第77話 手紙
「本当にすみませんでした!」
あの後、片付けを終えオレ達は馬車まで戻って来た。
時刻はもう夕方。
今日はこのままこの場で野営する。
リースは自分を庇い傷を負ったオレに、何度目か分からない謝罪を繰り返す。
すでに大蠍の毒は魔術で治癒されているが、体は痺れて動かし辛い。
馬車までスノーとシアの肩を借りて戻ったほどだ。
現在、馬車内部で寝かされているオレの横でリースが涙目で頭を下げている。
スノー、クリス、シアは野営、食事等の準備中だ。
オレはそんなリースに声をかける。
「何度も言ってるけど、あれはリースのせいじゃないよ。もし責任を問うなら、洞窟周辺に散らばった骨の多さの意味に気づけなかったオレの責任、リースのせいじゃないって」
「ですが……私がもっと周囲に注意を向けていれば、リュートさんが毒針に刺されることはなかったんです。姉様のようにもっと私がしっかりしていれば……」
ギュッ、と膝に置いた手を硬く握る。
「……リースがお姉さんにどんな思いを抱いているかは分からないけど。オレはリースが仲間に居てくれて本当によかったと思ってる。お陰で荷物を気にせず運べるし、パンツァーファウストで無事大蠍を倒すことができた、毒針を受けてもリースの解毒で命拾いした。だから何度でも言うよ。オレはリースが仲間になってくれて本当によかった」
「リュートさん……」
「わたしもだよ!」
外で野営&食事準備をしていたスノー達が会話に混ざる。
『私もリースお姉ちゃんが仲間になってくれて本当に嬉しいです』
「姫様。僭越ながらボクも姫様と一緒に寝食を共に出来て光栄に思っています」
「み、皆様……」
彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。
しかし、そこには悲しみの色は見えない。
「オレはリースが危険になったら絶対に、何度でも助けに行くよ。だから、リースもオレ達が危険に陥ったら助けてくれないか?」
「――あたりまえじゃないですか。私達は大切な仲間同士なんですから!」
彼女は涙を指先で拭うと、雲1つ無い晴天のような笑顔で答えた。
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大蠍討伐後、再び約7日かけてハイエルフ王国、エノールへと戻る。
朝方には、メイヤとの挨拶もそこそこにウッドキャッスルへと呼び出される。
通された場所は城の中庭だ。
証拠の大蠍の体液で、城を汚すわけにはいかない。
約10メートルの親。
約5メートルの子。
リースの加護で収納されていた2体が出現する。
「ま、まさか本当に倒してくるとは……しかも2体も」
国王以外の大臣達までも驚きの声をあげた。
リースはまるで生まれ変わったような堂々とした態度で国王に告げる。
「お約束通り、グリーン・ホーデンに住み着いた大蠍を討伐して来ました。お父様、これでリュートさん達の実力をお認めになってくださいますね?」
国王は目の前の事実にあからさまな渋い顔をする。
「まさか本当に手紙通りに――いや、しかし……」
「お父様?」
1人世界に閉じ籠もり呟く父にリースは怪訝な顔を向ける。
「……分かった。約束だからね。好きにしなさい」
「し、しかし国王! 結界石を疑うと言うことは我らハイエルフ族の勇者様のお力を疑うのと同義! それはあまりに不謹慎では――」
「宜しいでしょうか」
大臣の訴えにリースが割って入る。
「父は私と交わした約束を守っているだけに過ぎません。この件に関しての責任は全て私にあります。もし期限を過ぎても結界石に異変がなかった場合は、私はどんな責めを受けても構いません。ですから、どうか数ヶ月だけ時間を頂けないでしょうか?」
リースがはっきりと『責任は自分が取る』と断言したため、大臣達もそれ以上の言及はし辛く黙り込んでしまう。
お陰で『結界石が破られるという第一王女の予言について、他言しない』という条件付きで彼らからの許可も取り付けた。
確かに『結界石の力を王族が率先して疑っている』と内外に広まったら、ハイエルフ族の面子は丸潰れだ。
もちろんオレ達は了承し、他言しないことを誓った。
こうして名実ともに、結界石破壊のXデイに備える許可を貰うことが出来た。
オレは早速湖外にある屋敷に戻り、メイヤが作っているだろう汎用機関銃――PKMや7.62mm×54Rの調子を確かめよう。
だが、この決定に不満を抱く層――まだ年若い(と言っても200歳は越えているが)ハイエルフ達が集まり、密談を交わしていた。
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ウッドキャッスル内の暗い部屋。
光は一切無い。
彼らは互いを確認せずとも、声だけで分かるため必要としない。
何故なら、彼らはこの広い世界で約300人しかいないハイエルフ族だからだ。
「神聖な結界石が崩壊するなど……口にするのも腹立だしいのに、他種族の子供達だけに守らせようとは……」
「例え結界石が破壊されたとしても、我々だけで十分対応できるのに」
「そうだ! そうだ! 例えこの国が危機にさらされても我々だけで十分対応出来る! 勇者の1人だった末裔である我々、ハイエルフ族のみで! そのため長年、結界石の側で見守り続けてきたというのに……ッ。あまつさえ、姫自身が人種族の小僧を『勇者』と崇めている始末。なんたる屈辱!」
「ララ様さえいらっしゃれば、このような事態は起こらなかったはずなのに……。このままでは、あの出来損ないの『傾国姫』が次期女王など考えるだけで気分が沈む」
「あの女が女王となったらこの国は本当に傾くかもしれんな」
「冗談でも質が悪いぞ」
男達の話が途絶えると、リーダー格の人物が告げる。
「……あの人種族共を、このエノールから叩き出そう。それしか方法は無い」
「しかし今回の件は国王も許可を出している。表だって反対するのは不味いのではないか?」
「仮に叩き出すとしても、我々の手でやるのか?」
リーダー格のハイエルフが失笑を漏らす。
「まさか。なぜ選ばれた一族である我々が、あんな子供ごときのため動かなければならない? こういう場合、やりたがる者にやらせればいいのだ」
「やりたがる者?」
「今回の礼として、我々が面会でもしてやるとちらつかせれば、同じ人種族の貴族や大商人が食いつくだろう。他にも手を上げる者はいくらでも居るさ」
ハイエルフの若者達は、その言葉に『なるほど!』と、如何にも名案だと頷く。
「高貴なる我々は、ただ指示を出すだけでいい。汗水垂らして動くのは他種族がやればいい。……それが特別な存在、特権というものだ」
暗い部屋で、静かな笑いが響き渡った。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明日、2月1日、21時更新予定です。
明日でもう2月。早いものですね。
2月中も頑張って(出来る限り)毎日更新を継続したいと思います!
なので楽しんで貰えたら嬉しいです。
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