第10話 告白
リュート、8歳。
夏の山場が過ぎ、大分過ごしやすくなってきた午後。
オレは荷物を抱えて、試射場へと訪れる。
河原に荷物を下ろす。
樽(魔術液体金属)、金属製ケース。
突撃銃、AK47。
金属ケースには2種類の木箱が入っている。
ひとつは、腰からさげているリボルバーの38スペシャル。
38スペシャル箱より大きいのが、AK47専用の7.62mm×ロシアンショート(実験弾)だ。
AK47はかなりの時間をかけたおかげで、詰めの段階を残してほぼ完成している。
見た目は黒一色で、ストック(銃の一番後ろにある肩にあてる部分)は木製ではなくメタルフレーム式。
AK47で正確な射撃を狙うには銃身をなるべく眼の高さに合わせる必要がある。だが、ストックが曲銃床(もしくは直銃床でも角度が深いもの)だと銃口を真っ直ぐ固定しにくい為、発射の反動で銃口が跳ね上がってしまう。機関銃、突撃銃のフル・オートマチックに近い連射をすると1発撃つたび銃身が跳ね上がり、そこでまた弾丸が出ると――たちまち空へ向け発砲することになる。
だから反動による跳ね上げを極力小さくするため、AKMを参考に銃身を眼の高さ付近から肩の高さまで下げ、角度を浅くした直銃床にして、さらに微調整を施した(つまり、銃身とストックが一直線になるよう配置)。
また内部構造もちゃんと再現し、自動式を実現している。
弾丸発射後、ガスボート(ガスの取り込み口。弾丸が発射され銃口近くに進むと、薬莢と弾丸に挟まれた銃身内が密閉空間となり、高まった圧力によってガスが一部ガスポートに流れ込む)から発射ガスの一部を取り込んでガスシリンダーの中のガスピストンを後方に押し、ターンボルト(弾丸に接する部分)とボルトキャリアー(ボルトを支える部分)を後退させ撃鉄を起こす。
ボルトキャリアーは後退しきるとリコイル・スプリングの力で戻って来て、弾倉から持ち上がって来た次弾を薬室へと押し込む(ボルト部分が弾1つ分以上後退するので、空間が出来て下から弾が持ち上がる)。
苦労の末、ちゃんとガスオペレーテッド方式が作動した時は感動で叫び声をあげてしまった。
さらに自分で自分を褒めたいのは『セイフティ』『フルオートマチック』『セミオートマチック』の切り替えを組み込んでいる所だ。
セイフティをオンにした時、セレクター・レバーが引鉄を押さえてしまうので、引鉄を動かすことができない。
セミ・オートマチックの場合、セレクター・レバーはどこにも干渉しない。
すると引鉄を引くと、撃鉄は解放されるが、ある一定上がるとディスコネクター(引き金に直付けされている小さな部品)のフックに引っかかり動きを止めてしまう。そうなったら一度、引鉄を元の位置に戻さないと、フックから抜け出すことが出来ない。
さらにフル・オートマチックにした場合はセレクターレバーがディスコネクターを押さえつける。
ディスコネクターが押さえつけられ、撃鉄はフックに引っかからない。
そのため引鉄を戻さない限り、撃鉄は往復運動を繰り返し続けるのだ。
しかもフル・オートマチック用に緩速器もちゃんと追加しておいた。
この緩速器のお陰で、連射をしても適当な間隔が空き、射撃経験の浅い射手でも狙いが狂いにくくなる効果がある。
見た目は金属金属しているが、リボルバーの時のように魔術液体金属しか使っていないため想像以上に軽く出来ている。
精神年齢は30歳以上だが、体はまだ8歳。
AK47(試作品)を持っていると中東などで戦う少年兵っぽい。
もしAK47以外の突撃銃を作ろうと思ったら、制作は不可能だっただろう。
前世の世界では技術力の低い国でも作れるほどシンプルな構造だったからこそ、この異世界でも作ることができた。
だがまだ完成ではない。
問題はやはり弾薬だ。
本体作りと同時並行で試行錯誤を繰り返していたが、満足行く出来にはほど遠い。
一応、ガス・オペレーテッド方式により空薬莢が飛び出る。
それもAK47だからだ。
メーカー品では無い安価な弾薬や湿気で発射薬が劣化した弾薬を撃っても、不発や弾詰まりを起こすことなく(部品同士の組み合わせに余裕がある為)ピストンが作動する。
だがそれで満足する訳にはいかない。
十全に力を発揮させるためにも、オレは時間をかけ最適な配分を探した。
薬莢の厚さ、発射薬量に燃焼イメージ、弾芯の材質などなど――どれもまだまだ未完成。
最近は特に本体がほぼ完成しているため、弾薬開発にほぼかかりっきりになっている。
オレは金属ケースから、蓋にラベルが貼ってある木箱を取り出す。
箱ごとに試射結果を反映、改良した実験弾が詰まっている。
1箱だけ取り出し、バナナ・マガジンに装填。
安全装置を解除。
セミ・オートマチックへ。
コッキングハンドルを引き、薬室にまず弾を1発移動。
肉体強化術で身体能力を向上。
銃口を崖に描かれてある人型の的へ向ける。
ダン!
