第7話 銃器開発
リュート、6歳。
5歳の大半は魔術液体金属が届いた日から、実験と検証を繰り返すことに費やした。
魔術液体金属とは――金属スライムと呼ばれる魔物から得られる液体状の金属で、魔術道具として流通している。
魔術液体金属は特殊な金属で、触れながら武具をイメージして魔力を流すとそのモノの形になる――という特性を持つ。
メリットは少量なら持ち運びが楽で携帯しやすいことだ。
そのため暗殺者が好んで良く使っているらしい。
デメリットは、一度形を固定したら二度と魔術液体金属には戻らないことだ。
鮮明にイメージを描かないと、剣ならただのなまくらに、鎧は厚さが均一でない上にサイズも合わない品物しかできない。
使い所が限られ、扱いにくい上、値段は希少な魔術道具のため高い。
不人気商品の代名詞とも呼ばれる品物だ。
そんな魔術液体金属を研究した結果、これが本当に素晴らしい素材だということが分かった。
まず強度は魔力を注いだ分だけ強固になる。
紙一枚ほどの厚さなのに、鉄板以上の強度を持たせることも可能だった。
またバネを作る際、ピアノ線を棒に巻き付け、焼き入れして――などと手間はまったく必要としない。
魔力液体金属に手を入れて、サイズと強度は魔力を注ぐ量で調整。
引き上げれば、驚くほど高品質のバネが出来上がる。
もし魔術液体金属を前世の現代社会に持ち帰れたら、材料工学の根底を覆すだけでは収まらない。
確実に新しい素材革命が起きるレベルだ。
ある程度の期間があれば、下手すると宇宙エレベーターが完成するかもしれない。
あまりの素晴らしさに興奮が押さえきれず、優秀な魔術師でもあるエル先生に話し聞かせたが、
「そう、なんですか……」
『興味ない話をされても』というニュアンスがたっぷり乗った返答を頂く。
どれだけ魔術液体金属は不人気なんだよ……。
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6歳になって、今までやっていた午前中の授業補佐に加え、午後からは割り当ての雑務をこなす日々が続く。
ちなみに、今ではリバーシや他玩具の一部売上金が、3ヶ月(90日)ごとに孤児院へ振り込まれている。
最初、エル先生はこのお金はオレが受け取るべきだと主張した。
だが、オレとしては当面は魔術液体金属さえ手に入れば満足だし、それに孤児院の規則でお金を稼いでいい年齢は7歳からだ。
今回のリバーシは例外として、今後の孤児院経営の足しにして欲しいとやや強引に押し付けた。世話になっているせめてものお礼である。
孤児院にそれなりの額を寄付する形になったが、割り当てられた労働が免除される等の特典はない。言えば考慮して貰えるのかもしれないが、無論サボる気はない。
他の子供達に悪影響を与えたり、後ろ指をさされないためにも今まで通り仕事をこなし、ハンドガン作りは午後、仕事をきっちりと片付け終えてから取りかかる。
最初は、魔術液体金属でリボルバーのハンドガンその物を作り出そうとしたが失敗した。
魔術液体金属から引き上げたリボルバーはシリンダーが回らず、銃身も細く、ライフリングなど笑ってしまうほど歪んでいた。
イメージする部品・内部構造が多すぎて、魔力を注ぐ前に薄れてしまう。
結果としてこんな出来損ないができてしまったのだ。
だから一度に丸ごと作り出すのは諦めて、部品から組み立てる計画に変更する。
前世の自分は軍オタで、特に現代兵器に傾倒していた。
金属加工工場に勤めていたせいもあり、転生前に何度も『自分の手で銃器を作れないか?』と夢想した。
リボルバー、オートマチック、アサルトライフル等――図面を眺めながら、当時、務めていた工場の機械類と技術と照らし合わせ制作は可能だと実感。
1人部屋で酒を飲みながら、にやにやとするのが楽しみのひとつだった。
魔術液体金属が手に入った今、前世の知識・技術力があればハンドガン制作も決して夢ではない。
