第19話 罠
初めて冒険者になって、AK47のおかげですぐにレベルⅡに。
そして気のいい先輩たちに出会って、一緒にクエストに挑戦。
なんて幸運なんだろう。これも日頃の行いのお陰かな。いや、オレの人徳かも?
なーんて……そんな風に思っていた時期がオレにもありました。
「な、なんじゃこりゃぁぁあぁっぁぁあぁあぁぁあッ!!!」
オレは眼を覚ますと、縄で手足をがっちりと縛られていた。
な、なんでこんなことになっているんだ?
確かエイケント(寡黙な人種族の男性)達3人と合流した後、一緒に西門から出て森沿いに移動。
途中、何度かガルガルに遭遇するが、こちらの人数と装備を見てすぐさまガルガルは逃げに転じた。さすがに4人いれば安心だな、と思った記憶がある。
特別な危険もなく、日が沈む前に野営準備に取りかかった。
エイケント達は手慣れた様子で、地面を掘り枝で鍋を支える木を作った。
さらに4方を囲むように、箱がついた杭を地面に突き刺す。
侵入者が囲った箱の間を越えようとすると、警報で知らせる魔術道具とのことだ。冒険者には必須アイテムらしい。
そうして、野営準備を終え、ミーシャ(褐色な魔人種族の女性)が作った夕食を食べた。
大麦パンに、赤いスープ。
大麦パンは小麦のパンより値段が半分と安い。その分、固くてあまり美味しくないが、スープに浸して食べると柔らかくなると勧められた。
オレは言われるがまま、大麦パンを千切りスープに浸して食べる。
スープは赤い見た目に反してシチューのようにとろりとして甘く、なんの肉かは知らないが出汁が利いてて美味かった――以降、記憶がない。
そして眼を覚ましたらマントと靴も脱がされ、手足を縛られて地面に転がされていた。
薪が燃えていることから、場所は移動していないようだ。
「眼を覚ましたみたいだぜ」
アルセド(猫耳金髪な獣人族の男)が、軽薄そうな笑みを浮かべオレに近づいてくる。
手にはAK47が握られていた。
エイケント、ミーシャも彼の後に続いて姿を現す。
それぞれの手に『S&W M10』とバナナマガジン、38スペシャルを手にしていた。
へらへらと笑いながら、アルセドが話しかけてくる。
「いやぁーマジでリュートの魔術道具凄いわ。あんな簡単にガルガルやゴブリンが倒せるなんてさ」
「だからって、あんたらはしゃぎ過ぎ。ガキみたいにバンバン鳴らしてさ。馬鹿じゃない」
「いいだろうが実際、面白かったんだからよ」
「だな」
男2人は『ギャハハハハ』と下品に笑う。
オレはこの空気をよく知っている。
イジメられていた高校時代、DQN3人組が漂わせていた雰囲気に酷似しているのだ。
体の芯から沸き上がる怖気を自覚しながら、人が変わったような3人へ問い質す。
「か、勝手に人の魔術道具を使わないでください! 非常識じゃないですか!」
「あ? オマエまだ自分の立場分かってないのか?」
エイケントがしゃがみ、地面に転がるオレを覗きこむ。
「俺達が食事に一服持って、オマエを縄で縛ったんだよ。いい加減、自分が騙されたことに気付よ」
「!?」
予想は何となくしていたが……。
「俺達は元冒険者だ。冒険者斡旋組合の規則を破って弾かれた外れ組だ。俺達はこうして冒険者を装って、オマエみたいなマヌケな新人を食い物にしてんだよ」
「それに昨日の魔術道具の威力。あの後、ずっと盗み見てたけどとっても凄いから、いいお金になると思ったのよね。無事手に入って、お姉さん嬉しいわ」
「しかし、まさかこうもあっさり信じ込んで、食事まで口にするとは思わなかったぞ」
「だな、お陰でこの後嵌めるための多数の罠を張ってたのに、全部無駄になっちまったよ。まさか1回目の睡眠薬で簡単に眠るとは思ってなかったし。俺なんか逆に何かの罠だと思ったもん」
アルセドは溜息をつき、猫耳をピコピコ動かす。
エイケントがさらに続ける。
「普通、知り合ってすぐ相手がどんな人物かも分からないのに、食事に手なんてつけねぇよ。だいたい、チームに入る時は、冒険者タグを見せてレベルが本当に合っているのか確認するもんだ。常識だろう。そんなことも知らないなんて、どこのド田舎から出てきたんだよ」
孤児院があった町、ホードに冒険者などほとんど来ていない。
第一、オレは町に出る用事も殆どなく、ハンドガン作りの実験・制作に没頭して来たためその辺の知識が無い。
確かに言われてみれば彼らの冒険者タグを、オレは一度も確認していない。
どうして気付かなかったのだろう。
この世界が危険だと分かっていたつもりだった。スノーは騙されやすいから気をつけないとな、と他人事のように考えていた。
お陰でこのざまだ。
ここに来て、エル先生の妹に弟子入り出来なかったことが影響してくる。
これなら大人しく、すぐ街を離れてスノーの後を追えばよかった。
「じゃあ、あの小人族もまさかオマエ達の仲間なのか!?」
「あいつは金で雇ったんだよ。俺達を信用させるためのエサとしてな」
「助けた後、わたし達を『良い人』って眼で見つめてくる時は笑いを堪えるのが大変だったんだぞ」
ミーシャが思い出し笑いしたのか、楽しそうに破顔する。
「クッ――」
悔しすぎて奥歯が砕けそうなほど噛みしめた。
「……この後、僕をどうするつもりだ。殺すのか?」
「魔人大陸に奴隷として売る。魔人大陸じゃ、人種族の子供は貴重だからな。きっといい値段が付くぞ」
エイケント曰く、魔人大陸に奴隷として売られるのは借金や破産などで身持ちを崩した成人男性が一般的。
炭鉱や宝石、魔石、鉄鉱、金、銀、銅などの採掘人材として使われる。
前世の日本で言うところのマグロ漁船のようなものか。
大抵そこで事故などに遭い命を落とす。
お金を貯め、自分を買い戻すことの出来る人間はそうそういない。
村や街から子供をさらうと目撃者がいて、足が付く可能性が高い。しかし子供の冒険者なら、行方不明になっても経験不足で魔物に喰われたのだろうと誰もが思う。
リュートも最初は男娼で、育ったら炭鉱送りになるだろう――と断言される。
「君なら金貨100枚は固いわよ♪」
ミーシャが嬉しそうに褒めてきた。まったく嬉しくない!
