な装備の数々。
ほんとに、何を言っているのか判らないと思いますが、ある惑星一つの衰亡にも関わるお父さんの謎は、終盤に解き明かされます。
SFものであることは確かですが、ウヒウヒ笑ってしまうタイプの、中毒系ギャグマンガです。
電車の中など、公共の場での読書にはご注意ください。
もう私は、変な目で見られることなんて諦めましたけどもね。
漫画家支援者としての目線
あさりよしとお先生はギャグマンガの天才です。
凄い所があり過ぎて、書きだすとキリがなく、むしろ志望者にとっては手本にするのが難しいかも知れません。
それでもなんとか分析するには、本作に加え、名作科学マンガ「まんがサイエンス」を読むと良いかもしれません。
これは学習マンガです。
でも、ギャグマンガにもなっています。
天才、原作を選ばずです。
間、キャラの動かし方、台詞、見せ方。もう一度言いますが、なんせ「間」です。
前回レビュー同様ですが、違う意味で「構成」部分が天才的です。
あさり先生は映画がお好きとしか思えませんが、個人的には落語のテンポと話調を感じます。
きっと、寄席なんかにも良くいらしてたのかも知れません。
かつて手塚治虫先生はおっしゃいました。
「りっぱな漫画家になるには一流の映画を観なさい、一流の小説を読みなさい、そして一流の音楽を聞きなさい」
あさり先生の面白さの一端(とてもじゃないですが全部とは言えませんが)は、マンガ以外にも、映画や落語などの作品を、星の数ほど見てこられた蓄積があるであろうことは、想像に難くありません。
漫画家志望者の皆さん。
特にギャグマンガや、パロディ要素濃い目の作品を描きたい方。
あさり先生のマンガは、一度読むと、越えられない壁として皆さんの前に立ちはだかると思います。
ですが、手塚先生の言葉は、きっとあさり先生もなされていたことに違いありません。
着実に、一歩一歩、信じる所を積み重ねて行ってください。
今のあさり先生
こないだ、マンガHONZの定期ミーティングの際、ホリエモン代表から、あさり先生キャラデザのオリジナルシールを貰いました。
先生はホリエモンロケットプロジェクトに関わってらっしゃるそうで、ロケット打ち上げの度にキャラクターを作成してシールにしているとのこと。羨ましいぞ、ホリエモン!
貰ったシールは、私のiPad-miniの「日本唐揚協会」シールの隣に、大切に貼ってあります。
こちらは、ホリエモンロケット関連イベントの様子。あさり先生もいらしたとか。
ホリエモンとロケットまつりな面々が本当に宇宙開発を始めていた件
これまた、楽しそうです。
というわけで、ロケットのお好きなあさり先生の「なつのロケット」もオススメです。
最新作はこちら。