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オレは中樽を抱えて、孤児院の裏庭へと運び出す。
今、作ろうとしているのは『S&W M10』をモデルにしたリボルバー。
前世の日本警察にも正式採用されたこともある銃だ。
なぜオートマチック(連射が可能でトリガーを引くと空薬莢が出てくる拳銃)ではなく、西部劇などに出てくるリボルバーを作ろうとしているのか? それには理由がある。
『オートマチックは内部構造が難しすぎて、初めて作るのには向かない』
『リボルバーは部品点数が少なく、オートマチックに比べて作りやすい』
『リボルバーは頑丈で、弾詰まりの心配もなく、メンテナンスも楽(だから滅多に銃を使わない日本警察向け)』
以上の三点から、初制作に適している。
しかし、いくらオートマチックより内部構造が簡単で、部品点数は少ないと言っても1、2日で作れる物ではない。
なぜかと説明すると――まず銃の歴史から説明しなければならなくなる。
銃を1から作成するということは、ある意味転生前の世界で人類が得た技術の蓄積を、工夫を凝らすことによって、この世界にオレの手で再現するということだからだ。
まず火薬――『黒色火薬』。
ちなみに歴史的な背景を言うと、『黒色火薬』はいつ・何処で発明されたのか諸説あるが、現在の定説は、中国にて6~9世紀頃に発明されたと言うものだ。
当時、中国の煉丹術師(錬金術師とも言う)が不老不死の妙薬の研究を行っており、その過程で生み出されたものとも言われ、850年頃に記された『真元妙道要路』に火薬の製法が記されている。
彼らの子孫は、その後13世紀半ば頃に、短い筒に火薬を詰めて木や竹の先に取り付けるという『火槍』という武器を開発(弾を発射するものではなく、簡易型の火炎放射器・目潰しのようなものであったらしい)。
これが筒型火器の原点となる。
さらに14紀頃、ヨーロッパで『タッチ・ホール式』の銃が作られる。
『タッチ・ホール式』とは、 城壁を崩すなどの用途に使われていた大砲を小型化したもので、筒の奥に詰めた火薬に、筒に開けた穴から点火し弾丸(石や鉄)を発射する方法で、最も原始的な銃だ。
焼いた金属棒などを穴から火薬に押しつけて爆発させる為、『タッチ・ホール式』と呼ばれている。
それからほどなく1400年頃、銃の原形となる個人携帯火器『アーケバス』が同じくヨーロッパで誕生。特徴は火縄で黒色火薬に火をつける形に進化した事だ。
アーケバスとは『フックが付いた筒』という意味のドイツ語『Hakenbuchse』を語源としている。
この『アーケバス』をさらに改良してS字型の火縄留め(火鋏)&引き金の役割をする部品を取り付けると、火縄銃のもっとも古いタイプ、S型サーペンタインが出来上がる。
銃身後方につけられたS字金具(S字の中心点は銃身)の右上端に火種がつけ、S字の下の部分を手で持ち手前に引くことによって(引き金の役割)、火種が銃身に近づき着火する形だ。
同時に威力が上がった為に騎士たちの纏っていた金属製の鎧も無意味になり、戦法・戦術も変化していく。
15世紀に入ると、本格的な火器の時代に突入する。
それ以前は鉄を円形に並べ、たがをはめて銃身を作っていた(樽の製法と同じなので、そのため樽=バレルと今でも呼ばれている)が――その後15世紀に入り、『青銅』を型に流し込んで作る一体鋳造で銃身が作られるようになった。
青銅は銅、錫の合金で、鉄に比べた利点としては融点が低く柔らかい等があげられ、低い技術力でも鋳造しやすい(欠点としては同じ理由で、摩耗しやすく曲がりやすい)。
だが16世紀になって鋼が製造できるようになり、炭素含有量の異なる鋼と軟鋼を熱してリボン状の平板を鍛造(叩く等で金属に圧力を加えて加工する製法)し、それを芯棒に巻き付けた後加熱溶接して作られたダマスカス銃身が広まる(複数種類の鋼を混ぜて鍛造することによってダマスカス模様、つまり独特の木目状の模様が浮かぶ。ちなみに日本刀にある文様もダマスカス模様の一種である)。
