第20話 魔人大陸
19話を読んでこれから軍オタが『BL展開』『欝』『ダークヒーロー』『タイトル詐欺』など、流れになるんじゃないかと心配してくださっている方がいるので、最初に否定させてください。
そんな展開はしませんので安心してください。新ヒロイン&銃器を出す伏線としての19話だったのですが、逆に余計な心配をかけてしまいました。なので今回は新ヒロインが登場する3話分を出したいと思います。
この世界に大陸は6つある。
白狼族などが住む、北大陸。
妖精種族(エルフ等)&人種族が住む妖人大陸。
獣人種族が住む獣人大陸。
魔王が未だ存在し、眠っていると言われる魔界大陸。
竜人種族が住む、竜人大陸。
最後が魔人種族が住む魔人大陸。
大まかではあるが、北大陸が時計の12時にあるとしたら、妖人大陸が10時。
獣人大陸が8時。
魔界大陸が6時。
竜人大陸が4時。
魔人大陸が2時の場所に存在する。
約1000年前、妖精種族&人種種族&獣人種族連合vs魔人種族で戦争が起きたこともある。
戦争の原因は、魔人族への差別や嫌悪感だ。
魔人大陸の風習は、妖人大陸や獣人大陸などとはかなり違う。
見た目も二足歩行のトカゲ、4本腕、ケンタウロスなど魔物との区別が付かない種族も多い。
魔人種族に対する差別(特に一部の見かけが奇異に見える種族に対して)は当時根強く、その結果、戦争は大規模化し全世界に拡大。
遺恨は現在でも残っているが、魔人族に対して露骨な差別は少なくなり、大陸間の関係は安全に貿易をおこなえるほど安定している。
代表的な貿易品――例えば、『魔人大陸→妖人大陸』は金、銀、銅、鉄、魔石などの鉱物資源。『妖人大陸→魔人大陸』は砂糖、小麦粉などの食品関係だ。
また魔人大陸の鉱山や炭鉱などで働く奴隷などが、妖人大陸から輸出されている。
オレはそんな炭鉱行きの奴隷達と一緒に船底で膝を抱えていた。
もちろん女性の奴隷もいるが、男女で部屋を分けられている為会話を交わすことは少ない。
しかし、まさか自分が奴隷として売られることになるとは夢にも思ってなかった。
現代兵器の威力に『何があっても自分なら大丈夫』と過信したしっぺ返しを喰らってしまったが――一度の失敗で奴隷堕ちはあんまりだ。
「出来ることなら調子に乗っていたあの頃の自分を殴ってやりたい……ッ」
だが、いくら過去を悔やんでも現実は変化しない。
過去を悔やむのを止めて、船から脱出しようと努力はした。
しかし脱出する隙がない。
オレ達を乗せた船は、中央海を横切るように真っ直ぐは進まない。
獣人族、魔界大陸、竜人大陸などを経由し、その大陸で求められる物品を下ろす。さらに空いたスペースに新たに購入した物品を乗せ次の大陸へと向かう。
港に着くと荷物の出し入れと船員の休みを入れて、20日ほど停泊する。
港に寄る度、脱出しようとしたが、そのチャンスが全く無いのだ。
首に付けられる魔術防止首輪は健在。
お陰で肉体強化術で抜け出すのは不可能だし、下手に解錠しようとすれば死に至る魔術が施されている。専用の鍵で解錠しないと死ぬ仕組みなのだ。
船底の出入り口には常に船員が2名、交替で見張りに付いている。
例え扉を奴隷達で破ろうと暴れても、船員がキーワードを告げれば首輪が締まり、皆窒息し意識を奪われる。
運良く窒息等の仕組みを無力化しても、首輪をしている限り現在位置を相手に知られてしまう。
すぐに引き戻されるのがオチだ。
海上に出ると、甲板に上がるのを許可されている。
むしろ健康維持のため、積極的に日に当たるのを推奨された。
甲板に出て日光浴や雑談をしていても船員から無用な暴力や暴言は受けない。
逆に船員と親しくなってタバコや酒などの嗜好品を分けてもらう場合もある。
基本的に奴隷に対して扱いが丁寧なのだ。
傷をつけて値段を下げるマネはしたくないらしい。
食事は1日2回パンが主食で、おかずに塩漬け肉か漬け物のような野菜類が出る。
毎日3回食べる生活に慣れていたせいで、最初は辛かった。
だが、慣れたお陰で苦はすぐに無くなった。
一番、不便だったのは真水の制限だ。
