第69話 記録帳
部屋に居たのはハイエルフ王国、エノールの第2王女、リース・エノール・メメアだった。
スノーよりも巨乳で、背はクリスよりも少し高いくらいのロリ巨乳美少女。
ハイエルフの中のハイエルフが今、目の前に存在する。
彼女がオレの奴隷になるようシアに指示した人物らしい。
しかもオレのことを『勇者』と言った。
なぜハイエルフの王女様がオレのことを『勇者』なんて言うんだ?
シアに紹介されたリースと名乗るハイエルフの少女は、友好的な笑顔を浮かべる。
リースは感激のあまり潤んだ瞳で、オレの手を取る。
「本当にいらっしゃってくださってありがとうございます。ずっとお待ちしておりました」
「は、はぁ、どうも……」
事情を知らないため、生返事をするしかない。
リースは目元を拭いソファーを勧める。
「立ち話もなんですから、まずは座って落ち着き――キャッ!」
「危ない!」
リースは自身の外套を踏み転びそうになる。
オレは反射的に彼女を背後から抱き留めた。
「あっ、あン……ッ」
「!?」
「ひ、姫様!?」
シアの慌てた声。
その手がリースの体躯に似合わない胸を両手で鷲掴んでしまう!
慌てて手を離すと、彼女はゆっくり床に腰を落とす。
「す、すみません! 転びそうになったから手を出しただけで、決してやましい気持ちがあった訳じゃ……ッ」
「い、いえ、そんな、転んだ私が悪いんですから……。昔から、その、胸などを触られると体に力が入らなくなって……申し訳ありません……」
リースは異性に胸を触られた羞恥心と刺激によって、頬を真っ赤に染める。
どうやら彼女はドジっ娘で、敏感なロリ巨乳王女らしい。
ボクっ娘の次はドジっ娘かよ……ありだなッ。
「もうリュートくんったら、いくら助けるためでも簡単に女性の胸に触っちゃいけないんだよ」
『今度から気を付けてくださいね、お兄ちゃん』
「はい、すんません」
オレの胸中を読んだのか、絶妙なタイミングでスノー&クリスの叱責が飛ぶ。
「そんなに異性の胸にご興味があるのでしたら、わたくしならいつでも構いませんのに」
メイヤも瞳を潤ませ、頬をリースに負けないほど赤く染め独り呟く。
よし、聞かなかったことにしよう。
リースはシアの手を借り立ち上がると、先程座っていたソファーに腰を下ろす。
オレ達も彼女に習い座った。
オレがリース正面ソファーに、両脇にスノー、クリス。
メイヤは下座に椅子を移動し、腰を下ろす。
シアがお茶を配り終えると、リースから口火を切る。
「まずは遠路遙々、エノールまでお越し下さり誠に感謝いたします。改めてご挨拶を。ハイエルフ王国、エノールの第2王女、リース・エノール・メメアと申します」
「リュートです。そしてこっちが妻のスノーとクリス」
「わたくしは天下に並ぶ者無き天才魔術道具開発者リュート様の一番弟子、メイヤ・ドラグーンですわ!」
メイヤはハイエルフの王女を前にしてまったく臆さず胸を張る。
さすが魔石姫。
度胸があるのか、神経が太いのか……。
挨拶が終わるとリースの後ろに控えるメイド服姿のシアが語り出す。
「本来、リース様から許可を頂き詳しい事情をボクの口からお話しする予定だったのですが……どうしてもリース様が直接お話をしたいと仰って、突然押しかける形になりました。本当に申し訳ありません」
「いいのか? ハイエルフはこっち側に来ないって話だったのに」
しかも、相手は王族。
事故や事件に巻き込まれたり、誘拐なんてされたら一大事だろ。
シアが苦い顔をする。
