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 BioShockはそのストーリーに魅力があるのだが、それが結構難解で海外のプレイヤーからも良く分らないという意見が寄せられている。また背景設定を知る為のデータを入れた音声ログは徹底して探さないと全てを聞く事が出来ないし、製作側も無理に解説しようという意図を持っていないので、置いてあるログを取っても必要な物以外は自動的に再生されないようになっている。よって飛ばして聞かない人には余計に分らなくなるという事になる。

 発売後にゲームのストーリーに関して製作を担当したKen Levineに幾つかの解説を依頼するインタビューが行われているので、ここでは重要な点に絞ってBioShockの背景解説を行ってみたい。



                  *** 以下ネタバレ注意 クリアした人のみ読んで下さい ***





















STORY

 まずは主人公のJackについて。少なくとも彼がどういう存在なのかまでは分ると思うのだが、その詳しい背景については様々なログを読まないとならない。だが彼関連のログは真相が判明した後の後半パートに集中しており、後半を寄り道しないで通過する人には分かり辛くなるという面を持っている。

 簡単に言うなら"Jack"とは、各種のセキュリティを突破してRyanの所に達する為に、Fontaineが人工的に作り出した存在である。確かにJackは人間ではあるのだが、通常の意味での人間ではない。セキュリティで守られた要塞に隠れているRyanを倒す為に、Fontaineは彼の遺伝子を持った人間を作り出してその任務に当たらせる事を思い付く。そこで彼は多額の金を積んでRyanの情婦だったストリッパーのJoleneを買収し、彼の遺伝子を持った受精卵を手に入れる。後に彼女はその事がバレてRyanに殺されているが、その辺の経緯はFort Frolicでの彼女の個室のログを見ると分る。

 Ryanの遺伝子を持った子供を手に入れたFontaineだが、このまま子供が成長するのを待っていたのでは埒が明かない。そこでDr. Suchongが成長を早めるPlasmidsを子供に装着して、一気に成人男性のレベルにまで体を成長させた。それがJackである。彼は"Would you kindly"(何々をしてくれませんか?という言葉には必ず従うように深層心理に埋め込まれるが(嫌がるJackに子犬を無理やり殺させるログが有る)、その事自体は本人は知らないという様にも設定される。そのまま彼を洗脳して殺人マシンとして送り込むという手法を採らなかった理由は、AtlasがJackと行う通信はRyanにも聞こえるので、殺人目的で最初から命令してしまうと、Ryanに「自分が実はFontaineである」ことがバレる可能性があると考えたからだと思われる。それと途中でLangford等の一般人に遭遇する際に不味いと考えたのかも知れない。いずれにしろJackを「あくまでも事故でRaptureにやって来た一般人」という存在にする為に、Jack自身の記憶についても偽の物を作り出すという計画を実行する。実際には20年間の人生を生きて来たものとして両親や故郷の記憶を捏造し、Jack本人には自分をただの一般人であると信じ込ませた状態で飛行機へと乗せるという工作を行った事になる。
 人間は自分の記憶の正確さをその場で確認する事は出来ない。つまり自分自身が本当に記憶通りの人生を歩んで来た人間なのか、それとも数十年分の記憶を植え付けられた状態でつい直前にこの世に生まれて来た人間なのかを知る術は無い。「後者のはずが無い」とどれだけ主張した所でそれを証明する手段は無いし、またそうやって世界に放り込まれた人間がそんな事を疑う訳もない。よってJackは狙い通りに飛行機に乗せられて、何も知らずにRaptureへとやって来て利用される事になる。なお飛行機墜落の理由については、途中のフラッシュバックのシーンでJackの持っていたプレゼントに"Would you kindly not open until: 63* 2' N 29* 55' W"と書かれているのが分る。中に何が入っていたのかは分らないが、Jack自身を殺さず、またJack自身が墜落の原因となる行為を行ったと思わせないようにするとなると、「飛行機のエンジン付近に中の物を置け」というような指示があって、爆弾には見えない物を置かせたとかその類の指令だったのではないかと想像される。


 このゲームにおけるトリック、いわゆるどんでん返しに当たる物は二つある。一つはAtlasが実はFontaineが化けた者であった事、もう一つはJackが実は自分の意思で行動している人間ではなく、"Would you kindly"というキーワードに従う、単なるFontaineの操り人形に過ぎなかったという点である。この後者のトリック自体については分らなかったという人はいないと思うのだが、実はかなり深く複雑な狙いを持った物なのでその辺を以下に解説してみる。

 まずはトリック自体がフェアなのかどうかについてだが、これについては手掛かりは事前に伏線として配置してあるとしている。Jackが実は全くの一般人ではなく、Raptureとは何等かの関係を持った人物なのだという手掛かりは確かに存在している。だが上手い事に、ゲーマーの常識と思い込みという隠れ蓑によってそれが気が付かれ難いようになっている。
 いろいろと妙な点を挙げてみよう。「何故Jackは最初からPlasmids用のスロットを体に持っているのか」、「何故他のSplicersが使えないVita-Chamberを使う事が出来るのか」、「何故すでに停止されている潜水球を動かせるのか」、「手首の鎖の刺青」等。或いは「デモをリリースした時に出た質問で、何故主人公はいきなり手に入れたPlasmidsを腕に突き刺すのか?、というのが有った。その時は答える事が出来なかったが、その理由は実は予めそういう風に教え込まれているからである」。しかしこういった点を我々プレイヤーは、ゲームの設定なので矛盾するとかどうとか考えた所で仕方がないという風に見なす癖が付いているので、この様な実は不自然な点について疑いを持たない訳だ。

