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森達也 リアル共同幻想論
【第74回】 2014年3月6日
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森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

「責任はA級戦犯だけではなくすべての国民にある」

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打ち捨てられた英霊たちの墓石を訪ねて

大阪市天王寺にある真田山陸軍墓地。その存在を知る人はどれほどいるだろうか

 住宅地を少し歩く。細い路地を抜けると突然視界が開ける。異様な光景だ。敷地いっぱいに墓石が並んでいる。でも普通の墓石ではない。ほぼすべては高さ50センチメートルほどの小さな直方体(先端は少し尖っている)。台石は1枚だけ。すぐ足もとの墓碑には「陸軍歩兵加藤周一郎之墓」と彫られている。

 大阪市天王寺にある真田山陸軍墓地。徴兵令が初めて発令された明治4年、当時の兵部省が設置した日本で最初の兵士の墓地だ。当初の面積は2万8040平方メートル。そして今は1万5077平方メートル。

 ここには戦死した兵士だけではなく、兵役や訓練中に事故死や病死した兵士や軍役夫、さらには日本軍の捕虜となった外国人の遺骨も埋葬されている。墓碑の総数は5299。ただしそのほとんどは、西南戦争や日清戦争までの戦没者だ。日露戦争や第1次世界大戦、そして戦場で死んでも遺骨を持ち帰る余裕などなかった第2次世界大戦の死者たちは、大きな合葬墓に埋葬され、さらに遺骨や遺髪や(現場の)土などが入れられた小さな骨壷は、昭和18年に完成した納骨堂の棚にびっしりと置かれている。その数は8000超。

墓石の多くは罅が入ったり欠けたりしており、線香や花が手向けられた気配はない

 墓苑への出入りは自由。でも膨大な数の墓のほとんどは、近年に線香や花が手向けられた気配はまったくない。要するに打ち捨てられている。線香台には枯葉が重なっている。墓石の多くは罅が入ったり欠けたりしている。

 「大阪の人もほとんど知りません」
 ここまでを案内してくれた大阪在住のエルネスト高比良さん(医療関係者で市民運動家)が言う。「僕もたまたま通りかかって驚いて調べたんです」

 確かにここに来るために2人で乗ったワンコイン・タクシーの運転手も、真田山陸軍墓地と言ってもわからなかった。実のところこうした陸軍墓地は、全国で80カ所もあるという。でもそのほとんどは打ち捨てられている。遺族ですらここに墓があることを知らないケースが多いらしい。納骨堂の整理に来ていた年配の男性が、「政治家たちは本気で慰霊したいのならここに来るべきだよ」と少しだけ腹立たしそうに言った。

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森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。


森達也 リアル共同幻想論

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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