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通貨革命か、それとも虚構か?「ビットコイン」を正しく理解する 野口悠紀雄
【第3回】 2014年3月6日
著者・コラム紹介バックナンバー
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

ビットコイン送金の基礎になる技術
――公開鍵暗号とハッシュによる電子署名

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から騒ぎの教訓

 先週、ビットコインの両替所マウントゴックスが破綻した。これによってビットコインの取引そのものが停止されたかのようなニュースが、大きく報道された。

 識者のコメントには、「中央銀行がない通貨がうまくいくはずはない」という趣旨のものが多かった。

 しかし、言うまでもないことだが、ビットコインそのものは、なんら問題なく運営され続けている。ドルとの交換価値も事件前とほぼ同じ水準に戻った。

 今回の事件は、むしろビットコインの頑強さを示すものだった。中央銀行がない通貨が、一取引所の破綻などとは関係なく、立派に運営されているのである。

 もちろん、このことは、ビットコインに問題がないことを意味するものではない。すでに、つぎのことが問題であると認識されている。

(1)匿名性があるために、犯罪行為に利用される。課税が困難である。
(2)私設両替所など、関連サービスの信頼性が確保されていない。
(3)ドルや円との交換価値が乱高下する。

 こうした問題に対処することこそが重要なのである。そのためには、ビットコインを正しく理解する必要がある。

 さて、ビットコインを理解するのに、「どこまで遡るか?」は難しい問題である。その基礎になっている暗号理論やコンピュータサイエンス上の知見は、1970年代以降に発展したものなので、まだ一般に馴染みがないからだ。

 普通行なわれる説明では、そこまで遡らない。実際、ビットコインを利用するだけであれば、こうした基礎を理解する必要はない(車を運転するのにガソリンエンジンの動作原理を知らなくてよいのと同じである)。

 しかし、例えば、「ビットコインのどこを規制すべきか、それには何をしたらよいか」といった問題を考える際には、ある程度の基礎まで遡った理解が必要だ。そこで以下では、これらについて説明する。

 なお、これらの概念を説明するのに、比喩が用いられる場合が多い。しかし、それではかえって混乱する。原理自体は難しいものではないので、以下では比喩を用いず、数値例で説明する。ただし、実際に用いられている数字よりは遥かに小さな数字を用いることとする。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』等、最新刊に『期待バブル崩壊』がある。野口悠紀雄ホームページ

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通貨革命か、それとも虚構か?「ビットコイン」を正しく理解する 野口悠紀雄

インターネット上で使われている仮想通貨である「ビットコイン」にに対する関心が、急速に高まっている。この連載では、「ビットコインが何をもたらすにしても、それは通貨史上の大きな革命であるばかりでなく、まったく新しい形の社会を形成する可能性を示した」との認識に立ち、ビットコインの仕組みを解説し、それがもたらしうるものについて論じる。

「通貨革命か、それとも虚構か?「ビットコイン」を正しく理解する 野口悠紀雄」

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