 このトリックの発想の発端とは、「SS2においてはゲームの途中で、それまでプレイヤーが信じ込んでいた世界の設定を引っ繰り返すという形でのどんでん返しを仕掛けた。このBioShockではそれを更に発展させた形で行いたいと考え、主人公自身がそれまでプレイヤーが思い込んで来たような存在とは実は違っている者であった、という真実を途中で示すというトリックを構成した。そこには記憶喪失の様な定番パターンを使わずに、実際に自分が誰であるかという意識を持っているのにも関わらず、実はまるで違う人間であるという設定を考え出した」とKen Levineは述べている。
 そしてこの発想をゲームをしているプレイヤーの立場に結び付ける事でこのトリックが生まれている。「このトリックの種はマインド・コントロールという事になるのだが、実はゲームを行っているプレイヤーもそれに良く似た立場にある。”何々をしろ”という目的がゲームから与えられた場合、プレイヤーがそれに従うのは別に心からそうしたいと思っているのではなく、単にそうしないとゲームが進まないからと考えているからだ。言ってみればゲームに行動をコントロールされている様な状態にある」。

 このトリックの真相が明かされるシーン、即ちJackがRyanと遭遇するシーンだが、ここでの演出が非常に重要となっており、かなり試行錯誤した結果こういう風にされたそうだ。ここでのポイントは、このシーンが第三者視点のムービーではなくプレイヤー視点で行われる事と、Ryanを殴り殺す行為がプレイヤーには行えないという点である。つまりゴルフクラブを渡されたプレイヤーに対して「Ryanを殴り殺せ」という命令が出て、それをプレイヤー自身が行うのではなく、全てはプレイヤーの意思に関わらず勝手に行われてしまうように演出されている。Ken Levineはこのシーンを”プレイヤーに対する最大の侮辱”と称しているが(ゲームの最も基本的な行為である”自分で操作する”という作業を奪ってしまうから)、このシーンの持つ意味とその狙いとは、かなり表現が難しいのだが以下のように解釈出来るだろう。

 Ken Levineが仕掛けたどんでん返しとは、ゲーム内のキャラクタであるJackだけではなく、プレイヤー自身もマインド・コントロールの状態にあったという事をここで思い知らせるという点にあった。Ryanの命令に抵抗出来ずにただその通りに彼を殴り殺すしかないこのシーンの意味とは、「貴方は自分の意思でこのゲームをここまでクリアして来たつもりだろうが、実はそうではない。これまで”何々をしてくれ”という命令に沿って貴方が進めて来た行為とは、今目の前で起きているRyanを殴り殺す行為(プレイヤーの意思とは関係なく行われる)と同じで、貴方の自由意志で行われた物ではない。単にゲームにマインド・コントロールされていただけであり、貴方はここまでゲームをクリアして来たのではなく、クリアさせられて来たのだ。」というのをハッキリと示す事にある。最後に来て「貴方の今までやっていた事はこれと同じだ」と、完全にプレイヤーの操作を奪うという形で示し、操られていたのだという事実を鼻先に突き付けているのである。Ken Levineは「それ以後の"Would you kindly"の呪縛から逃れた所からが、プレイヤーの(ゲーム的に言えばJackの)意思によって進められる真のゲームのスタートになる」としている。


 ゲーム中で一番難解な箇所と思われるのが、RyanがJackに対して採った行動の意味である。これは発売後にかなり議論されていた点でもある。Ken Levineによれば「Andrew Ryanという人間にとって、自らのイデオロギーを守り通すという事に比べたら、自分の死というのはどうでもいい様な扱いでしかなかった。あのシーンも同様に彼の信念に基いて行われた行為である」。

 例のシーンを分析して見ると、その直前の段階で彼はJackが実は自分の遺伝子を持った子供であるという点と、自分の所までやって来る為に計画的にRaptureに連れて来られたというのに気が付いていた。しかし到着したJackに"Would you kindly"の命令を使って追い返した所で、またAtlasに命令されてやって来てしまえば堂々巡りだし、自殺させるような命令は出す事が出来ない(解除後にFontaineがJackを殺そうとするシーンでも、自殺ではなく間接的に殺そうとしている)。おそらくここで彼はRaptureの支配者であり続ける事を諦めたのであろう。部屋のVita-Chamberのスイッチを切り、自爆装置を発動させる。
 だがJackの意図の通りに自分を殺させるようにはしなかった。「人間と奴隷の違いとは何か? 人間とは命令する者、奴隷とはそれに従う者である。」と唱え、Jackに自分を殺すように命令し、その通りに殴り殺される。しかし彼にとっては人間として命令した自分こそが勝者であり、命令に従って自分を殴り殺したJackこそが敗者である。つまり自分は殴り殺されたが、”他人の意思により殴り殺された”のではなく”自分の意思により殴り殺させた”のであって、自らの信念を通して人間として死ぬ道を選んだという解釈になる。

