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【社説】プーチン・ロシア大統領、ウクライナに「宣戦布告」

ウォール・ストリート・ジャーナル 3月3日(月)11時38分配信

 ロシアのプーチン大統領は2日、ウクライナ南部のクリミア半島を武力で掌握し、ウクライナの残りの地域も視野に入れ始めた。鉄面皮の同大統領の侵略により、冷戦終結以降初めて欧州の中心部に戦争の脅威がもたらされている。今や問題は、オバマ米大統領と欧州諸国がそれにどう対応するかになっている。

 同大統領のクリミア侵攻作戦は迅速で組織立ったもので、数週間前から計画が練られていたことをうかがわせる。プーチン氏は、ヤヌコビッチ前ウクライナ大統領が民衆蜂起で追放されると、ウクライナの分断に動き出した。ロシア軍はウクライナ領土に侵攻し、今やクリミア自治共和国のすべての国境検問所、港湾、空港を掌握した。ロシア議会は1日に、ウクライナに対し軍事介入を承認した。これは宣戦布告に他ならない。ウクライナ新政府は軍を臨戦態勢に置いている。

 これは、すべてロシアが引き起こした危機だ。プーチン氏は、ヤヌコビッチ氏がキエフを離れた2月21日、オバマ氏との電話会談で、ロシアの行動や意思について嘘をつき、ラブロフ・ロシア外相もケリー米国務長官との電話会談でケリー氏を欺いた。ロシアの電撃作戦が功を奏すれば、22年間にわたったウクライナの統一された独立国家の歴史に終止符が打たれる。ソ連崩壊後米国が高い代償を払って構築した欧州の平和的な秩序も危機に瀕することになる。

 プーチン氏は、東欧におけるロシアの覇権再構築への野望を隠そうとしていない。彼は、ソ連時代の共産主義を超国家主義に置き換え、西側を侮辱し、縁故国家資本主義を形成してきた。2008年にはグルジアのかなりの部分を代価なしに奪取した。4600万人の人口を抱え北大西洋条約機構(NATO)軍と接するウクライナを手にすれば、大きな戦利品となる。プーチン版ブレジネフ・ドクトリン(共産主義陣営の利益のためには陣営内の一国の主権は制限されるという考え方)は、ロシアの従属国家の独裁政権を守り、自由な欧州に加わるのを阻止しようというものだ。

 1日には、ロシアがクリミア半島を手にすることは第1段階にすぎないことが明らかになった。ロシア上院はウクライナに宣戦布告を宣言するのを承認し、さらにはウクライナ東部のハルキウやドネツィクで数千人に上る親ロシア住民が街頭に現れ、ロシアによる保護を要求した。27日には、武装集団がクリミア自治共和国政府の庁舎を急襲し、掲揚されていたウクライナ国旗をロシア国旗に置き換えた。

 ウクライナ東部ではロシア語が公用語になっているが、東部住民は1991年のウクライナ独立をちゅうちょなく支持し、先週末まで大規模な分離運動はみられなかった。政治も牛耳っている東部の経済界は、ヤヌコビッチ氏への支援を取り下げ、新政府を支持した。だが、ウクライナ新政府の軍や警察に対する統制力は限られており、プーチン大統領はウクライナ東部にロシア軍を侵攻させる誘惑にかられている。

 ウクライナの防衛費の対国内総生産(GDP)比は1%超にとどまる。同国は軍備増強を怠ってきたため、ロシア軍に対して勝ち目はない。それでも約15万人の兵力と100万人の予備役は侮れない。新政府は軍の指揮系統を掌握し、兵力を動員する必要がある。ウクライナ軍がクリミア自治共和国を奪還しようとしても失敗するだろうが、差し迫った脅威はウクライナ東部である。

 オバマ大統領は1日、プーチン大統領と電話で1時間半会談し、激しい応酬となった。ロシア政府は会談後、「ウクライナ東部とクリミア半島で一段と暴力が広がった場合には、ロシアは国益とそれら地域のロシア系住民を保護する権利を有している」との声明を発表した。これに対しホワイトハウスは声明で、会談でオバマ大統領はロシアがクリミア半島を奪取したと「非難」し、「国際法違反」であると断じたと述べた。

 これはさぞかしロシアを震え上がらせるだろう。米国の唯一の具体的な対抗策は、6月にソチで開かれる主要8カ国首脳会議(サミット)への準備作業への参加を停止することだけだ。これが真剣な対応と言えるだろうか。オバマ氏をはじめ西側指導者は、直ちにサミットをボイコットし、ロシアをサミットから追放すべきだ。

 西側には対抗手段がもっとある。ロシアは現在、西側市場への参入や西側の資本誘致を必要としている。ロシアとの貿易・金融関係について全面的に再考すべきであり、米国はロシアの銀行が世界の金融システムに参入するのを制限する必要がある。さらに米国は、ロシア政府当局者へのビザ発給停止や金融資産凍結リストを拡大すべきだ。プーチン氏を含めてだ。米国は、欧州を拠点とする米海軍第6艦隊の戦艦を黒海に派遣することもできる。NATOはウクライナ政府と一定の関係を持っており、08年には将来的に同国のNATO加盟を約束した。同国を助けるためにできることをすべきだ。

 プーチン氏は、オバマ大統領の言葉を真剣に受け止めなくても大丈夫だと思っている。オバマ氏をはじめとする西側世界は、単なる脅しではなく行動を起こさなければならない。オバマ氏は、ロシアの2008年のグルジア侵攻後、問題はディック・チェイニー前副大統領にあると批判し、ロシアとの関係の「リセット」を図った。シリア内戦ではロシアは西側世界をだまし、オバマ氏はロシアにシリアの和平交渉のパートナーの地位を与えた。

 冷徹なパワーポリティクスの世界において、ウクライナはオバマ氏がシリア内戦で言葉通りに行動しなかったことの犠牲者となった。オバマ氏は、アサド政権が化学兵器を使えば「一線を越えた」とみなすと警告したにもかかわらず、武力行使に踏み切らなかった。アジアや中東の米国の敵対国や同盟国は、オバマ大統領の対応を注視するだろう。中国は尖閣諸島を狙っており、イランは核協議で米国の弱さを計算に入れようとしている。

 ウクライナは、ロシアと国境を接するただ一つの国ではない。ロシアによるクリミア併合を座視するわけにはいかない。ウクライナは現状の国境を変えず独立国として維持され、望むならば欧州連合(EU)やNATOに加盟できる自由を保持しなければならない。世界には、オバマ氏が世界の指導者の地位から降りようとしていることで生まれた間隙を突こうとする者であふれている。プーチン氏は、あっという間に世界を新たな無秩序状態に陥れる可能性がある。

最終更新:3月3日(月)11時38分

ウォール・ストリート・ジャーナル

 

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