その教材を開くと地図が描いてある。独裁者が支配する「暗黒島(あんこくとう)」だ。ここには、とんでもない掟(おきて)がたくさんある。たとえば「何も言わず、だまって暮らせ」。こんなひどい生活から逃れるにはどうすればいいだろう、と先生が問う▼答えは「表現の自由」を獲得すること。こうして子どもたちは、キャラクターのウサギと一緒に暗黒島を旅しながら、基本的人権という宝物を探していく。自由や平等が奪われた状況を最初に見せることで、その大切さをのみ込みやすくしてある▼物語じたての「憲法マップ」を作ったのは、弁護士で国学院大ロースクール教授の今井秀智(ひでのり)さん(53)だ。学校に出向いて法的なものの見方を教える民間団体「リーガルパーク」をひきいる。子どもでも手にとりやすい憲法の教材がなく、ならば自分たちでと思い立った▼昨年末にできあがり、先月は2度、都内の公立校で授業をした。「憲法は人々を守るものだとわかりました」「人権は市民が『勝ち取ってきたもの』ということに心を打たれました」。中学1年生の感想だ▼貴重な実践だと思う。憲法とはなにか、政界の改憲論者でさえ正しく理解しているかどうか。憲法とふつうの法律は違う。憲法とは変な法律や横暴な権力の見張り役なのだという基本すら、共有されていない▼「私自身は憲法を変えるなというつもりはありません」と今井さん。ただ変えるにしてもいまの憲法をもう一度読み、その価値を理解してからでも遅くはない、と。卓見だ。