 Ryanの信ずる哲学とも言えるObjectivismについては、ネットでいろいろと調べられるが難解でもあり私自身も深い理解はしていない。このテーマを作品に持ち込んだのはKen Levine自身がそれに同調しているからというのが大きかったそうだ。簡単に言えばAyn Randという女性作家が自らの小説を通じて唱えた考えであり(Andrew Ryanの名前はその捩りから来ている)、代表作品は"The Fountainhead", "Atlas Shrugged"等(このタイトルの持つ意味は言うまでもないだろう)。
 基本的な概念は「人間は自分自身の為に存在している」。「自らの努力によって得た物は、自分自身が享受する権利を持つ」。「自己の幸福を追求することはもっとも道義的な手段であり、自分自身を他人の為に犠牲にしてはならない。また他人に自己への献身、犠牲を強いるものでもない」。 「人間の理性だけがリアリティを受けとめる手段であり、行動への指針となるものである」。ただしこれは利己主義とは違う思想である。

 そんなRyanだが、人生を通して信念を貫いていた訳ではない。彼は勢力を伸ばすFontaineを放って置く事が出来ず、最終的には自分の城であるRaptureを守る為に信念を曲げて彼と争う道を選んでしまう。Ken Levine曰く「その意味では自らの信念に忠実だったのはFontaineの方だった。もしRyanが信念を曲げなければ、最終的に勝っていたのはRyanの方だっただろう」。


 エンディングの解釈については、LSを助けていた場合にはJackはRaptureの新しい支配者となる事を拒否して地上に戻り、その後は普通の人間として新しい真の人生を送ったという話になる(数人のLSを連れて娘として暮らしたようだ)。LSを収穫していた場合にはJackは新たなRaptureの支配者となり、飛行機事故を調査に来た潜水艦をSplicersを使って襲い核爆弾?を手に入れるというシーンが描かれている。その後世界に対して戦いを挑んだという意味なのかも知れない。

 ただこのエンディングについてはあまり意味が無いと言うか、Ken Levineによるとプレイヤーの採った行動によってエンディングを変えるという考えは無く、最後に来て上(2K Games)からの命令でマルチエンディングのムービーを作らされたに過ぎないそうだ。そもそも彼はLSに対してどういう処置がGoodなのかは誰にも判らないという立場で、LSを助けたからGood Endingという考え方には反対しているし、Fontaineが悪なのかどうかは見方によるとも語っている。

キャラクター補足情報

Tenenbaum
 ADAMの発見者である女性化学者。彼女は当初Fontaine Futuristics(彼の会社)に援助を受けて研究を進めていたが、ADMAの需要が大きくなるに連れてウミウシからの抽出では到底間に合わなくなって来た。そこで彼女は少女の体内にウミウシを寄生させる事で、ADAMの生産量を20-30倍に上げられる事を発見する。その後Fontaineは孤児院を設立して少女を集めてADAMの大量生産に使う計画を実行。しかしウミウシに寄生された少女が目を光らす等の人間とは異なった外観へと変わってしまうという点にTenenbaumは心を痛め、自分の行って来た行為を悔いて最終的にはFontaineの下を離れてLS達を救う立場として行動するようになる。

Big Daddy
 ADAMを回収可能なLSは保護されていない為に、Splicersに襲われてADAMを奪われてしまう恐れがある。そこでそれを守る存在としてDr.Suchongによって考え出されたのがBDである。当初はその計画にAndrew Ryanは元の人間に戻る事が出来なくなるという理由から躊躇を示したが、結果的にはBDの製造工場を作ってボランティアとして募集した人間からBDが生産されるようになった。言うなればBDとは、改造されてパワーと耐久力を極限まで上げられた人間に(その代償として元の人間の様には戻れない)、潜水服である防具を付けさせて製作された者達である。

Dr. Suchong
 元々はFontaineに付いていた彼が何故Ryanの下に移ったのかは定かではない。彼はRyanの組織が誘拐という手段で確保した少女達をLSに改造し、それをBDによって保護させるという研究を進めていた。だがログによれば彼はその実験の最中、イライラしてLSを突き飛ばした際に正常に動作してしまったBDによって殺されている。以後はそのフェロモンは別の科学者の手によって実用化され、ちゃんとBDがLSを守るようにされたようだ。

Sander Cohen
 Fort Frolicにて最後に彼が登場するが、ここで彼を殺すかどうかで変化が生じる。殺さなかった場合には後ほど別のマップで再会する事になり、殺した場合にはこのマップにおいては鍵を使ってアイテムを手に入れられるが、その次回遭遇するはずのマップでは彼に会えないので一箇所入る事が出来ないエリアが出来てしまうようになる。

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