「もちろんボクもお止めしたのですが……姫様がどうしてもと」
押し切られた訳か。
シアも苦労しているらしい。
当の本人であるリースは柔らかく微笑む。
「ご安心ください。ハイエルフが街へ降りないというのは建前で、実際はこのようにペンダントを付け街を見て回ったりするんですよ」
彼女は悪戯っぽく、胸から下げているペンダントを見せ付けてくる。
昼間、土産物屋などで見たハイエルフに容姿を変える魔術道具。
「このペンダントは形だけマネたものです。だから、ペンダントを外しても私の容姿が変わることはありません」
リースは自身が本物のハイエルフと証明するためペンダントを外そうとする。
「変わることは……あら、変わること、――ッ!」
「ひ、姫様!?」
自分1人では結局外せず、途中で舌を噛む。
「うぅ……」
あ、ちょっと涙目になってる。
最終的には慌てるシアに取ってもらっていた。
本当にドジっ娘なんだな……。
だが確かに魔術道具を外しても、彼女の耳と緑色の瞳は変わらない。
痛みから回復したリースは小さく咳払いして、話を続ける。
「…………こほん。まず、皆様をこんな回りくどいやり方でお連れしたのか説明をする前に、私の姉、ララ・エノール・メメアについてお話をさせてください」
彼女の姉、ララ・エノール・メメアは約15年前、妖人大陸で起きた戦争で行方不明になった。
当時、エノールは人種族最大の国家アスアに友軍として形だけ参加。到着した夜、なぜかララだけが姿を消したのだ。
「誘拐されたということですか?」
オレの質問にリーゼが首を振る。
「姉の能力的に誘拐、暗殺は不可能なんです」
「能力? 魔術師だったということですか?」
「姉は優秀な魔術師でもあったのですが……ハイエルフは100歳を過ぎると精霊の力を1つ得ます。これを私達は『精霊の加護』と呼んでいます。姉は5種族勇者のハイエルフと同じ加護、『千里眼』を持っていました。この加護の能力は、最大約4000キロの周囲を確認することが出来るものです」
つまり、誘拐しようにも襲撃犯らしき人物が近寄ったらすぐに分かると言う訳か。
しかし約4000キロを把握できるなんてチートだろ。
「戦争終結後も大規模な捜索隊が結成されましたが、結局姉を見付けることは出来ませんでした。現在も何も手がかりがありません。自分から姿を隠したのか、それとも……。そして姉の部屋の荷物を整理していたら、記録帳が出てきたのです」
そこには断片的な文章が書かれてあった。
日付はまちまちで近いものだと1日単位で、長いのだと数年単位に間を開け書かれてある。
しかもその記録帳に書かれてあることが日付通り起きていることに気付いてしまう。さらに記録帳に書かれていた未来の出来事が次々起きた。
「そして私は確信したのです。姉は『千里眼』の他に、『予知夢者』でもあることに。どちらも歴史上1人しかいないレアな加護です。それを姉は2つ同時に持っていたのです」
「2つ同時に持つということはありえることなんですか?」
オレの質問に彼女ははっきりと告げる。
「歴史上1度もありません。ですから姉は2つ目の力を隠していたんだと思います。振り返ってみれば、姉は妙に勘が鋭い所があるなとは思っていましたが、こんな破格の力を2つも持っていたなんて……。妹としてずっと姉の側に居たのに、まったく気付きませんでした。そんな姉が残した記録帳の最後の予言が――今から約3ヶ月後にハイエルフ王国、エノールが一夜にして壊滅するというものです」
この国が壊滅するだと?
