第81話 黒い御人
ウッドキャッスルを追い出されたオレは、スノー達と合流し飛行船で国外へと出る。
国外と言ってもエノールの国境すぐ側だ。
一応、誘拐犯達の要求通り、国外には出ている。
オレ達は飛行船から下りて、国境ギリギリでまず待機する。
もちろんフル装備だ。
メイヤが不機嫌そうに溜息をつく。
「しかしまさか本当にリュート様を追い出すとは、失礼にも限度がありますわ!」
「まぁまぁ、娘を人質に取られてるんだ。慎重になってもしかたないよ。それにルナはオレ達が助けるんだろ?」
「助けると言えばリュートくん、ちゃんとリースさんからルナちゃんの品物受け取ってきた?」
「もちろん、抜かりはないよ」
スノーの質問にオレはポケットから取り出したハンカチで答える。
「後はちゃんと指示通り、あいつがこっちに来てるかだけど……クリスちょっと呼んでみてくれ」
『分かりました』
クリスはミニ黒板から一旦手を離して、片方の手で○を作り口に当てる。
大きく息を吸い込んで、
「ふしゅー」と、鳴らす。
数秒後、草木の影からルナがいつも騎乗していたサーベルウルフのレクシが姿を現す。どうやら予定通り付いてきてくれたみたいだ。
クリスは怯えもせず、レクシの顎をわしゃわしゃと撫でる。
オレはサーベルウルフのレクシを警察犬のように使って、ルナを探そうと提案したのだ。
犬の嗅覚は人よりも遙かに優れている。
人の嗅覚の1千倍から1万倍も鋭い。
サーベルウルフはさらにその上をいっている。
その嗅覚を使って人捜し、麻薬、医療でも犬の嗅覚でガンを発見する方法が研究されていると、ネットやテレビで観た覚えがある。
ちなみに前世のアメリカには、犬の嗅覚を使い爆発物を発見する専門の部隊――爆発物探知犬部隊が存在し、シークレット・サービス、税関、国立公園警察、軍、数多くの文民警察機関がテロリストや愉快犯が隠した爆弾を探すのに犬の嗅覚に頼っている。
この部隊は1975年に創設された。
犬と調教師の組が30組あり、勤務時間の80%を爆発物探知、20%をパトロール任務に充てている。
訓練はメリーランド州ベルツヴィルのシークレット・サービス犬訓練所で、20~26週間かけて行われる。
訓練内容は梯子や窓、渡り廊下などの障害物を通ったり、容疑者を追う訓練をこなす。またRDXやセムテックスなど13種類の爆発物を嗅ぎ分ける訓練も行われる。
麻薬探知犬の場合は不審人物に噛みついたり、揺すったりするよう訓練されるが、爆発物探知犬は爆発物の疑いのある物体を嗅ぎつけたら座るように訓練される。
犬が爆弾に噛みついて、揺すったりした場合、爆発する恐れがあるからだ。
そんな爆発物探知犬が隠されたプラスチック爆弾を探知する確率は75%以上とされている。
100%ではないが、探知出来ないよりマシだ。
それにあくまで爆発物探知犬は、爆弾を発見するためのシステム全体の1つでしかない。
話を戻す――オレはルナの匂いが染みこんだハンカチを、レクシの鼻に近づける。
「頼むぞ、レクシ。オマエの頑張りにご主人様の命がかかってるんだからな」
ハンカチから顔を離すと、エノール国境を目指し動き出す。
「メイヤはいつでも飛行船を動かせるように、準備をしておいてくれ」
「分かりましたわ! リュート様、皆様方、どうかご武運を!」
オレ達は腕を上げメイヤの言葉に応えると、エノールを目指して走り出した。
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――第3者視点――
リュート達が国外退去してから3日後の深夜。
結界石周辺は魔術の光が灯され、24時間約50人ほどの兵士によって警備されている。
結界石の警備に就ける兵士の条件は、魔術師B級以上という狭き門。
ウッドキャッスル内で尤も栄誉ある業務ということもあり、仕事に就く兵士達は深夜にも関わらず誰1人欠伸すらする者はいなかった。
それだけ結界石の警備という仕事に誇りを持っているのだろう。
「――なっ!?」
