第50話 新装備
リュート、14歳
装備:S&W M10 4インチ(リボルバー)
:AK47(アサルトライフル)
スノー、14歳
魔術師Aマイナス級
装備:S&W M10 2インチ(リボルバー)
クリス、13歳
装備:M700P(スナイパーライフル)
事件を解決して、数日。
オレはクリスに腕輪を渡し、正式な夫婦となる事を皆に伝えた。
この世界では前世のように教会で愛を誓うのではなく、皆を集め結婚を報告するのが結婚式の代わりとなる。
そしてオレ達――オレと妻のスノーとクリス、一番弟子のメイヤは未だブラッド家でお世話になっていた(無くしていたスノーとの腕輪は作り直し、同じく正式な夫婦の誓いを交わした)。
「それでこれからどうする?」
お嬢様――改め、妻のクリスの自室でお茶会を開きながら、今後の方針について話し合う。
昨日は中庭でお茶会をしながら話していたが途中でメルセさんやメリーさん、他使用人達がオレのことを『若旦那様』『若旦那様』とからかい半分で連呼してくるので恥ずかしくなり、今日はクリスの部屋で開いた。
話し合いで最初持ち上がったのは、スノーのために魔術師学校に戻るというものだ。しかし本人曰く、『すでにAマイナス級で特待生だから、わざわざ戻らなくても大丈夫だよ。授業に出席しなくても卒業資格は満たしているし』とのことだった。
学校側としても箔を付けるため、スノーには絶対に妖人大陸にある魔術師学校から卒業して貰いたい。そのための措置らしい。
では、スノーの両親を捜すため、手がかりを求めて北大陸へ行こうと提案した。
孤児院時代、両親を見つけ出し一緒に暮らすのが夢だと彼女は語っていた。
だが、これも反応が鈍い。
「もちろん行ってくれるのは嬉しいけど……今のわたし達だとちょっと北大陸は厳しいかな」
スノーも魔術師学校へ入学するとすぐ、両親の手がかりを求めて『北大陸』『白狼族』について色々調べたらしい。
北大陸は時計の数字で言うと『12』に当たる。
一年中雪が降り続けている大陸だ。
白狼族はそんな北大陸の奥地で生活している少数民族。
だが北大陸の奥地は危険な魔物が多い。
代表的なのがホワイトドラゴンと、巨人族だ。
ホワイトドラゴンは名前通り、口から相手を氷らせる吹雪を吐き出すらしい。
「巨人族っていうのはなんだ? まさか人が大きくなったような怪物じゃないだろうな」
『駆逐してやる!』と叫びながら戦ってみたい。
スノーはオレの言葉に首を横へ振る。
「違うよ、巨大な歩く石像のことだよ。群れを成して常に移動しているの。たまに1、2体が群れから外れて人里に迷い込んで暴れるんだって。ドラゴンと並ぶ危険な魔物なの」
「歩く巨大な石像か。確かにそんなの相手じゃAK47だと厳しいな」
『スナイパーライフルでもですね』
クリスがミニ黒板で同意する。
白狼族はそんな危険な魔物の間を縫うように移動しながら生活しているらしい。
対抗できるだけの武装を整えて行かないと、彼らを発見する前にオレ達が先に全滅してしまう。
それに将来的にオレ達は『軍団』を立ち上げる。
冒険者レベルⅤになるためには、1体以上のドラゴン又は巨人退治が必要不可欠。
まだまだ先の話だが、今の内に対策を建てておく必要があるな。
前回のヴァンパイア事件では使い所があまりなく見送った兵器や、作っておくべきだったと痛感した物もある。ドラゴンや巨人と戦うにはさらなる武器の開発が必要だろう。
「でしたら一度、わたくしの工房へ戻りませんか?」
メイヤの提案にその場にいるオレ、スノー、クリスの視線が集中した。
彼女は名案とばかりに話を進める。
「わたくしの工房なら道具や材料も揃っているので好きなだけ研究、開発ができますわ。それに冒険者斡旋組合もありますし、竜人大陸は世界でも有名なダンジョンの宝庫! お仕事の依頼は多岐にわたってありますわよ」