発砲。
「くッ――!」
空薬莢が空中を舞う。
1発撃つだけで肩を強く突き飛ばされる反動に歯を食いしばる。
『S&W M10』リボルバーに比べて威力、反動、火薬燃焼音……どれも比べものにならない。
手の中に残る感触を確かめながら、フル・オートマチックに切り替える。
気合いを入れ直し連射した。
ダン! ダダダダダダダダダン!
音もうるさいが、銃身が跳ね上がるのを押さえるのに苦労する。
思わず肉体強化術の魔力値を一段上げてしまった。
全弾、撃ち尽くす、体中がジンジンと痺れが残る。
「……う~ん、これもやっぱりダメだ。まだまだ燃焼スピードが速すぎる」
そのせいかどうか――約30m先の的にばらけた弾痕が刻まれている。
AK47はアサルトライフルの中では、命中精度があまり良くない(それでも100mで直径20センチぐらいにはまとまる)。
だが、それを引いてもこれはあまり良い結果ではない。
実験弾の感想を細かくメモして、撃ち尽くした木箱に入れる。
落ちた薬莢はもちろん拾って元入っていた木箱へ戻す。
次は隣の箱を取り出し、マガジンに弾薬を詰め込む。
こうして準備した木箱を(予備を除いて)撃ち尽くし、細かく感想を残す。
準備した実験弾を撃ち尽くすと、次はリボルバーの練習に取りかかる。
今、この場でAK47用の実験弾は作らない。
作るのは翌日になってからだ。
試射場でメモを片手に照らし合わせながら制作する。
なぜすぐに取りかからないかというと――時間をかけ集中してやらないと、メモ通りに改善した実験弾が作り出せないからだ。それだけで午後いっぱいの時間を使ってしまう。
また将来的にAK47が完成したら、リボルバーの使用頻度は圧倒的に下がるだろう。
だが何時どこで役に立つか分からないから、練習を続けているのだ。
この世界を生きるため、出来る技術は多いにこしたことはない。
流れるようにシリンダーに6発の弾薬を詰め、立射する。
次はガンベルトにさしたまま早撃ちの練習。
こうしてオレはハンドガン用の木箱を2つ残し、全て撃ち尽くした。
落とした薬莢を拾い集め、あらたに弾薬を作り直す。
このように肉体年齢が8歳になったオレの1日は、
午前、エル先生の授業補佐。
午後、AK47用の実験弾試射orAK47用の実験弾制作。リボルバーの練習――といった感じだ。
38スペシャルをほぼ作り終える頃に、スノーが試射場に顔を出す。
「リュートくん、お待たせ!」
「だから、突然抱きつくのは危ないって言ってるだろ。あと匂いを嗅ぐのは止めてくれ。汗臭いだろ?」
「そんなことないよ! 凄く良い匂いだよ! ふんふん」
「だからふがふがするなッ、くすぐったいだろ」
「えへへへ、ごめんね」
いつの間にか恒例となったやりとりを交わす。
オレは諦めの溜息をつき、スノーの頭を撫でてやる。
彼女は幸せそうに目を閉じ、白い尻尾をぶんぶんと振った。
スノーも今年で8歳。
将来魔術師学校に進学するための資金稼ぎとして、去年の中頃から彼女はバイトを始めていた。
代表的なのが魔石作りだ。
魔石とは――魔力を溜めることができる石だ。
これに約30日、一定時間、火をイメージしながら魔力を送り続けると火属性の魔石となる。
水をイメージすれば水属性に。
雷をイメージすれば雷属性に。
風をイメージすれば風属性に――と、多用な魔石を作り出せる。
火属性の魔石の魔力が切れたら、再び火をイメージしてまた約30日、一定時間、魔力を送れば再度充電される。
魔力電池だと考えればいい。
属性魔石、魔力再充電魔石(属性魔石より値段は下がる)は魔術道具専門の商人に高値で売れる。
そのお金の一部を孤児院に入れ、それ以外は貯金。
再来年、入学する予定の魔術学校費用となる仕組みだ。
午後はいつも通り、魔術師訓練。
訓練が終わると、スノーは試射場に来てオレと一緒にリボルバーの撃ち方を練習する。