だが、欠点もあった。リボン状に鋼材が巻かれた巻き銃身の為、一体成形されたものに比べ強度が弱く、無煙火薬が発明されて以降は製造量が減少することになる。圧力に耐えきれず、銃身が壊れる危険がある為だ。
その後1856年、イギリスのヘンリー・ベッセマーが画期的な『転炉』を考案し大量の熔鋼を生産できるようになる。ヘンリー・ベッセマー製鋼法と言われ、融解した銑鉄(高炉等で鉄鉱石を還元して作られる鉄。多数の不純物を含む)に空気を吹きつけて酸化化学反応を起こし、不純物を除く(焼いて取り除く)ことによって鋼を作る方法だ。
その後様々な合金が作られた。
火器の素材となるクロムモリブデン鋼(鉄に僅かなクロムとモリブデンを加えた合金。強度が高く、熱にも強い。自転車のフレームや航空機にも使用されている)。
そして、同じくステンレス鋼(鉄にクロムを10.5%以上加えた鋼。加工性と粘りがあり、耐食性がある為『ステンレス』と呼ばれ多用されている)。
強度や防錆、粘り強さを調整できる鋼材が生産可能になったのだ。
オレも現代兵器――ハンドガンを作るなら黒色火薬ではなく、無煙火薬のように威力のあるものを使用する予定だ。
だから、ただの鋼では強度がまったく足りない。
21世紀の銃身は殆どがクロムモリブデン鋼か、ステンレス鋼で作られている。
そのためには『転炉』を作り出さなければならない。
はっきり言っていくら前世の記憶を持っていようとも、そこまで今のオレが作り出すのはほぼ不可能だ。
手間、時間、資金、人材――上げたらきりがない。
さらに素材が準備出来ても、必要な部品を作り出すための設備、技術が必要になってくる。
製造したいパーツのおおまかな形をしたブロックを鋳型でこしらえ、それをフライス盤やタレット旋盤などで削りだし成形する『削り出し加工』は無理でも、鍛冶屋のようにひとつずつ鍛造する方法もあるが――
さすがに金属加工工場に勤めていたオレでも、そんな技術は持っていない。
しかしそんな問題を解決してくれたのが魔術液体金属だ。
頭の中でイメージして、魔力を流せばその通りに形になる。
しかも魔力を注いだ分だけ強固になる。
弾丸発射時の熱やガス圧力にもきっと耐えてくれるだろう。
この異世界で、これほどハンドガン作りに適した材料は他にない。
オレは前世で逃げ出したことを悔い、この転生世界では決して逃げ出さず、困っている誰かがいたら助けようと決意した。
しかし自分には魔術師としての才能がない。
人助けどころか、近くにいる大切な人達を守る力すらなかった。
だから力を模索した結果――魔術液体金属を知り『ハンドガンを作れないか?』と思い至った。
だが、目的は自分としてもそれはそれで正しいと思うし良いのだが――実際『ハンドガンを作れる』という事実を目の前にすると、心が高揚してくる。前世では夢想するだけだったハンドガン作りに取りかかれることに、つい興奮してしまうのだ。
あちらで生きていた時は仕事が終わり自宅で酒を飲みながら、専門書の図案や分解図を眺めたり、ネットでモデルガンを一から自作する動画を眺めて羨ましがっていただけだった。
法律的、資金的、時間的問題で妄想するしかなかったのだ。
だが転生したこの世界には銃刀法違反で取り締まる法律はない。
考えられる最高の材料も目の前にたっぷり鎮座している。
夢想していた事が現実になったのだ。にやにやと笑みをこぼすな――というのが無理な相談だ。
越えなければいけない問題は多々あるが、苦労を憂う不安より作業ができる喜びの方が圧倒的に大きかった。
オレは締まらない笑みを浮かべたまま樽の中に両腕を入れかき混ぜる。
「それじゃさっそくハンドガン作りを始めますか。……まずは試しにシリンダーでも作ってみるかな」
