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冨山和彦・40代以上は「何ができるか(スペック)」より「どんな人物か」が評価される

『THE21』2014年3月号より》
<取材構成:村上敬/写真:まるやゆういち>

 

スペックではなく固有名詞で勝負する年代

冨山氏にとって40代は飛躍の時代だった。42歳のとき、独立系戦略コンサルティングファームのトップから、新たに設立された産業再生機構のCOOへと転身。同機構はカネボウやダイエーなど計41社の再生支援を行ない、冨山氏の手腕は広く知られることになった。

 「40代は、心技体のバランスが一番いい時期ではないでしょうか。20~30代は新しいものに挑戦していくエネルギーや創造性に溢れていますが、経験値が低いため、自分の持っているものをどう活かしていいのかわからないところがあります。それが見えてきて、なおかつ挑戦の意欲を失っていないのが40代。その意味では、ビジネスパーソンとしてのプライムタイムと言って良いと思います。

 スペックから固有名詞の勝負に変わるのも、40代の特徴の1つです。30代までは、TOEICが何点だとか、何かのスキルを持っているというスペックによる転職が可能です。つまり求められるスペックを満たすなら、どこの誰でも基本的には構わないわけです。しかし、40代に入ると、スペックだけでは通用しません。それよりも大切なのは、『○○さん』『××さん』という1人の人間としての評価。具体的に言うと、『○○さんって知ってる? 信用できる人なの?』という関係性の中で評価が決まるのです。

 20~30代でいい加減なことをやってきた人は、いくらスペックが高くても、どこかで悪評が立っています。社内外にかかわらず、重要なポジションに就く人を評価するときは必ず照会を取るので、そういう人はすぐにバレる。つまり40代は、これまでに蓄積してきた信頼性を改めて問われる時期と言えるでしょう」

 

つまらない仕事にも真摯に取り組む姿勢

40代は固有名詞勝負に突入するといっても、前提としてスペックは必要だ。40代までに磨くべきスキルとは。

 「何歳だからこのスキルが必要という以前に、自分の世界観にあった働き方を考え、それに必要なスキルを身につけていくことが重要ではないでしょうか。ビジネスパーソンには、大きく2通りの生き方があります。1つは、自分でコントロールできる割合は少ないが、ある程度は組織が守ってくれるという生き方です。これは大きな船の乗組員になるようなものです。一方、大きな船より沈みやすいけれど、自分でコントロールすることができるヨットのような生き方もあります。

 大学を卒業するとき、私はヨットのような働き方のほうが自分には愉快だろうと考えました。ただ、ヨットで航海するためには、ヨットを操縦する方法を覚えないといけません。具体的には語学ができたほうがいいし、何か資格も取っていたほうがいいと思ったからMBAも取った。必要なスキルとはそうやって決まっていくもので、私か大きな船に乗りたいと思うタイプだったら、また別のスキルを磨こうと考えたかもしれません。

 いずれにしても、40代になってから必要なスキルを一気に身につけるというのは無理です。スキルは一朝一夕に磨けないので、20代のうちから時間をかけて1つひとつ身につけていくしかない。たとえば30歳で留学することを目標にTOEICで800点取ると決めたら、カラオケやゴルフの回数を減らしてコツコツやっていくしかないと思います」

スキルを磨く機会は普段の仕事の中にもある。冨山氏は、「20~30代はOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)のつもりで仕事をしてきた」と語る。

 「若い頃は、自分の希望と合わない仕事を任されることも多いはずです。でも、一見ダサく見える仕事やつまらなく感じる仕事こそ、OJTの良い機会になると思って取り組んだほうがいいでしょう。

 私の場合、携帯電話会社立ち上げの仕事がそれにあたりました。当時、私がやったのは、“どぶ板営業”。戦略コンサルタントの世界とは180度違う仕事でしたが、現場の生々しいオペレーションを経験したことは間違いなくいまの自分にプラスになっています。

 実際にやって気づいたのは、どぶ板の世界で実現しない戦略を語っても仕方がないということです。たとえば営業の代理店を探すとしましょう。コンサルタントの視点で考えると、大組織に頼んだほうが営業力があっていいという結論になります。実際、私もそう考えてグループ数万人の大きな事業会社と組みました。ところが、やってみるとうまくいかない。むしろ小さなベンチャー企業に頼んだほうがうまくいくのです。大企業のほうが機能しなかったのは、当時まだ携帯電話が新しい産業で、担当者が課長1人だったから。課長級の人が1人で自社の巨大なディーラー網に働きかけても、みんな言うことを聞いてくれないですよね。このようにどぶ板レベルで起きることについてわかっていないと、いくら華麗な戦略を立てても頓挫します。だから地味で退屈に見える仕事も、勉強だと思って取り組む必要があるのです。

