年金分割
2014年01月15日
年金分割は年金額の半分をもらえる制度か
横浜支部 弁護士 森 惇一
年金分割は年金額の半分をもらえる制度か?
1 誤解していませんか
離婚をした際に、「年金分割」という制度が利用できることについては、一般の方もご存じの方が増えてきたかと思われます。ただ、この制度を利用すれば、「夫(妻)の受け取る年金額の半分をもらえる。」との誤解をされている方が多いように感じます。結論から言いますと、この制度は、夫(妻)の将来受け取るべき年金額の半分を妻(夫)がもらえるようになる「お得な」制度ではありません。では、具体的には何を分割する制度なのでしょうか。
今回は、年金分割が一番問題となるケースである、「夫がサラリーマン(厚生年金に加入)、 妻が専業主婦(国民年金に加入)」であるケースを念頭に、年金分割制度が導入された背景に触れつつ説明したいと思います。
2 年金分割導入の背景
そもそも、年金分割制度が導入された背景としては、上記のようなケースでは、夫と妻との間で老後にもらえる年金額に大きな差があるために、離婚した場合に低い金額の年金しかもらえない妻が、離婚後に生活に困窮する事態になることを恐れて離婚を躊躇していたということが挙げられます。
すなわち、厚生年金は、全国民が加入する「基礎年金(いわゆる1階部分)」に加え、賃金に応じた保険料を支払うことで、支払保険料に応じた額の年金を受給できる「上乗せ部分(いわゆる2階部分)」から構成されているのですが、上記のケースですと、夫は1・2階両方がもらえるのに対して、厚生年金に加入していない妻は1階部分しかもらえないということが離婚の障壁になっていたのです。
そこで、本来、国民年金しかもらえないはずの妻が、年金差額を理由に離婚を躊躇しなくても大丈夫なようにと、夫との間の年金差額を公平にしようということで導入されたのが年金分割制度なのです(詳細は割愛しますが、合意分割制度と3号分割制度が併用されています)。
3 分割されるのは、婚姻中の夫の保険料納付実績
そして、夫婦間の年金差額を最も公平にする手段として考えられたのが、「上乗せ部分(2階部分)」のために婚姻期間中夫が支払った保険料総額の半分を、妻が専業主婦として貢献した分として妻が支払ったものとみなし、妻の保険料納付実績に加えるというやり方です(これにより、専業主婦の妻は、婚姻期間中、夫が支払った保険料の半額を基準に厚生年金を受け取ることができます)。
つまり、年金分割制度で分割されるのは、年金額そのものではなく、婚姻中の厚生年金(又は公務員等の加入する共済年金)の保険料納付実績(払込保険料の総額)なのです(保険料納付実績の半分を反映させるだけということは、たとえば婚姻期間が短い場合等には、年金分割をしたとしても、妻が受け取れる年金額は夫の年金額よりも著しく低くなってしまいます)。
4 結論
このように、年金分割制度は、結果的に夫(妻)の年金額の一部を分割するものではありますが、単純に年金額を分割する制度ではないため、大抵の場合もらえる年金額は期待していたほど増えないことが多いと思われます。離婚を希望される専業主婦の方、過度な期待は禁物です。
2013年07月10日
年金分割について
年金分割について
弁護士 井上真理
離婚の中でも、特に熟年離婚で長年主婦であった女性が離婚を望んでいる場合には、『年金分割』という手続きを知っていると知らないのでは、大きく違います。そこで、今日は『年金分割』についてお話します。
『年金分割』とは、分割の手続きをすることにより、2007年4月以降に離婚した夫婦の間で、婚姻期間中に納付された厚生年金と共済年金について、納付記録が分割されて、主婦であった女性でも夫の厚生年金(共済年金)の一部を受給できるようになるというものです。
これは、夫婦のどちらが離婚の原因を作った、などという話とは全く関係がなく、原則としてどちらかが厚生年金(共済年金)に加入しており、2007年以降に離婚した場合には分割を請求する権利があります。
そして、裁判所においても協議離婚においてもその割合は、半分、つまり0・5という運用が定着しています。