残した弾薬2箱は、スノーの分だ。
最近のスノーの1日は、
午前、魔石に魔力をこめるアルバイト。
午後、魔術師訓練。リボルバー訓練――という感じだ。
スノーは筋がよくリボルバーのリロード、早撃ち、精密射撃などすでにオレと同レベルに達している。
魔術師としての才能もある。
魔術師基礎授業を教えているエル先生曰く、スノーはとても覚えがいいらしい。
まず間違いなく魔術師Bプラス級になれる才覚を有しているとのことだった。
オレはその話を聞いて、嫉妬よりも祝福する気持ちの方が圧倒的に大きかった。
スノーは一番親しい幼なじみだから、彼女が褒められると自分のことのように嬉しかったのだ。
また最近は体の発育も凄い。
抱きつかれるとCカップはある胸をシャツ越しに感じる。
しかもまだまだ成長中で、来年の今頃はDを越えるのは確実だろう。
今年の夏など目のやり場にこまるほどだった。
スノーは北大陸に住む白狼一族のためか、夏場に弱い。
そのせいで服装もラフになる。
肌は真っ白だが健康的な太股、まだ産毛1本生えていないツルツルの脇、うっすら汗で湿った小さなおヘソ、シャツの胸元から覗く張りのある胸!
何度、彼女に気付かれずに盗み見たか!
今だってスノーに抱きつかれて、自分の体が熱くなるのを自覚する。
頭を撫でるだけではなく、柔らかな体を隅々まで触りたいという欲望が進行形で強くなる。
だが相手はまだ8歳。
オレ自身、肉体年齢は同じだが、中身は35歳の大人だ。
欲望に負けて大切な幼なじみを傷つけるマネなどしない。
(YES、ロリータ! NO、タッチ! オレは紳士だからスノーが傷つくようなマネは絶対にしないぞ! …………きっとしないぞ。多分しないぞ)
理性を原動力に彼女に離れるよう声をかける。
「そ、それじゃ練習始めようぜ、ほらスノー離れて」
「もうちょっとだけ、ぎゅっとさせて」
「おふぅッ!」
彼女はさらに腕に力を込めてくる。
スノーの胸の感触が強くなった。
反比例して腰が引ける。
8歳という若い肉体が恨めしい。
むらむらと湧き上がる衝動。
今すぐ彼女を押し倒して、色々なことをしてしまいたい――だが感情が爆発するのを理性で押しとどめる。
自分達はまだ8歳、いくらなんでも早すぎるし、刺激が強すぎる。
オレは胸の感触に名残惜しさを心底感じながら、スノーを引き剥がす。
「も、もういいだろ。これ以上、抱きついてたら練習時間がなくなっちゃうぞ」
「リュートくんのけちんぼ」
「はいはい、ケチで結構。ほら、ガンベルト。シリンダーからだから自分で入れろよ」
スノーにガンベルトごと、リボルバーを渡す。
彼女は慣れた手つきで、ベルトを締めリボルバーを握る。
シリンダーを押し出し、木箱から6発の38スペシャルを手に取り入れていく。
肉体強化術で身体能力向上させ、崖に描かれた人型へ向け発砲。
練習を開始する。
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夕方になると片付けを終え、オレ達は孤児院へと手を繋ぎ帰宅した。
スノーが川原を横手に歩きながら尋ねる。
「リュートくんは、10歳になったらどうするの?」
こちらの世界には誕生日という概念がないが、一般的に15歳になれば成人、つまり一人前の大人として扱われる。
10歳はその進路を決める大事な時期だ。
上流階級者の子女達などは別だが、一般庶民は商人の丁稚、職人の弟子など、実家に余裕があるなら進学したりする。
孤児院内でオレたちと同い年なのは、オレとスノーを含めて全部で4人。
スノーは魔術師学校へ進学予定。
スノーの友達である女子2人も、メイド見習いを希望し町の募集掲示板からいくつかをピックアップ。手紙を出し返事待ちをしている。
オレだけが進路を決めずふらふらしている状態だ。