 自分の本意ではない仕事に取り組む姿勢は、40代になってからの固有名詞勝負にも影響します。私か産業再生機構のCOOになったときもそうでしたが、チャンスというのは誰かが授けてくれるものです。自分で勝ち取ったように見えるチャンスも、誰かが認めてくれたからこそめぐってきたわけです。若い頃、『この仕事はつまらないから適当にやろう』と腐っていた人に、誰もチャンスをやろうとは思いませんよね。その点でも、目の前の仕事に真摯に取り組むことは大事です」

 

負け戦から逃げる人は責任ある地位に就けない

40代は、部長や事業責任者といった重要なポジションの候補に挙がる時期。企業の再生支援で多くの社長選定に関わってきた冨山氏がチェックするのは、やはり人として信頼できるか否かだ。では、信頼できる人とはどのような人なのか。

 「固有名詞の勝負になるというと、偉い人に好かれていればいいと勘違いする人がいますが、それは間違いです。偉い人にだけペコぺコしていて、そうではない人を軽く扱う人もいますが、軽く扱った人の中から将来すごく偉くなる人も出てきます。その結果、本人は覚えていないけど、昔の行ないで恨まれているというケースが少なくない。実は私も逆の立場で、『あの人には無名の頃ぞんざいに扱われた。絶対許さないぞ』という人が何人かいますからね(笑)。

 ステイーブージョブズは、未来に向けてドット(点)をつなげるのではなく、現在から過去を振り返ったときに初めて、これまで打ってきたドットがつながるといいました。人との出会いや仕事も同じ。若い頃から1つひとつドットを打ってきた積み重ねが40代で1つの絵になるのであって、それが美しい絵になるのか、醜い絵になるのかは、後にならないと見えてきません。だから、『この人は将来、偉くなりそうだから仲良くしておこう』という考えは危ない。タテヨコ関係なく、誰に対しても誠実であることが重要です。

 また、卑怯な人にも重要な仕事は任せられません。とくにダメなのは、保身のためにウソをついて逃げる人です。私はビジネスにおいてウソをつかなければいけないシーンもあると思っています。ビジネスは戦争と同じで、全局面で勝つことはできません。ときには見捨てなくてはいけない戦線もありますが、それでもトップは『頑張れ、勝てるぞ』と励まさなくちゃいけない。こういうウソは便法で、必ずしも否定できるものではないでしょう。しかし、自分が生き延びるためにつく責任逃れのウソは良くない。それだけで信頼を失います。

 そういうウソを1度でもついた人は、評判がすぐに広がります。40代以降の世界はスモールワールド。生き残っている人の数が少なく、会社でも部長以上になればみんな顔見知りでしょう。不特定多数ではない固有名詞の世界なので、大人数に紛れて姑息に生き延びることができなくなるのです。

 そもそも、負けを必要以上に恐れる必要はありません。去年ヒットしたドラマ『半沢直樹』で、関連会社に出向になった銀行員が人生終わりだという表情をしていましたよね。でも、失敗して出向の憂き目にあっても、給料や年金は保証されています。日本の大企業に勤めるサラリーマンは、負けてもその程度です。それなのに、負けから逃げたり責任逃れに終始すれば、周りから信頼を失うだけです。

 だいたい、負け戦から逃げたら、敗囚分析もできないじゃないですか。負けたときにきちんと敗戦処理までやれば、その経験を次に活かすことができます。しかし逃げたら何も残らない。どのような立場でも、負けを自分のものとして受け止めて学んでいく。その姿勢を持った人はスキルも伸びるし、人間性も高く評価されるのです」

 

<掲載誌紹介>

2014年3月号

<読みどころ>ビジネスマンにとっての働き盛りである「40代」は、キャリアの集大成に向かう時期です。仕事の経験が蓄積され、ベテランと呼ばれる域に入り、プレイヤーからマネジャーにシフトする人もいます。では、40代から評価されたり、頭角を現わす人と、失速してしまう人は、どこが違うのでしょうか? 今月号では、各界で活躍する方々に、40代をどう過ごすべきか、アドバイスをいただきました。

 

THE21

 

BN

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