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「日本第二の都市が国に頼っているのはおかしい」 橋下徹前大阪市長に聞く、地方自治体の未来とは?その1

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国や自治体のやる仕事は極力少なくていい

堀江貴文(以下、堀江) 今回は“大阪市が今どうなっているのか”みたいな話が聞きたいんですよ。

橋下徹(以下、橋下) それがもう大変なんですよ。

堀江 安倍政権がまた、タクシーの規制強化に向かっていますよね(タクシーの過剰地域での新規参入や増車の禁止、運賃の安値規制などを含んだ特別措置法が1月下旬に施行された)。あれって、市や府のレベルではどうにかできないんですか?

橋下 できないですね。国土交通省運輸局がやっているので。でも、大阪市は、この4月から、公共交通機関である市営地下鉄の初乗りを20円値下げするんですよ。さらに今、市営地下鉄の民営化を進めています。この民営化が実現すれば、初乗りだけじゃなく料金全体の値下げが可能なんじゃないですかね。そして地下鉄が民営化できたら、今度は市営バスも民間に引き継いでもらおうと思っているんです。今の市営バスは不合理な路線がたくさんあって、真っ赤っかな赤字なんですよ。

堀江 なんで不合理な路線を引いたんですか? やっぱり、市民からの要望とか、そういうのがあったから?

橋下 いや、大阪市内はほかのバス会社が入ってこれないからですよ。一社独占状態なわけです。しかも赤字でも補填されますから。

堀江 それ、都バスも一緒ですね。

橋下 そうです。そして民間のバス会社に比べて、はるかに高い給料をもらっている、赤字なのに。だから、僕は民営化をしようとしているんです。それに、なんで民営化が必要かといえば、市営地下鉄やバスは税金を払ってないでしょ。公営企業だから。それに配当も払わないわけですよ。だから、市と切り離して、税を納めてもらって、株式配当も出してもらわなきゃいけないと思うんです。

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堀江 ああ。

橋下 だけど議会が反対する。

堀江 議会が反対するインセンティブは何なんですか?

橋下 それは、自分たちの所管にしておきたいってことですよ。この抵抗はすごい。役所がなんで新規事業を立ち上げるかっていうと、それをしないと自分たちの仕事がなくなってしまうからなんです。

堀江 結局、そこになっちゃうんですよね。

橋下 うん。それで予算を持ってきて、税を徴収して、また予算を作って事業をする。それが存在意義になってしまう。

堀江 だから減税をして職員を減らすっていう方向性には進まないんですね。

橋下 もし、それをやるんだったら、政治家が主導権を握らないとできないと思いますよ。

堀江 僕、自治体がやるべき事業って、少なくなってきていると思うんですよ。そもそも、国や自治体がやる事業というのは、発展途上国がインフラを整備する時に資金が集まりにくいから、国や自治体が保証して事業を進めるとか、そういう場合だと思うんです。でも、日本みたいに民間に資金が潤沢にある状況で、自治体が新しい事業を立ち上げるのって意味がないと思うんです

 

大阪市の会計は連結になっていない。一般と特別が錯綜している

堀江 現在の大阪市の予算って、年間どのくらいなんですか?

橋下 一般会計で1兆6000千億円ぐらい。

堀江 1兆6000千億円って言ったら、小さい国のレベルですよね。

橋下 それに特別会計の約2兆円などを加えたら、3〜4兆円。地下鉄会計とかも全部入れるとね。

堀江 地下鉄会計の予算の支出部分っていうのは、人件費とかメンテナンス代とかですか。

橋下 はい、そうです。

堀江 なんか資本収支みたいなものが、ごっちゃになったりしているじゃないですか。

橋下 そうなんです。PL(損益計算書)とBS(賃借対照表)がごっちゃなんです。

堀江 ですよね。

橋下 ほんとはBSで負債勘定にしておかなきゃいけないのに、それをやらずにPLで利益計上していたり。それで黒字だって言うけど、こっち(BS)で負債が立っているんでしょとかね。もう、わけわかんないですよ。だから、今はそこを整理して企業会計のような仕組みにしているんですよ。

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堀江 今はわかるようになってるんですか?