離婚すると、私の老後は国民年金しかもらえなくなる、たいした蓄えもないし不安、という理由で離婚をためらっている主婦の方には、大きな安心を与える制度であると言えます。
手続きとしては、年金事務所に行って『年金分割のための情報通知書』を発行してもらい(申請してから受け取るまでに1~2週間かかるので、余裕をもって手続きを初めて下さい。)、配偶者との間で、話し合いをします。
話合いで分割割合を0.5とするなどと合意ができた場合には、請求者の年金手帳と、戸籍謄本などの婚姻期間が分かる書類とともに、
①二人で年金事務所に行き、年金分割の手続きをする
②年金分割の合意をした公正証書を作成し、公正証書の謄本もしくは抄録謄本をもって手続する
③年金分割の合意をした協議書などを公証役場に持って行き、公証人に認証してもらい、これをもって手続する
のいずれかの方法をとれば、手続きが出来ます。
話合いがまとまらない場合や、離婚について調停や裁判の手段をとった場合には、年金分割について分割割合を記載した調停調書や判決書があれば、手続きが可能となります。
年金制度などは仕組みが難しく、面倒な手続きもありますが、手続きをするとしないのとでは得られる経済的価値が大きく違う場合もあるので、離婚の相談の際には気にかけておいてください。
2011年09月08日
Q&A 離婚時年金分割制度(15)
弁護士 石黒麻利子
9月に入り、そろそろ夏の疲れが出てくる頃ですがお元気でお過ごしでしょうか?さて、前回は、離婚後の生活設計について検討しましたが、今回は、離婚した場合と、離婚しないうちに夫が亡くなった場合の年金受給について考えてみたいと思います。
Q15 夫が亡くなると遺族厚生年金がもらえるのですが、離婚して年金分割してもらうのと、離婚しないで遺族厚生年金をもらうのとではどちらがよいでしょうか?
A15-1 遺族厚生年金とは
遺族厚生年金は、厚生年金保険に加入している人が在職中に亡くなった時、厚生年金の加入を止めた後、厚生年金加入中に初診日のある病気や怪我で初診日から5年以内に亡くなった時、1級又は2級の障害厚生年金受給者が亡くなった時、ないし、老齢厚生年金の受給者又は受給資格期間を満たしている人が亡くなった時に遺族に支給されます。各共済組合の場合も同様の要件となります。
A15-2 離婚時年金分割と遺族厚生年金
離婚時年金分割は、離婚しないともらえませんが、遺族厚生年金は、離婚するともらえないので、経済的な意味で離婚したほうがよいのか、夫婦でいた方が良いのかが問題となります。
A15-3 支給開始時期
離婚時年金分割の場合、原則として妻自身が65歳以上にならないと支給を受けられません(繰上げ受給で60歳から支給が受けられる場合があります)。これに対して、遺族厚生年金の場合、妻自身の年金受給開始時期とは関係なく、夫が死亡した時支給されます。
A15-4 支給額
離婚時年金分割の場合、支給される額は、最大で分割の対象となる厚生年金の2分の1ですが、遺族厚生年金の場合、夫の受け取る老齢厚生年金の4分の3です。
遺族厚生年金は、老齢基礎年金と併給されます。ですので、妻が65歳以上になると、妻は、離婚していれば年金分割と老齢基礎年金を、離婚していなければ遺族厚生年金と老齢基礎年金を受け取ることになります。
A15-5 どうしても離婚したいと考えている方にとっては、どちらが良いかという問題ではないかもしれませんが、経済的に自立できなければ生活を維持できませんから、事前の準備が大切です。年金については、受給要件等複雑ですので、最寄りの年金事務所の相談窓口等で相談をされると良いでしょう。
2011年08月16日
Q&A 離婚時年金分割制度(14)
弁護士 石黒麻利子
残暑お見舞い申し上げます。今年は、例年より早く梅雨明け宣言が出ましたが、台風が相次ぎ、梅雨のような天気続きで、先週からようやく夏らしくなったものの暦の上ではもう秋ですから気持ちの上では、どうもすっきりしないのではないでしょうか。すっきりしないと言えば、離婚を考えるに当たり、離婚後の生活設計もなかなか明確にし難い問題です。今回は、離婚後の生活について考えてみたいと思います。
Q14 離婚した後、経済的にやっていけるか不安に感じています。分割された年金で生活できるでしょうか?