オレは目を閉じ、時間をかけシリンダーを脳内に浮かべた――
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『S&W M10』をモデルにしたリボルバー作りを始めて、半年が経過した。
今日も午前はエル先生の授業補佐、午後からは雑務を率先し終わらせる。
孤児院の裏庭に大分減った中樽を持って移動した。
毎日、この空いた自由時間中に少しずつ部品作りをしている。
もっとも苦労したのが銃身にライフリングを刻む作業だ。
ライフリングとは銃身の内側に刻まれた溝のことだ。
弾丸に回転を与え安定し飛行させ、命中精度を上げるために必要になる。
このライフリングを刻む代表的な方法が2つある。
ブローチと呼ばれるドリルのような切削工具を引き抜きライフリングを刻む『ボタン法』。
ライフリングが施された銃腔空間の形をした芯棒に、銃素材を被せ外側から力を加えて形を作るコールドハンマー法。
以上、2種類だ。
オレは後者のコールドハンマー法を採用した。
この方法は大量生産に向いているため、大手銃器メーカーの多くが採用している。
ライフリングを施す芯棒作りには多大な労力がかかる。だが一度作ってしまえば魔術液体金属であればライフリングを施した銃身を大量に作り出すことができる。
そのため最初は手間でも、コールドハンマー法を採用したのだ。
しかし想像以上に芯棒作りには苦労した。
何度も調整したバージョンをいくつも作り、メモをして最適な出来を探す作業を2ヶ月近く延々と繰り返した。
だが、お陰で自身が納得できるライフリングの銃身を作ることに成功する。
これで芯棒を魔術液体金属に浸し、被さるようにイメージして魔力を注げば高品質のライフリングが刻まれた銃身を安定して作り出すことが出来るようになった。
他にも沢山の苦労があった……リボルバーは内部構造がオートマチックより単純(笑)と高をくくって、だがその後調整の難しさに気づき試行錯誤を繰り返した後、シリンダーを狂い無く回転させ定位置で止める構造をようやく再現。
それから撃鉄に撃針、シアを作る。引き金がちゃんとシリンダーストップ、シアと噛み合うように調整しハンマー・ブロック、リバウンドスライド、メイン・スプリングも作り出し組み込んだ。
そして出来たのがこの試作品1号だ!
黒一色の『S&W M10』リボルバー。
照星、照門も作ってある。グリップは木を使わず、編み目を入れた金属製の滑り止めを作った。用心金、エジェクター・ロッド・シュラウンド、エジェクター・ロッド、リコイル・シールドもちゃんと作った。
さらにシリンダー側面には必要なかったが、見映えとしてフルート(重量削減のため削られた溝)も掘ってある。
見た目はいかにも金属で重そうだが、魔術液体金属の特徴である『魔力を注いだ分だけ強固になる』のお陰でモデルガンの『S&W M10』とほぼ同じか、軽いぐらいだ。
空撃ちをするたび、カチカチと鳴る撃鉄と回るシリンダーの震動が心地いい。
このままだと自由時間が終わるまで、空撃ちしそうだ。
気持ちを切り替え、課題に取りかかる。
今日はいよいよ試射する。
ここで問題になってくるのが弾だ。
転生した異世界には黒色火薬も、無煙火薬も無い。
「確か無煙火薬の作り方って……ニトロ類を混合して綿に浸して云々かんぬんだっけ? うん、ハードルが高すぎる……」
また無煙火薬を例え作り出せたとしても、弾に詰めて撃てば弾丸が出る――というものでもはない。
ハンドガンとライフルでは求められる燃焼スピードが違うのだ。
ハンドガンの場合、銃身が短いため『弾丸が銃口を出る前に燃焼を終えるような、速燃焼性発射薬』が求められる。だから現代のハンドガンの発射薬は、黒色火薬的粉末ではなく小さな粒状になっている。
丸太と同じ質量の大量の割り箸へ同時に火を付けたら、どちらが速く燃えるか?