橋下 しています。でも、やっぱり財政局の方はPL、BSの感覚がないから。この間も、「PLのフローのお金をBSで使っちゃダメでしょ」とか「これはBS間同士で処理しなきゃいけないでしょ」とか話をしましたね。役所の場合はPL、BSに関係なく、とにかくお金の帳尻が合えばいいでしょっていう世界なんで。

堀江 それでPL的にいうと売り上げどのくらいなんですか?

橋下 えーとね。そこが、よくわからないんですよ。きちんと連結にもなっていないので。

堀江 連結になってないんですか(笑)。それ、すごいですね。

橋下 一般会計と特別会計に分かれているだけで。だから、もう錯綜しているんですよ。

堀江 そうでしょうねえ。

橋下 だから、今、そこを整理しろと言ってるんです。

 

大阪都構想とは、政策ではなく、組織論である

堀江 大阪市の税収はどれくらいなんですか?

橋下 税収は6000億円くらいですね。あとは国からもらえる地方交付金。いわゆる仕送りのお金。

堀江 はいはい。

橋下 あと、何か事業をやる時に国からもらえる国庫補助金ですね。僕は、こうした制度が、地方の活力を妨げている最大の要因だと思っているんです。堀江さんは企業経営をしていたからおわかりだと思いますけど、政策とか戦略だけが重要なわけではなくて、それをどう実行するかっていう組織も同じように重要なんですよ。

堀江 はい。

橋下 大阪都構想っていうのは、組織論なんです。“ある戦略を実行するために、適正な組織をどう作るか”っていうのが、都構想の本質です。だから、一般の人にはわかりにくい。有権者が政治家に求めるのは、政策なんです。“自分たちの生活がどうなるのか”“どんなことやってくれるのか”。でも、大阪都構想っていうのは、そのような政策ではなくて“この組織は意志決定機関が2つあって歪んでいるから、意志決定機関を整理しましょう”という組織論なんです。

堀江 ひとつにしようと。

橋下 ひとつにして、ちゃんとした組織にしましょうというのが大阪都構想なんです。また、国の行政機構もおかしいんです。地方が努力しなくてもいい仕組みになっている。たとえば地方交付税制度。

堀江 大阪市はどのくらい来ているんですか?

橋下 ざっと1000億円くらいですね。

堀江 税収6000億円に対して、1000億円!?

橋下 大阪府なんて、僕の時には最大6000億円くらい地方交付税があったのかな。これじゃあ、もうダメですよね。だって、日本で第二の都市が自分たちで稼がず、国に頼っているんですから。地方都市に活力なんて出ないですよ。

堀江 大阪府は6000億円!? そんなすごい規模になっちゃってるですか。

橋下 他の自治体は、半分くらいが地方交付税ですからね。

堀江 まあ、そうでしょうね。

橋下 地方交付税をもらわずにやっていけるのは、東京都だけですよ。だから、消費税を地方の税源にして、税率をどんだけ上げるかは地方に任せればいいんです。

堀江 競争しろと?

橋下 競争というより、財政的に自立させるということ。自分たちが必要なお金は、自分たちで税率を決めてちゃんと徴収しろと。だって、今、国から地方への交付金は16兆円もあるんですよ。

堀江 消費税の収入って、今、10兆円くらいでしたっけ?

橋下 12、13兆円かな。だから、その交付金をなくして、地方に消費税を任せたほうがいいと思うんです。

堀江 税率がアップすると、ちょうどいい具合になりますよね。

橋下 そうなんです。それで、そういう話をすると、国会議員は「そんなことしたら国の財源どうするんだ」「国の社会保障はどうするんだ」って言う。だから、国の財源は消費税で賄うのではなく、地方に出している交付金16兆円を止めたらいいんです。これが国のかたちを変える統治機構改革で、これは政治家にしかできないことです。

 

(次回へ続く)

 

橋下徹(はしもと とおる)
1969年生まれ。前大阪市長。弁護士時代に『行列のできる法律相談所』などに出演し、注目を浴びる。その後、2008年に大阪府知事、2011年に大阪市長に就任。大阪維新の会代表。日本維新の会共同代表。

Photograph=柚木大介  Edit/Text=村上隆保 Transcription=   logo23