「……確かにそれも手だな」
メイヤ邸の工房なら、勝手も知っている。
ヴァンパイア事件に協力してくれたお礼に、メイヤの勉強も再開出来る。
同時並行でスノー&クリスを冒険者に登録。
一緒にレベルを上げ、ゆくゆくは3人ともレベルVかレベルⅣに。
そうすれば軍団立ち上げの条件である、レベルV1人、レベルⅣ2人が満たせる。
理に適っていると言えるだろう。
「……よしッ。それじゃメイヤの提案通り、一度竜人大陸に戻るか。色々作りたいものもあるし。2人はそれでいいか?」
「リュートくんが行くところが、わたしの行くところだよ」
『私も妻として、リュートお兄ちゃんの側にいます』
こうしてオレ達の次に行くべき方向が決まった。
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方針が決まれば行動は早かった。
数日後、ブラッド家の皆に別れを告げ、旅立つ。
ギギさんはすでに旅立った後なので、別れの言葉を言えなかったのが悔やまれる。
魔人大陸を離れる間際に、エル先生宛の手紙を出した。
スノーと合流したこと、クリスとの結婚、オレが奴隷から解放され竜人大陸で冒険者を続けることなどを書いて出した。
約1ヶ月かけてメイヤ邸に戻ってくる。
馬車と船での旅だ。
メイヤ邸に到着し、まずはお風呂、食事、睡眠――旅の疲れを癒すため3日はだらだらと過ごした。
4日目の朝。
オレはメイヤを連れて工房へと足を踏み入れる。
竜人大陸に来てから私服が竜人種族の男性が着る伝統衣装ドラゴン・カンフーになる。
スノー、クリスもドラゴン・ドレス姿だ。
「リュート様、それで今回はどのようなハンドガンをお作りになるのですか?」
「今日から作るのはハンドガンなどの武器じゃない。まず自分達の個人装備を整えようと思っているんだ」
「武器ではない個人装備ですか? 鎧などでしょうか?」
メイヤは首を傾げながら、尋ねてくる。
武器以外の個人装備と言われても、ピンとこないようだ。
オレは事前に書いておいたメモを見せながら、説明する。
これもヴァンパイア事件に協力してくれたメイヤへの恩返しの1つだ。
「最低限、これだけの個人装備は作ろうと思っている」
●戦闘服
●アイプロテクション・ギア
●ヘルメット
●背嚢
●戦闘用プロテクター
●戦闘ブーツ
●ALICEクリップ
●防弾チョッキ
「こ、こんなにお作りになるのですか?」
「M700Pみたいな制作が大掛かりの物じゃないから。1つずつ、どんな物か、何のために必要か説明していくぞ」
「はい、宜しくお願いしますわ!」
メイヤは玩具を前にした子供のように目を輝かせて、メモ用紙と羽ペンを取り出す。
オレは順番に、彼女が理解しやすいよう説明していく。
●戦闘服――戦う時に着る服。野外で活動しやすいデザインにして、丈夫で通気性の良い素材を使用する。現時点では木綿の予定だ。各所にポケットを配置して、小物を多く収納出来るようにする。
●戦闘用プロテクター――プロテクターの意義は2つある。『肘、膝の防護』『激しい運動をしても大丈夫という心理的効果』だ。
咄嗟にしゃがんだり伏せたりしないといけない状況で、膝の怪我を気にして躊躇うことが生死を分ける可能性もある。だが、プロテクターを付けていれば多少の無理をしても怪我しないという実用性・心理的安定性は、ギリギリの状況に置かれた場合とても重要になる。
●ヘルメット――ヘルメットの意義は人の重要な器官である頭部の保護にある。魔力液体金属で作れば、無駄に分厚い鉄で作らなくても軽く丈夫な物が出来る。
●アイプロテクション・ギア――眼鏡だ。戦いにおいて目に与えるダメージは多い。風や砂塵、仲間が撃った空薬莢、弾丸によって飛び散った場合の木や石の破片。魔術なら爆風による破片などもある。目を痛めれば戦力は激減してしまう。そのために必要になってくる。問題はグラス部分をどうするかだ。さすがにこの異世界のガラスを使う訳にはいかない。強度が足りなさすぎる。逆に被害甚大になりそうだ。