答えは当たり前だが、割り箸だ。
割り箸の方が表面積が多いからだ。
発射薬も同じで、粒状の方が速く燃える。
ただ爆発さえすればいいというものではない。
考え出すと次々に出てくる問題――だが、そんな問題を一気に解決するのが魔力だ。
魔術師は魔力を直接、火や水、風、雷、土などに変える。
特に水や土などは、何も無い空間から生まれる。火や雷も、魔術師自身が貯めた体のエネルギーを使用している訳では無い。質量保存の法則を無視した現象のようにも思えるが、仕組みは解らないが実際物質やエネルギーが生まれているのは確かだ(何も無い空間からエネルギーが生まれる推論はいくつかは作れるが、どれが正しいかは解らない)。だが、どちらにしても魔術師に『得意な系統』があるということは、物質やエネルギーの創造にはイメージが大切なのだろう。
ならば弱いけれども『火』『水』『風』『土』の四元素魔術を扱うことが出来、さらに実際に火薬を知っているオレであれば、魔力で無煙火薬の代わりを創り出す事も可能なのではないだろうか。そう考え、学んだ魔力コントロールの技術で今まで試行錯誤を繰り返して来た。
基本的な所までは出来上がっている。後はイメージ力で、燃焼スピードをコントロールすればいい。
発射薬を詰めていない弾薬は、シリンダーの調整が終わった時点で時間を見繕って試作していた。
最初はサイズが大きすぎてシリンダーに入らなかったり、逆に引っかからず落ちたりした。
今では細かい調整記録も取り終えて、発射薬以外はほぼ問題ない仕上がりになっている。
調整記録の書かれたメモを確認して、右手だけを魔術液体金属の中に入れる。
弾薬を構成する部品――サイズは38スペシャル。薬莢の内部に魔力を込める。
発射薬の魔力は爆発、燃焼、破裂、無煙火薬をイメージして放出、さらに圧縮し、固定静止させる。
細心の魔力コントロールが必要だが、その修練は積んできている。無事に固定化作業が終わり、思わず止めていた息を勢いよく吐き出す。
その上からさらに弾芯で蓋をする。
材質は鉛をイメージ。
疑似鉛の上に被甲を薄く被せる。
お尻部分の雷管にも小爆発を引き起こす魔力を込めて、最後にその全部を弾丸で覆えば完成だ。
右手を魔術液体金属から取り出す。
手のひらには前世で見覚えのある弾薬がひとつだけ作り出されていた。
見た目は本物と変わらない。
「問題はちゃんと弾が出るかどうかだな」
さっそくリボルバーに弾薬を込める。
シリンダーにも問題なく入った。
捨てられていた煉瓦を拾って、適当な木箱の上に立てる。即席の的だ。
約9メートル離れ、構える。
右手で握り、目一杯突きだし固定。
左手はリボルバーと右手を下から支えるように添える。
立射という基本的なハンドガンを撃つ構えだ。
精神年齢は30過ぎだが、肉体はまだ6歳。
衝撃に備えて肉体強化術で全身を強化しておく。
撃鉄をおこし、息を吐き止める。
引鉄を人差し指で静かに絞った。
バガン!
「ぐがァ……ッ!?」
発砲音ではない。
暴発だ!