A14-1 分割で得られる年金額
離婚時年金分割で、どのくらい年金が得られるでしょうか?夫が年額300万円の年金(老齢基礎年金が120万円で、老齢厚生年金が180万円)を受け取る場合について考えてみましょう。わが国の年金制度は、国民年金(基礎年金・1階部分)、被用者年金(厚生年金・共済年金・2階部分)、企業年金等(3階部分)の3階建ての構造をしており、分割の対象となるのは、2階部分ですから、この例であなたがもらえるのは、年額、最大で180万円の半分の90万円、月額では、7万5000円になります。もっとも、これは夫が厚生年金の保険料を納付していた期間と結婚していた期間が同じだった場合の金額です。分割の対象となるのは、夫が支払った保険料納付実績(保険料納付記録)のうち、婚姻期間中の部分だけですので、通常は月額7万5000円より少なくなります。年金事務所に請求すれば分割の対象期間、夫婦の対象期間標準報酬総額等の情報通知書を交付してもらえますので情報提供の請求をして確認してみると良いでしょう。情報提供の請求については、Q&A離婚時年金分割制度(5)をご覧下さい。
A14-2 受給資格の問題
次に、考えなければいけないことは、老齢厚生年金の受給資格を充たしているかという問題です。受給資格は、国民年金の老齢基礎年金の受給資格があること、即ち、保険料納付済み期間あるいは保険料免除期間などの合計が25年以上あり、原則として65歳以上であることです。ですから、離婚時点で受給資格がある方は、分割された年金額を基礎にその後の生活設計を立てることが出来ますが、未だ受給資格を充たしていない方は、現時点では、分割された年金を受け取れないので、受給できるようになるまでの収入や資金を考えて生活設計を立てなければなりません。
A14-3 シミュレーションの必要性
持ち家があるのか、賃貸になるのか、手持ち資金はどのくらいあるのか、収入は得られるか、月々の生活費はどのくらいかかるか、病気の時など急な出費があっても賄えるだけの余力はあるか、自分が求めている生活水準を維持できるかなど、具体的に考えシミュレーションをしてみてはいかがでしょうか。
2011年06月20日
Q&A 離婚時年金分割制度(13)
弁護士 石黒麻利子
Q13:国民年金の保険料免除の制度についていろいろ説明がありましたが前回予告のあった法定免除とはどのような制度でしょうか。
又、東日本大震災で被災された方が大勢いらっしゃいますが、被災された国民年金被保険者は、国民年金保険料免除を受けられるのでしょうか。
A13-1:法定免除とは
1級又は2級の障害に関する障害基礎年金などの公的年金を受給している方、生活保護を受けている方、厚生労働省令で定める施設(ハンセン病療養所、国立脊髄療養所、国立保養所、その他厚生労働大臣が指定するもの)に入所している方は、本人の届け出により保険料が全額免除されます。
A13-2:被災者に対する国民年金保険料の免除
被災により、今後の保険料の納付が困難な場合は、免除の制度が利用できます。対象となるのは、以下の方です。
① 被災に伴い、住宅、家財、その他の財産についておおむね2分の1以上の損害を受けられた方
② 福島第一原子力発電所の事故に伴い、避難指示・屋内退避指示を受けた市町村に平成23年3月11日時点で住所を有していた方
免除の申請手続きは、平成23年7月末日までに行う必要がありますので、ご注意下さい。
被災による国民年金保険料免除の申請は、国民年金保険料免除申請書と被災状況届(国民年金保険料免除申請用)を市区町村役場の年金課か最寄りの年金事務所に提出して行います。代理人が申請する場合は、委任状が必要です。
保険料の口座振替を利用している方は、口座振替の停止手続きが必要ですので、年金事務所にご相談下さい。
詳しくは、日本年金機構のホームページをご覧下さい。国民年金保険料免除申請書と被災状況届(国民年金保険料免除申請用)のダウンロードも出来ます。
国民年金機構の被災者専用フリーダイヤルもあります。
0120-707-118
(月曜日~金曜日、午前9時~午後5時まで)