幼なじみとして心配してくれているのだろう。
「やっぱり、マルトンさんのところに行って、玩具屋さんになるの?」
「いや、それはない」
実際はマルトンから商人にならないかと何度も話が来ているが、全て断っている。
目標がなければ前世の知識を元に玩具を売って暮らすのも悪くない、とは思う。
しかし、オレには決めた生き方がある。
秘密にしていたわけではないが、スノーやエル先生にもまだ話していなかった。
いい機会だから話そう。
スノーには知っててもらいたい。
「僕は10歳になったら旅に出ようと思ってる。それで……出来ればだけど、困っている人や救いを求める人を助けたいんだ」
「どうしてそんなことするの?」
前世で知り合いを自殺に追い込んだ贖罪のようなもの……だとは流石に言えない。
誤魔化すのは心苦しいがそれらしい理由を口にする。
「去年、スノー達を助けただろ? あの時、誰かを助けることにやり甲斐を感じたんだ」
「だったら、スノーもリュートくんと一緒に旅に出る!」
スノーならそう言ってくると思ってた。
オレは用意していた台詞を口にする。
「スノーは10歳になったら魔術師学校に進学するんだろ。そして、立派な魔術師になって両親を捜しに北大陸へ行くのが夢じゃなかったのか?」
「リュートくんと一緒なら、今からだって北大陸へ行けるよ」
確かにスノーにもAK47を持たせれば、戦力は2倍。
大抵の魔物や敵を相手にするのは難しくないだろう。
だが、スノーには魔術師としての才能がある。
しかも、エル先生から『Bプラス級間違いなし』と太鼓判を押されている。
もしかしたらその先も……。
そんな彼女の才能を潰すマネはしたくない。
オレは素直にスノーへ気持ちを伝えた。
「僕もスノーと一緒にいられるのは嬉しいよ。けど、スノーには魔術師としての才能がある。スノーの才能を食い潰してまで一緒にいたくない。僕はスノーのお荷物になりたくないんだ」
「リュートくん……」
スノーは浮かんだ涙を指で拭う。
彼女は足を止め手を離し、互いに向き直った。
奇しくもそこは、彼女をゴブリンから庇い助けた場所だ。
スノーは夕陽に照らされる以上に、喉元まで肌を赤く染める。
彼女の瞳は悲しみではなく、熱い感情で潤んでいた。
スノーは胸の前で手を組み、勇気を振り絞り声を出す。
「リュートくんにずっと……お話ししたいことがあったの」
夕陽が沈む河原。
顔を赤くして震えながら、真っ直ぐ見つめてくる幼なじみ。
漫画やラノベの鈍感系主人公じゃあるまいし、スノーの気持ちは前から知っている。
オレから言い出さなかったのは、彼女がまだ8歳の子供だからだ。
しかし今、そのスノーから気持ちを伝えてようとしてくれている。
生まれて8年。
前世の記憶も足せば、35年。
初めて女の子から告白される。
もちろん返事は決まっている。『Yes!』しかない。
スノーは夕陽を背に精一杯の勇気を振り絞る。
彼女はありったけの気持ちを込めて、高らかに叫んだ。
「スノーを……スノーをリュートくんの『せいどれい』にしてください!」
「――はああああああっぁぁあッ!!!?」
予想の斜め上の斜め上発言に、思わずスノーに負けないほど絶叫してしまう。
スノーのアホの子レベルが想像以上に加速していた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
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明日、12月2日、21時更新予定です。
第9話等の誤字脱字修正は、現在ちょっと忙しいので近日中に修正したいと思います。ご指摘頂きましてありがとうございます!
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