「21世紀の欧州で起きた最大の危機である」。混迷を深めるウクライナの首都を訪れた英国外相はそう語った。

 ウクライナ南部のクリミア半島でのロシアの軍事行動が、情勢を一層緊迫させている。

 黒海艦隊の部隊は半島をほぼ制圧した。ウクライナ東部へも軍事展開しかねず、国際社会は「信じられない侵略行為」(米政府)と非難している。

 ロシアは、このまま強硬策を続け、世界から孤立する道へ突き進むつもりなのか。プーチン大統領は一刻も早く、軍を撤収させる決断をすべきである。

 ロシアは、ウクライナ国内のロシア系住民の保護を軍事行動の主な名目にしている。

 だが、半島でも、ほかのウクライナ領でも、ロシア系住民が迫害された事態は見られない。ロシアの駐留部隊への攻撃も起きていない。

 現実には、ロシアが親欧米派のウクライナ新政権に武力で圧力をかけているのが実態だ。

 米国と欧州連合(EU)は、独立国の主権や領土保全を侵す行為は国際法違反とし、ロシアへの制裁に向け動いている。

 渡航の制限だけでなく、資産凍結や貿易・投資の規制などの経済制裁が実施されれば、ロシア経済に打撃となる。

 安全保障でも今後の米欧との軍事交流は期待できなくなる。ロシアが警戒する西側の軍事組織、北大西洋条約機構(NATO)は、ウクライナ情勢を受けて対応を検討し始めた。

 プーチン氏は、ロシアにとっての真の国益を真剣に考えるべきだ。冷戦時代さながらに周辺国の領土に踏み入るのは時代錯誤というほかない。

 近年の国連でのシリアやイラン問題などの論議でも、ロシアは国家主権の尊重をかねて唱えてきた。その理屈を自ら捨て去る愚挙はやめるべきだ。

 米欧側は、EUや欧州安保協力機構(OSCE)を挙げてロシアへの説得を強めねばなるまい。国連とOSCEが合同で取り組む当事者の仲介も、早急に実現するべきだ。

 日本政府も「すべての当事者の最大限の自制」(菅官房長官)を求めており、冬季五輪の開催地ソチで6月に開く主要国首脳会議(G8サミット)の準備活動を停止した。

 だが、米欧と比べてロシア批判のトーンは明らかに弱い。

 安倍首相は就任以来、プーチン氏と5回も会談し、「個人的信頼関係を深めた」と強調してきたはずだ。ならばこの危機にこそ、積極的な平和外交の役割を探るべきではないか。