今日の昼間見て回った国の様子を思い出す。
(――この規模の国が一夜で壊滅するなんて)
考えただけで怖気が走る。
「壊滅の原因も書かれていました。ハイエルフ王国エノールにある結界石が、何者かの手によって破壊されると」
「けっかいせき?」
「皆様もご存知の通り、妖人大陸の魔王は5種族勇者の手により倒され、封印されました。その封印を維持する結界の1つがエノールにある結界石と呼ばれる物です。他大陸にもあるようですが、幾つあるのか、どこにあるのかは私達王家でも知りません。第三者に知られないよう5種族勇者達が秘匿したのでしょう。そしてハイエルフ族王家始祖は、結界石の1つを守護するためこの場所に国を造ったのです」
リースは記録帳に書かれている内容を思い出し、膝に置いた手をギュッと強く握り締める。
「結界石が破壊され、石の下から『バジリスク』『竜騎兵』……魔物達が溢れ出し、民を石に変え、血で湖を真っ赤に染め上げこの国を一夜にして壊滅させてしまう――と、姉は書いていました」
「もしその予言が本当なら、今すぐ王様に相談して兵力を整えた方がいいのでは?」
しかしリースは悲しそうに首を横に振った。
「王は――父は姉の記録帳のことを信じようとしないのです」
「それはまたどうして?」
「結界石は例え魔王、5種族勇者、現魔術師S級でも破壊することは不可能だからです。魔王が復活しないよう5種族勇者達が創りあげた結界石。古い記録で彼らが『自分達でも破壊出来ない』と断言しています」
リースの声が暗くなる。
「それに姉が歴史上初、2つもレアな精霊の加護を持っていることが信じられず、姉の冗談か悪戯だろうと取り合ってくれなくて。母に口添えを頼もうにも、体調を崩し面会すら出来ない状況で……」
彼女が真剣な表情で告げる。
「確かに姉は昔から悪戯が好きでした。私など何度酷い目にあったことか。でも姉は私よりずっと優秀で、王としての才覚があり、威厳もあった。民のことを誰よりも考える――そんな人物が愛する国が滅ぶ、民の血で湖が赤く染まると、例え悪戯でもそんなことを書くとは思えません。何より皆様とこの場でお話出来ること自体が、記録帳が本物だという証拠です」
どうやら記録帳にはちゃんとハイエルフ王国を救う方法も書かれていたらしい。
それがオレ達だ。
「リュート様方をここにお連れする方法も記録帳に書かれていました。記録帳の通り、私の護衛メイドであるシアをツテのある奴隷商にお願いして竜人大陸へ連れて行って『奴隷市場ブルーテス』へ預けてもらいました。そして、記録帳に書かれている通り『タナカコウジ』の言葉でリュート様がシアに興味を抱き、無事お買い上げになったと聞きました」
なるほど……記録帳に書かれてある通りにするため直接依頼せず、わざわざ『シアを奴隷にする』なんて面倒で無茶なマネをしたのか。だが実際、『タナカコウジ』の名前で、オレは絶対にシアを買おうと決めた。
結果、こうしてリースの前に腰を下ろしているのは事実だ。
リースは、改めてここまでオレ達を連れてきたシアを労う。
「苦労を掛けてしまって本当にごめんなさい。でもシアのお陰で、国が滅びる前にリュート様達と会うことが出来て本当に嬉しいわ」
「いいえ、ボクは姫様の護衛メイド。これぐらい当然のことです」
あらためてリースは向き直る。
「記録帳の通りなら、例え魔術師S級を連れてきたとしてもハイエルフ王国は壊滅してしまいます。この国を救えるのはリュート様達しかいないのです。権力も無く、自由も利かない第2王女という身分ではありますが、皆様が望む報酬を必ず支払います。協力出来ることがあればお手伝い致します。なのでどうか、どうかこの国を救ってください。お願いします!」
リースとシアは2人揃って頭を下げる。
「リュートくん、どうする?」
「…………」
両脇に座るスノー&クリスが判断を仰いでくる。
もちろんメイヤもだ。
オレは腕を組み考え込む。
(さすがにこんな話を聞いて放置は出来ないよな……。もしも結界石が壊れたら、被害はここだけでは収まらないだろうし。それに助けを求める人を無碍には出来ない。やれるだけやってみるか)
オレは覚悟を決め、返事をする。
「分かりました。出来る限りで良ければ、協力します」
「あ、ありがとうございます!」
こうしてオレ達はハイエルフ王国、エノールの危機を救う決意を固めた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明日、1月24日、21時更新予定です。
ハイエルフ編は5章になります。章の区切りなどは、なるべく早く入れたいと思います。
また修正と言えば、ご指摘頂いている誤字脱字等も近日中に修正しますので。
ご報告誠にありがとうございます。
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