リボルバーが内部から吹き飛ぶ。
爆発に近かった右手は肉体強化術のお陰か、指が吹き飛びはしなかった。
親指と人差し指がギリギリ繋がっている程度で済む。
「吐き気をもよおすほど痛い――ッ」
「な、なんですか今の大きな音は! ひぃ……ッ!?」
エル先生が暴発音に気が付いて、慌てて裏庭に駆けつける。
オレの重傷を見て先生は小さく悲鳴をあげた。
顔色は血の気を失ったように真っ青になる。
今にも泣き出しそうな顔で駆け寄ると、すぐに傷の確認をする。
重傷なのは右手、他にも傷がないか確かめた。
命に関わるものではないと判断したのか、先生の顔色にやや赤みが戻る。
子供達も音に気が付き、姿を現したが先生が鋭い声で押し止めた。
「皆さんは、来てはいけません! 年上の子は、下の子をすぐ中へ連れて行ってください!」
鶴の一声で、子供達は孤児院へと引き返す。
「リュートくん! 貴方はいったい何をしたらこんなことになるんですか!」
右手を押さえうずくまっているオレを先生は叱りながら、手をかざす。
「手に灯れ癒しの光よ、治癒なる灯」
「……おおぉ」
さすが天下の魔術師Bプラス級。
温かな光が手のひらから生まれると、吹き飛びかけていた指は磁石で引き合うように繋がる。
傷痕もまったく残らず、綺麗に完治した。
「ありがとうございます、先生」
「『ありがとう』じゃありませんよ! いったい何をしたらあんな大怪我を負うんですか!」
「いえ、その新しい魔術道具を開発中でちょっと込める魔力が多すぎて……」
一からハンドガンの説明をしても長い上、理解させるのに時間がかかる。
説明を省いて適当に誤魔化した。
エル先生は樽に入った魔術液体金属を一瞥する。
「……リュート君が何を作っているのか知りませんが、みんなを騒がせて、心配をかけたお説教をしますのでちょっと応接室まで来てください」
「わ、分かりました! 自分で歩きますから耳を引っ張らないでください!」
エル先生はまるで昭和の母親のように、オレの耳を掴むとずるずると引き摺るように孤児院へと戻る。
応接室に連れてこられ、床に正座。
長い長い説教を聞かされる。
もちろん、夕飯は無し。
こってり絞られた後、騒ぎを起こしたお仕置きとして30日間の実験禁止と罰則労働を命じられた。
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暴発から30日後、実験解禁!
前回の反省点は、罰則労働期間中に洗い出しを終えている。
リボルバーは暴発したが、地面に着弾した弾芯にはライフリングがしっかりと刻まれていた。
これはちゃんと弾が銃身を通って発射したことを示す。
問題は恐らく発射薬代わりの魔力量が多すぎ&炸裂のイメージ力が強すぎたのが原因だ。
黒色火薬時代、薬莢内部は火薬で満たされていた。
しかし無煙火薬の発明後、弾薬に必要な量は黒色火薬の半分になる。
この空いたスペースを『エアー・スペース』と呼ぶ。
一般的に発射薬が発火した時、この空気層が緩衝となり、圧力が一気に上昇するのを防いで弾丸の速度を一定にするという利点がある。
本来の薬莢は専門家によって『適切な種類の発射薬を適切な量』だけ入れてある。
なのに素人が素人的判断で、弾薬のリロード(薬莢の再利用)でエアー・スペースも考えず発射薬の種類や量を選択、増量したらどうなるのか?
最悪の場合――暴発だ。
オレは半年以上、リボルバーを作るためにイメージ力を磨きに磨いてきた。
そのせいで込めるイメージ力も、魔力量も多すぎたのだ。
新たにリボルバーを作り直し、魔力量とイメージ力を調整しつつ適切な発射薬量を見付けていこう。
これからまた試行錯誤とメモ取りの時間が始まる。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
2話、6話のタイトルが被っていたので6話タイトルを変更します。正直、素で気づきませんでした。いや、マジで。
皆様のお陰で『軍オタ』が、日間ランキング1位になりました!
うおおおおお! まじですか、信じられない!? 記念にスクショを撮っちゃいました。本当にありがとうございます!
これからも頑張って更新するのでよろしくお願いします!
明日、11月29日、21時更新予定です。
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