日本人の遺骨返還問題を話し合う日本と北朝鮮の赤十字協議と並行して、両国外務省の課長が中国・瀋陽で会談した。

 非公式とはいえ、1年4カ月ぶりの政府間協議が実現した。

 前回協議は、北朝鮮の事実上の長距離弾道ミサイルの発射実験で頓挫したままだった。

 この国は外交で奇手を繰り出し、軍事で挑発を重ねるのが常である。だから、日本は米韓とともに、対話と圧力の両構えで臨むことを基本としてきた。

 外交の振り子は久しぶりに、圧力一辺倒から対話へと向かう兆しが出てきたわけだが、細心の注意と準備が必要だろう。

 ひとまず今後も北朝鮮を突き放さず、だが、のみ込まれることもなく、根気強く説得する作業を覚悟せねばなるまい。

 日本と韓国は来年、国交正常化50年を迎えるが、日朝間にはいまだ国交がない。隣同士なのに異常というほかない。

 だが、とくに拉致問題について北朝鮮の態度には誠意がないままだ。核開発も続けている現状では、国交正常化を求める機運も生まれない。

 そのなかで芽生えた対話の動きをどう生かすか。まず肝心なのは、真剣に関係改善の歩を進める用意があるかどうかの意思確認と環境づくりであろう。

 現実的には、協議にかける日朝の思いはかけ離れている。

 拉致問題や核・ミサイル問題を論点としたい日本に対し、北朝鮮側は制裁緩和や支援の取りつけを促すねらいだ。

 拉致問題について北朝鮮は08年、いったん再調査を約束したが、日本の首相交代を受けて棚上げし、その後はまた「解決済み」と後退させている。

 北朝鮮は今後も再調査をちらつかせて日本側の譲歩を引きだそうとするだろう。

 日本政府には、その戦術を見通したうえで、北朝鮮を要求に応じざるをえない状況に導くような巧みさが求められる。

 そのためには、米国や韓国との歩調合わせが欠かせない。

 北朝鮮は最近、韓国にも対話攻勢をしかけている。日韓への秋波の裏には、最重視する交渉相手の米国を直接協議に誘い出したい思惑があるはずだ。

 日米韓が足並みを乱せば、北朝鮮を利する。だが、韓国には今の日本は独走しかねないと警戒する声がある。それは安倍政権と朴槿恵(パククネ)政権との距離感がもたらす、すきま風といえよう。

 日韓、日米の意思疎通を緊密にし、北朝鮮に付け入る隙をみせてはならない。したたかに、複眼的な対話を進める日本の外交力が問われている。