(英エコノミスト誌 2014年3月1日号)
ニコラス・マドゥロ氏が自身の政権と国を救う手段は、抑圧ではなく対話だ。
日本ではほとんど報じられていないが、ベネズエラでも激しいデモが繰り広げられている(写真は首都カラカスで機動隊と衝突する反政府デモ隊)〔AFPBB News〕
類似点は際立っている。国の分裂、民主的な負託と暴力とを合体させる政府、次第に急進的になる反体制派――。
ベネズエラとウクライナの類似は正確ではない。ベネズエラの分裂は主に階級に基づいている一方、ウクライナの亀裂は部分的に地理に基づいている。しかし、どちらの国も抗議行動と暴力的な対応のスパイラルに陥っている。
石油資源に恵まれたベネズエラでは、まずウゴ・チャベス氏、近年は後継者のニコラス・マドゥロ氏による数十年にわたる経済の失政が仇となって返ってきた。同国は世界最大の石油埋蔵量を誇るが、地下に眠る資源を開拓するために必要な投資を遠ざけてしまっている。
ベネズエラの石油収入の大半は汚職によってかすめ取られたか、持続不能な社会政策や、同盟国、特にキューバに対する補助金に流用されてきた。民間部門はまるで敵対勢力のように扱われている。調理油からトイレットペーパーに至るまで生活必需品が不足している。ここに犯罪の横行を加えると、過去10年間で最大のデモに見舞われ、ベネズエラが崩壊しそうになっているのも無理はない。
貧困層の多くはまだ「チャビズモ」を支持しているが・・・
マドゥロ氏は昨年、(僅差で)議会過半数を獲得しており、その選挙結果は不正行為の疑いが持たれたものの、最近行われた地方選挙は国民の半数(大半は貧困層)がいまだに「チャビズモ*1」を支持していることを示唆していた。
しかし、民主主義は投票箱で完結するわけではない。バス運転手出身のマドゥロ氏は、チャベス氏に無制限の忠誠を捧げることで出世の階段を駆け上がり、チャベス氏の亡霊を呼び起こして大統領の座を手に入れた(マドゥロ氏はかつて、鳥に姿を変えた故チャベス大統領が自分の元にやって来たと言ったことがある)。
師のカリスマ性を欠くマドゥロ氏は、反体制派に対して抑圧という答えしか持たない自党内の強硬派に抵抗できないように見える。
デモに対する政府の対応は、全体主義の台本通りに進んだ。武装した活動家たちが路上に繰り出すと、報道管制が敷かれ、でっち上げた罪により野党指導者のレオポルド・ロペス氏が逮捕された。抑圧はさらなる抗議行動と暴力を招き、ベネズエラ経済に一段と大きなダメージを与える。
*1=故チャベス大統領の理念や政策に基づく左翼政治思想