魔術師も乗っているため魔術で水を生み出すこともできるが、基本的に奴隷は1日に洗面器に入るくらいの真水しか回して貰えない。
この水で喉を潤し、体の汚れを落とすのに使う。
水欲しさに次の港に付く日を心待ちにする奴隷もいた。
特に女奴隷たちだ。
奴隷船に揺られて数ヶ月後――海上を進む船の甲板で声をかけられる。
相手はオレをあのDQN3人組から買った奴隷商人だ。
頭からすっぽりと被る裾の長いシャツ。足は靴ではなく、サンダル。赤いベストを着ている。
某RPGの商人のような風体だ。
あの3人組はオレが違法を犯した子供なので捕まえた――と嘘を付きこの奴隷商人に売り払った。
値段は彼らの予想通り金貨100枚。
そのため建前上は正式な奴隷売買で、無理に抜け出せば犯罪者として追われる立場になる。
例え自分があの3人組に騙され、売り払われたと言っても後の祭り。
奴隷の言うことなど誰も信じないし、聞かないからだ。
奴隷商人は1冊の魔人大陸語を学ぶ教本を差し出す。
英語の教科書のような厚さと大きさだ。
使い込まれているせいか手垢が付き、擦り切れ、汚れが目立つ。
奴隷商人曰く、
「魔人大陸語を覚えた人種族の子供は、高値で売れるから勉強しておけ」
「……どうして僕が何の得も無いのに、わざわざ値段をつり上げる努力をしないといけないんですか」
「得ならあるぞ」
「旅の間の真水でも増やしてくれるんですか? それとも食事でも良くしてくれるんですか? 僕としては別にどちらにも興味無いんですけど」
オレは態度悪く、語気を刺々しくする。
奴隷として売り払おうとする相手に愛想を振りまくほど善人ではない。
奴隷商人は怒りも笑いもせず、淡々と続ける。
「別に無理に覚える必要は無いぞ。そのままでも十分高値で売れるからな」
「? それなら、なぜ覚えろなんて言ったんですか?」
奴隷商人の言葉に思わず首を傾げ、聞き返してしまう。
奴隷商人の話をまとめると――
オレくらいの年齢の男児は、行き先はほぼ確実に、妖人大陸などから連れてこられた奴隷炭鉱夫向けの男娼館。将来、大きくなったら炭鉱夫へとシフトチェンジするらしい。
自分を買い戻すまで最短でも10年以上はかかる。
実際、オレと同じ立場で売られた子供が、奴隷から解放されて戻った話は一度も聞いたことがない。
大抵、死ぬ。
事故死か、自殺か、過労死か……死に方は様々だが行き着く先は一緒だ。
しかし言語を覚えたら、魔人大陸の富裕層、つまりお金持と暇を持てあましている婦人などの情夫になる可能性が高くなる。
魔人は人間種と比べて寿命が長い。
だから、大抵見た目は若く美しい女性が多い。
三食昼寝付き、床付き。
将来、大きくなれば奴隷から解放される目処は炭鉱夫よりも高い。
「だが覚えたくないなら仕方ない。それじゃ魔人大陸語の教本は必要ないな」
「何言ってるんですか、旦那! 頑張って言葉を覚えて高値で売れてやりますよ!」
オレは慌てて腰を低く、背を向ける奴隷商人の服を掴む。
「――最初から素直にそう言えばよかったんだよ。ほれ、教本だ。大切に使えよ」
奴隷商人は溜息をつき教本を差し出してくる。
オレはそれを両手で受け取った。
「基本が終わったら声をかけてくれ。魔人大陸語が話せる船員に、会話の練習をしてもらえるよう頼んでやるから」
「はい! ありがとうございます! 精一杯努力して喋れるよう頑張ります!」
その日以来、オレは必死に努力して魔人大陸言語を覚え始めた。
絶対に男娼館などに行きたくなどなかったからだ。
前世では英語は苦手科目で、成績はあまり良くなかった。
しかし人間、追い詰められ、必要に迫られると覚えるらしい。
まるで水を得た魚のようにするすると覚えていった。
奴隷商人から教本を渡されて約半年後、基礎を終える。
その後はひたすら魔人大陸言語を話す訓練を積んだ。
お陰で書くのはまだ苦手だが、日常会話程度なら問題なくこなせるようになる。
そして、海運都市グレイから出発して約1年たち。
オレは、妖人大陸から魔人大陸へと連れてこられたのだった。
今回は連続3話(20、21 22話)更新です。
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