(冗談じゃない! 童貞もまだなのに後ろの処女を散らせるか!)
オレはまず優先するべきは脱出だ、と判断。そしてすぐさま魔力を腕と足に集中する。
AK47とM10は惜しいが、武器を取り上げられている状態で3人の武装した冒険者を相手にするのは不利過ぎる。
縄を引き千切ったら、兎に角逃げるのに専念しようと考える。
――だが、その希望もすぐに砕かれる。
魔力が、コントロール出来ない。
「無駄だ。魔術の発動を防ぐ首輪を嵌めてる限り、魔力は使えねぇぞ」
さらにエイケントが冷たく言い放つ。
「魔術師の才能が無い冒険者でも1~2回、一瞬だけ肉体強化術を使用する場合がある。だから、相手を捕らえたらそれ用の対策を施すのは常識なんだよ。俺達が何年新人狩りしてると思ってんだ」
ちくしょう!
万事休すだ。
『冒険者なんて楽勝』と調子に乗ったしっぺ返しがオレを襲う。
この危機から抜け出す術がまったく思いつかない。
「リュートの荷物は全部売り飛ばすから、この魔術道具について知ってることを教えてもらえるかな?」
アルセドは手に持っているAK47をひらひら動かす。
オレは精一杯の抵抗で睨み付ける。
「なぁなぁ早く教えてくれよ。使い方を把握してないと、安く買い叩かれちゃうからさ」
「……売られると分かって言う奴がいるかよッ」
「はぁ? オマエ立場、分かってないだろ?」
アルセドは猫眼をギュッと細くすぼめる。
彼は後ろ手に縛られているオレの指に腕を伸ばす。
「えっ……?」
ボキ――ッ。
「――――――――!!!」
何のためらいもなく、右手親指をへし折った。
「調子に乗るなよクソガキ。こっちが優しくしてたらつけあがりやがってよ」
「あぁぁッ!」
続けて今度は人差し指を折る。
さらに猫耳男の指が、中指に這うのが分かる。
「すみません! ごめんなさい! 言いますから、許してください!」
オレは先程まで睨み付けていた顔を、涙と鼻水で汚し謝罪の言葉を叫ぶ。
「やりすぎだアルセド。これから売るって言うのに、傷つけてどうする」
「別にいいだろ。この程度の怪我、奴隷商人とこの魔術師に治させればいいんだから。どうせなら、逃げられないように足の骨でも折っておく?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 止めて!」
「ちっ、うるせえな。いい加減、黙れ。ちょっと指の骨を折っただけだろ。これだからガキは……分かったら、大人しく俺達の言うことを聞いておけ」
エイケントの舌打ちに、オレはクチを閉じて黙って何度も頷く。
あらためてアルセドが問いかける。
「この魔術道具の使い方を教えろ。ミーシャ、メモを頼む」
「分かったわ。ちょっと待っててね」
「もし嘘を付いたら……分かってるだろうな?」
オレは涙を流し、何度も頷く。
メモの用意が整うと、AK47とM10の使い方を説明した。
「――まぁ、こんなもんだろ」
指の痛みを堪えながら、アルセドの質問に全て答えた。
「このAK47とM10は売るとして、こいつはどうする?」
エイケントが手にしていたのは、スノーと交わした婚約腕輪だ。
「宝石も付いてないし、魔術液体金属で作ったものでしょ。ガラクタ品でしかないわよ。捨てたら?」
「だな」
エイケントが無造作に、婚約腕輪を未だ燃える薪に放り投げる。
(ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう! 殺してやる! 絶対に生き延びて殺してやる!)
オレは腑をマグマより熱く煮え滾らせながら、3人を注視し脳ミソに顔を刻み込む。
『絶対に生きて帰って、殺す』と誓いながら。
「タグも壊して、その辺に埋めておかないとな。俺達だと冒険者斡旋組合で換金なんてできないし」
アルセドは腰から2本あるナイフの1本を抜き、石の上に置いたタグをナイフの柄で叩き付け破壊する。
エイケントが薄ら笑いを浮かべて、踵を上げる。
「そんじゃ、奴隷商人に売り払うまで眠っておけ。せいぜい、あっちの変態共の慰みものになるんだな」
奴の踵が鳩尾に叩き込まれる。
同時にオレは意識を手放した。
こうしてオレは魔人大陸へ、奴隷として売られてしまった。
<第2章 終>
次回
第3章 幼少期 奴隷落ち編 『くっ、エロ同人と同じことをするつもりでしょ!』―開幕―
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明日、12月11日、21時更新予定です。
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