大物政治家の事務所、警視庁幹部OB、ゼネコンが絡んだ利権の構図が明らかになった。東京警察病院の建設をめぐる西松建設の現金供与疑惑。5年間の取材で、真相に迫った。(久木良太)

 2009年2月24日、長野市内の電柱で首をつった男性(当時59)が見つかった。男性は、元国家公安委員長で当時長野県知事だった村井仁氏の側近。長く秘書を務め、当時は県参事として仕えていた。

 この日、東京地検特捜部による男性の事情聴取が予定されていた。西松建設の裏金事件の捜査だった。

 「おちょうし1本」(=1千万円)。西松建設はそんな暗号を用い、海外から裏金を持ち込んでいた。特捜部は同年1月、外為法違反の疑いで国沢幹雄元社長らを逮捕。国沢元社長は裏金の使途として、元警察庁長官の故・後藤田正晴氏の秘書に500万円、村井氏の秘書に1500万円を渡したと供述していた。

 後藤田氏は官房長官や法相を歴任して1996年に政界を引退し、東京警察病院の入札直後の05年9月に死去。村井氏は入札直前の同8月の「郵政解散」まで衆院議員を務めていた。

 関係者によると、特捜部は、入札公告時に現職議員だった村井氏側への現金供与に違法性があるかどうかを探っていた。特捜部の参考人聴取で、後藤田氏秘書は500万円の受領を認め、調書に署名したという。

 村井氏秘書の参考人聴取は09年2月20、23日に約6時間ずつ都内のホテルで行われた。両日の聴取では核心に至らず、検事は「詳しい話は明日聞くからよく考えておいて」と伝えた。

 その翌日に秘書が自殺。秘書らが口利きをした自警会の人物も特定できない段階で捜査は頓挫した。