●背嚢――ヴァンパイア事件では魔術防止首輪の機能を一部止める粘土のような物、ソフトボール大の煙幕玉などを袋に入れていた。しかし時間がなかったため依頼して適当に作った物だ。今回いざという時のためにも作っておこう。
装備の総重量は『兵士の体重の3分の1以上にすべきではない』といわれている。
疲労した兵士の戦闘力は著しくダウンする。持てるだけの荷物を持たせるより、一応の目安を設けておいたほうが良いという考えだ。
また20キロの荷物も大袋にただ持つのではなく、小袋を連結した構造にした方が重量が分散して担ぎやすくなる。5キロ+5キロ+5キロの小袋を積み重ねて、脇に2・5キロ+2・5キロの小袋をぶら下げる。
●戦闘ブーツ――ヴァンパイア事件の時は足音を消すため、靴底を柔らかい物にしていたが、今回制作するのは野外用の戦闘ブーツだ。ただこの異世界にゴムは無い。見たことが無い。なので靴底に金属鋲を打つことになる。
金属鋲は滑り止めに役立つものの地面の熱を足底に伝えやすく、寒冷地では熱を逃がしやすく凍傷になりやすい欠点がある。一応、靴底に魔術液体金属で薄く作った2枚の金属板の間に魔物の皮を挟む。これで冷熱対策&靴底で金属片を踏ん付けても刺さることは無い。爪先にも金属を入れて安全靴化する予定だ。
●ALICEクリップ――ピストルベルトと呼ばれるベルトに固定する『スライド式の金属クリップ』のことだ。ALICEクリップの利点は、ベルトの好きな位置にガッチリ装備を固定することが出来る点だ。仕掛けも難しくない。
ただこのままではズボンが装備の重さでずり落ちてしまうため、サスペンダーで支える。
『ピストルベルト』+『サスペンダー』を組み合わせた物を『ベルトキット』と呼ぶ。
●防弾チョッキ――警察官や要人警護のSPが好んで使う銃弾の貫通を防ぐための防具だ。ただこの世界で銃弾で撃たれることはまず無い。防弾チョッキでは矢などの刺突は防げ無い。そのためこの世界にある素材を使って皮の胸当て的防具を作り代用する予定だ。理想としては矢や剣、槍程度の攻撃なら防げる防御力を持たせたい。
「――とまぁこんな感じの物をこれから作ろうと思う。武器も大切だが、こういう防具、マガジンを大量に持ち運ぶ仕組み、小物は今後の生存力を高めるためにも必要だ」
「さすがリュート様! 勉強になりますわ!」
メイヤは表情を輝かせ、嬉々としてメモを取る。
オレは彼女がメモを取り終わるのを待って声をかけた。
「それじゃ早速『戦闘用プロテクター』から作ろうか」
「はい! 一番弟子としてお手伝い致しますわ!」
「お仕事中、失礼します」
メイヤがやる気になってると、そこに屋敷のメイドさんが姿を現す。
「メイヤ様宛にお手紙が届いております」
「まったく誰ですの! リュート様との素敵な時間を邪魔するのは!」
メイヤは頬を膨らませて怒りながら手紙の差出人を確認する。
「――はぁ」
「メイヤ?」
微かな溜息。
「わたくしの部屋に置いておきなさい」
「畏まりました」
「いいのか、確認しなくて?」
「構いませんわ! 幼なじみからの手紙ですから。それにリュート様と一緒にいられる時間の方がなにより貴重ですから」
先程の溜息などなかよったようにいつもの明るい彼女に戻る。
メイヤは笑顔で、手紙の話を打ち切った。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
明日、1月5日、21時更新予定です。
4章の章区切りのは後程追加します。
では、明日もよろしくです。
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