“攻め”の社会保障という発想の転換が必要だ
具体的に考えてみよう。まず労働市場改革について言うと、正規労働者と非正規労働者の区別をなくすことが重要だ。全員が年金、健康保険、雇用保険に加入することができるようにする。その上で、短時間労働にするか長時間労働にするかは個人が自由に選べばいい。
オランダでは1982年に政労使の間で「ワッセナー合意」が交わされ、いわゆるワークシェアリングが導入された。労働者の雇用とセーフティネットが確保される一方で、労働分配率の低下によって企業の競争力が高まった。北欧モデルにも通じるこのオランダモデルを、日本でも実現すべきだ。
教育改革については、教育と職業訓練の一体化が不可欠だ。現状では、教育は文部科学省、職業訓練は厚生労働省がそれぞれ行っている。この垣根を取り払い、労働者の育成という点で効率化を進めていく。
最後に、社会保障改革については、年金・医療・介護以外の分野をもっと重視する必要がある。国際的に見て、日本の年金・医療・介護は十分に高い水準に達している。まだまだ足りないのは子育て支援、家族支援、女性の復職支援といった分野だ。そこに的を絞った社会保障改革が行われなければならない。
日本人は、社会保障とは弱者を助けることだと思い込んできた。しかし、スウェーデンのように、経済を強くするための“攻め”の社会保障にもっと注目すべきである。こうした発想の転換が、日本に今一番求められていることだと思う。
慶応義塾大学総合政策学部教授
グローバルセキュリティ研究所所長
現在、慶応義塾大学総合政策学部教授・グローバルセキュリティ研究所所長。公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、株式会社パソナグループ取締役会長などを兼職。主な著書に『日本大災害の教訓―複合危機とリスク管理』(共著、東洋経済新報社)、『経済古典は役に立つ』(光文社新書)など多数。