第90話 軍団名
夜が明け、地獄の狂乱も鳴りを潜める。
破壊された結界石からは未だに竜騎兵が出てくるが、数は1、2匹とごく僅か。
エルフ、黒エルフの兵士達だけで十分対応できるレベルだ。
どうやら結界石下は、無限に竜騎兵やバジリスクが湧き出す装置的役割を担っているらしい。
つまりあそこはダンジョンの入り口的なものなのかもしれない。
今度は昨夜のように大量に湧き出させないため、兵士や冒険者を募ったり定期的に結界石ダンジョンを攻めることになった。
近いうちに冒険者斡旋組合にクエスト依頼するようだ。
結界石破壊から数日後、オレ達は王座へと通された。
ハイエルフ王国、エノール国王との謁見。
「まず最初にこの国と娘、ルナを助け出してくれた礼を――」
国王の言葉に1本のナイフを丁寧に運び、渡してくる。
シンプルな作りで、ハイエルフ王国の刻印が鞘に彫り込まれていた。
稀少金属である神鉄で作られたナイフ。すでに失われている技術で作られており、値段は一般的な市場では付かないほどの品物らしい。
確かリースが大蠍退治に持ってきていた細剣も神鉄製だったな。
そんな稀少な剣で薪を作るため、木を貫通しへし折ろうとしたのは懐かしい思い出だ。
オレが思い出し笑いで、口元がにやけそうになると国王が話を進める。
「我が国を救ってくれたリュートの功績を讃え、『名誉士爵』に授与する」
おぉぉ! 成り上がり!
『名誉士爵』で年金、土地、義務は発生しないが、代わりに人種族でありながらハイエルフ族とある程度同じ立場を得ることが出来る。
つまり好きにウッドキャッスル内を出入りすることが出来るのだ。
人種族がハイエルフ族の貴族に取り立てられたことは歴史上1人しか存在しない。人種族側の勇者だけだ。
オレで2人目らしい。
これはかなりの快挙だ。
ハイエルフ族とお近づきになりたい貴族や大商人などであれば、喉から手が出るほど名誉貴族の名前を欲しがるだろう。
またオレを貴族にすることで、今回のクリス誘拐未遂事件は身内から出た犯罪ということで内々に問題を片付ける――という思惑もあるのだろう。
もちろん今回の計画を企てたハイエルフの若者達、関与した人種族達は厳しく罰すると約束してくれた。国王の怒りの表情からすると、かなり厳しい罰となるようだった。まあ、愛娘が売り飛ばされる寸前だったのだから、当然と言えば当然だが。
ルナを輸送していた組織もハイエルフ側が調べたらしいが、詳しいことは分かっていないとのことだ。
さらに今回の件でハイエルフ王国は、冒険者斡旋組合にオレ達をレベルⅤの冒険者にするよう働きかけてくれたらしい。
大蠍やバジリスク、竜騎兵を続けざまに倒す冒険者が、いつまでもレベルⅢ以下というのはあり得ないからだ。
時間が出来たら冒険者斡旋組合へ行き、手続きを済ませるといい――と勧められる。
他、今回かかった費用は全てエノールが負担するし、報酬として同額の金額を出す。またシアを奴隷として購入した代金もそこに含まれているが、奴隷としての身分から解放するかはこちらに判断を委ねるらしい。
「もし困ったことがあったら、我が国は恩義を返すため全力で君達に力を貸そう。この恩は決して忘れない」
国王は本心から漏らすように礼を告げる。
また名誉士爵になったことで家名と紋章を数日中に決めて欲しいと言われる。
家名に紋章か……その辺についてはスノー達とも交えて決めていけばいいだろう。
さらに数日中に戦勝パーティーを開くから出席して欲しいと告げられた。これに対して断る理由もなく快諾する。
オレ達は一礼して王座を後にした。
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次にオレ、スノー、クリス、シアが向かった場所は湖外の冒険者斡旋組合だ。
レベルⅤに上げてもらう手続きに来たのだ。
冒険者斡旋組合の別室――個室に通され、竜人大陸でいつもお世話になっている受付嬢の妹さんに軍団について改めて説明を受ける。
「軍団創設条件はお聞きになっていますよね?」
「はい、お姉さんに教えて頂きました」
「では、私は創設条件後のお話をさせて頂きます」
受付嬢が説明を始める。
「まず軍団を創設するに当たって、軍団名と旗印をお決め下さい。旗印は創設者が貴族様の場合、自家の紋章をお使いになったりします。もちろん新たにお作りになっても問題ありません」
ならオレもこれから作成する貴族の紋章に使う印を、軍団旗にも使うか。
「軍団に所属してない冒険者には知らない方が多いですが、軍団にもランクがございます」
軍団にも冒険者と同じようにランクがあるなんて知らなかった。
「こちらは数字ではなく銅、銀、金、ミスリル、神鉄で区切らせて頂いております。冒険者斡旋組合では、この軍団ランキングに基づきクエストをお願いしております」
銅が新人。
銀がベテラン。
金がプロ。
ミスリルが一級。
神鉄がトップ級という区分らしい。
「軍団ランキングは、冒険者タグと同じように冒険者斡旋組合が勝手に決めさせて頂いております。その判断基準は常に公平。種族差別は一切ありません。5種族英雄の名に賭けて」
冒険者斡旋組合は軍団のやり方に一切関知しない。
だが、あまりに悪質な場合は介入する。
「軍団は一般冒険者とは違った常識、法、力が存在します。故にレベルⅤに到達し、軍団を立ち上げたせいで命を落とした冒険者もいらっしゃいます。それでも立ち上げますか?」
「もちろんです。けど、だったらなぜ軍団を好き放題させているんですか?」
「より強い組織、人材、開発――などを冒険者斡旋組合が望んでいるからです。相手はドラゴン、巨人、最悪魔王とだって将来矛を交えるかもしれませんから」
魔王って……冒険者斡旋組合は随分、物騒なことまで考えているんだな。
だが実際、魔物達は年々凶悪化し、対処する人手もまだまだ足りない。
冒険者では散発的な対応しか取れず、レベルもまちまちで均一ではない。そうすると組織だった行動がとてもし辛くなる。
(綺麗な言葉で言えば切磋琢磨して、より強い力を得よということか? 率直な言葉で言えば力が全て、冒険者斡旋組合は関知しない、か。そう考えると冒険者と軍団とでは随分世界観が違うな……)
冒険者は基本的に自分、多くても数人の仲間、チームメイトのことだけを考えればいい。しかし軍団は組織の運営だ。
会社と個人事業主の違いか?
「さらに細かい要点は、こちらに記されておりますので必ずお目通しください」
渡された紙束には軍団所属数、1年の大雑把な事前活動報告、拠点位置、クエスト依頼窓口、税金計算方式、新規人材加入の手続き――等、かなり細々とした注意点、必要事項が記されてあった。
これは全てに目を通し、理解するのにかなりの時間がかかりそうだ。
受付嬢はこちらの苦労を知りつつ、笑顔で応対する。
「ではまず近日中に軍団名、旗図案、登録料の3点をお持ち下さい」
「あの、先に名称だけ知らせておくことはできますか?」
「はい、もちろん構いませんよ」
受付嬢が笑顔で頷いたため、オレは密かに温めていた軍団名を告げた。
「軍団名は――『PEACEMAKER』でお願いします」
この瞬間、伝説となる軍団の名前が決まる。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明日、2月14日、21時更新予定です。
ついに軍団名発表まで来ました!
後は家名&紋章の図案も作中に出していきます。
引き続き続きも頑張っていきたいと思います!
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