だからこそ驚愕する。
魔術師B級以上、約50人の警備兵が周囲をぬかりなく監視し続けていた。
なのに1人、黒ずくめの何者かが、結界石の前に佇み手を触れていたのだ。
頭まですっぽりと隠す外套。
ズボン、手袋、ブーツ、顔を隠す仮面は空気穴1つない。
夜天を切り抜き人型にしたような人物だった。
お陰で男なのか、女なのか性別すら分からない。
「貴様! 何をしているか!」
「今すぐ奴を取り押さえ、結界石から引き剥がせ!」
だが誰も黒ずくめに触れることすら出来なかった。
なぜなら兵士達、約50人の頭部、胸、胴体に風穴が空いたからだ。
一瞬にして魔術師B級以上の兵士、約50人の死体が出来上がる。
噎せ返るような血の匂いが漂うにも拘わらず、黒ずくめは微動だにせず結界石に触れ続ける。
ゴ――
最初は漣のような小さな揺れ。
ゴゴゴ――
次第に揺れは大きくなっていく。
気付けば結界石の周囲だけ噴火前の火山活動のように揺れ動く。
地面が割れ、防壁に罅が刻まれ、木々が倒れる。
――バガァンッッ!!
そして、最終的に火山が爆発するようにピラミッド状の結界石が大噴火してしまう。
結界石の破片はまるでシャワーのように黒ずくめへと降り注ぐが、当の本人はまったく気にしていない。
一仕事終えた達成感も、自身の力を使用した結果に満足する訳でもない。ただ必要だった事務仕事を終えたように淡々としている。
黒ずくめの頭上に、一抱え以上はある結界石の破片が落下してくる。
破片は地面に落下しめり込むが、その場に黒ずくめはいなかった。
まるで悪い夢か、怪談話に出てくる怪物のように、黒ずくめはその場から姿を消したのだ。
地獄の釜が蓋を開く。
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リース自室。
彼女はシアの淹れた香茶の湯気をぼんやり眺めていた。
「リュートさん達は、ルナの所在を突き止めているのでしょうか……」
「大丈夫ですよ、若様達ならきっとルナ様を無事助け出してくれますよ」
「そうよね。リュートさん達の仲間である私達が信じなければいけないわよね」
自身を慰めるようにリースは自身に言い聞かせるように話す。
――ドン!
「「!?」」
腹に響く破壊音。
突然の出来事に護衛メイドであるシアは、腰を落とし何が起きても主であるリースを守れるよう構える。
破裂音は収まるが、
『ピイィイィィィィィィイイイィィイッ!!!』
耳に響く嘶き。
リースは冷たい汗を大量に掻いてしまう。
「まさか、もう結界石が破壊されたの!?」
数日以内と予想はしていたが早すぎる!
彼女は椅子から立ち上がると、自室の扉へと駆け出す。
「ひ、姫様、どちらへ!」
「結界石の様子を見てきます。シア……付いて来てくださいますか?」
恐らく記録帳に書かれている通り結界石は破壊されたのだろう。
つまり向かう先は『バジリスク』『竜騎兵』が溢れる戦場、地獄だ。本来ならその場に向かうなど自殺行為で、今ならまだ彼女1人ぐらいなら逃がすことは難しくないだろう。
しかしシアは、怯えもせず力強く微笑む。
「もちろんです。ボクは姫様の護衛メイドで、若様達の仲間なのですから」
「ありがとう、シア」
リースは自身の護衛メイドに礼を告げると、宮廷用ドレス姿で結界石のある裏庭へと走り出した。その後をシアがメイド服姿のまま続く。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明日、2月5日、21時更新予定です。
と、言う訳で。今回でラスボスっぽいのが登場しました!
他にもこの後、色々因縁、伏線回収、新たな伏線等ありますのでお楽しみに!
また多数の誤字脱字報告をして頂きありがとうございます!
本当に誤字脱字多くてすんません。
近日中に修正したいと思います。本当にご報告して頂きありがとうございます!
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