(2014年3月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ソビエト連邦が崩壊寸前だったころ、米国のジョージ・H・W・ブッシュ大統領はキエフで演説し、モスクワを刺激しないようにウクライナのナショナリストたちに強く促した。米国の保守派はこれを「チキンキエフ」演説と呼んだ*1。
「最高宥和責任者」との烙印を押されて久しいバラク・オバマ大統領が今、自らも「チキンキエフ」と呼ばれかねない状況に直面している。ニワトリの檻の周りをうろうろしているロシアの狐、ウラジーミル・プーチン大統領にオバマ氏は立ち向かうことができるのだろうか?
オバマ大統領の将来を左右する重大な局面
2月28日、ホワイトハウスでウクライナ情勢について記者会見したバラク・オバマ大統領〔AFPBB News〕
その手段はもちろんのこと、オバマ氏にそうする意思とスキルがあるかどうかは定かでない。だが、これは大統領としてのオバマ氏の将来を左右する問題だ。プーチン氏がロシア帝国時代の国境線を回復したがっていることは、ほとんど疑う余地がない。オバマ氏は、プーチン氏の野望を阻止する方策を何とかひねり出さねばならない。
それには、我々がすっかり見慣れてしまった及び腰のオバマ氏とは異なるオバマ氏を見せる必要があるだろう。オバマ氏は大統領に就任する前から、失地回復を図るロシアに宥和政策を取ろうとしているとの批判を浴びていた。
オバマ氏と大統領の座を争った共和党のジョン・マケイン氏は、2008年のロシアによるグルジア侵攻を引き合いに出し、自分ならモスクワの拡張主義者とは一線を画すると主張した。
この時は、対立候補のタカ派的な意見に同調しないオバマ氏の姿勢の方が、米国民を覆うムードにはるかになじんでいた。米国人はイラクとアフガニスタンの戦争にうんざりしており、オバマ氏はその終結を公約したのだ。そしてその公約は果たされた。
どちらかと言えば、今日の米国人はあの時以上に、紛争に巻き込まれることに警戒感を抱いている。しかし、ロシアによるクリミアの占領で、情勢は劇的に変化している。
オバマ氏が望んでいるものはすべて――国内での国造り、核を巡るイランとの合意、穏やかな中東、そしてアジアへのピボット(旋回)に至るまで――、オバマ氏がプーチン氏にどう対応するかにかかっている。オバマ氏は大統領に就任した際、米ロ関係の「リセット」を提案したが、これはもうボロボロだ。
また、御多分に漏れずオバマ氏は、プーチン氏が現状を覆す試みに前向きであることを以前からずっと過小評価してきた。ホワイトハウスは先週の木曜日になっても、ロシアがクリミアに侵攻するとの予測を退けていた。
土曜日に90分にわたって行われた電話会談でプーチン氏はオバマ氏に、ロシアによるクリミア占領をウクライナ東部に広げる用意もあるとにおわせた。そこまではやらないだろうなどと決めつけるのは、世間知らずというものだ。
*1=ウクライナの鶏肉料理と、臆病者という意味の「チキン」とをかけたもの