2014
浮世絵を販売している「アダチ版画オンラインストア」のリニューアルをネットコンシェルジェで担当させていただいて以来、僕の目は「浮世絵」の作品はもとより、「浮世絵」という文字にも自然に反応するようになった。
ネットサーフィンをしていたある日、そんな僕の目に飛び込んできたのが「Ukiyo-e Heroes(浮世絵ヒーロー)」というECサイトの名前である。
日本から浮世絵を輸入して販売している海外のECサイトかと思ったら、このサイトが販売しているのは、米国人男性2人のコラボによるオリジナルの浮世絵版画だった。「パロディ」と断ってはいるが、「江戸絵師による奇想画」とでも説明されたら、そのまま信じてしまいそうなほど、どれも本格的な作品ばかりである。
さらに驚くことに、このECサイトは「浮世絵という、日本の素晴らしいアートの伝統が未来の世代に受け継がれるようお手伝いすること」をミッションに掲げ、販売利益を木版画の後継者育成にも割り当てている。
となれば、日本人として捨ててはおけない。では、一緒に「浮世絵ヒーロー」の世界を覗いてみよう。
「浮世絵ヒーロー」の創設者の1人、Jed Henry(以下ヘンリー)氏は「全方面オタク」と自己紹介している。幼少時代からテレビゲームとアニメーションにハマり、ゲームのマニュアルに描かれているキャラクターのイラストをコピーしているうちに、いつしか絵を描くことが生きがいとなり、プロのイラストレーターへと成長した。
実はヘンリー氏がもう1つハマっているモノがある。それは「日本」。日本への情熱が高じて、東京に数年間滞在した経験もある。現在の彼の生活は「絵を描く時間」と「家族のための時間」と「また日本に戻れたらいいなと願う時間」の3つで構成されているという。
そんなヘンリー氏がある日ふと「僕の大好きなモノをすべて一緒にまとめたら、どうなるだろう?」と考えたことから誕生したのが「浮世絵ヒーロー」のプロジェクトである。
しかし、なぜここで「浮世絵」が出てきたのだろう?
ヘンリー氏はその理由を「初期のテレビゲームを見れば、日本人ゲームデザイナーが浮世絵からインスピレーションを得たことはかなり明白だ」と説明し、この説の裏づけとして動画で次のような例を紹介している。
「テレビゲームが日本で発明されて、本当に良かった」と語るヘンリー氏。大好きなテレビゲームのキャラクターたちを、浮世絵の世界に戻してみようというのが「浮世絵ヒーロー」のアイデアなのである。
やがてヘンリー氏は12枚の原画を完成。デジタルデータを版画紙に出力する「デジタルジークレー」という技法で、これらの原画から浮世絵に仕立てようと考えた。
しかしできることなら、それだけで終わらせず、浮世絵の伝統技術を使って、手製の浮世絵にも仕上げたいと切望し、米国人木版画師Dave Bull(以下、ブル)氏にアドバイスを求めた。
ブル氏は約30年前に木版画を学ぶために米国から東京に引っ越し、今や後継者の育成にも励んでいる熟練の木版画師。ヘンリー氏にとっては憧れの先輩であり、このプロジェクトを思いつく半年前に「あなたの生き方は僕の理想です。僕が訪日したときにお目にかかれるでしょうか?」というメールを送ったことがきっかけで、交友が始まった。
ブル氏はヘンリー氏のデザインを見て、「これこそ浮世絵という美しい芸術を新しい客層に紹介するのにぴったりの作品だ」と興奮し、シリーズ第1号をブル氏自身の手で浮世絵版画に仕上げることを約束。即座に仕事に取り掛かってくれた。
こうして最初の作品「Rickshaw Cart(人力車カートレース)」の本格浮世絵版が完成する。
右上に記された文字「魔里王」は「マリオ」と読める。どうやらこれは「マリオカート」のパロディのようだ。
2012年4月、この作品をもって、2人はKickstarterに登場し、目標額を1万400ドル(約104万円)に設定して、投資を求めるキャンペーンを立ち上げた。
「十分な注文が集まれば、シリーズの残りの作品もすべて手製の伝統木版画で制作したい」という呼びかけに、目標額を超える31万3341ドル(約3130万円)が集まり、キャンペーンは無事成功。
現在、「浮世絵ヒーロー」のECサイトでは、ヘンリー氏の原画からブル氏が伝統手法で木版画に仕上げた作品を順次リリースすると同時に、デジタルジークレー技法で印刷した浮世絵も常時販売している。
上に示した「人力車カートレース」の場合、ブル氏による本格浮世絵版の価格は1枚135ドル(約1万3500円)、デジタルジークレー版画版は1枚50ドル(約5000円)である。
同サイトの「映画」ページとYouTubeのブル氏の専用チャンネルにアップロードされている作業工程を紹介する動画を見れば、この価格の違いも納得である。本格的な浮世絵に仕上げるには、非常に繊細な作業を何段階も必要とするのだ。
電球の前に水を入れたフラスコを置いているのは、彫刻刃の反射を抑えるためだという。
ヘンリー氏は「アーティストとして、自分が描いた原画よりも複製の方が優れていると感じることは滅多にない。その滅多にない例がこの木版画だ」と、ブル氏の腕を大絶賛している。
最近「和食」が無形文化遺産に登録された。日本の文化が世界に誇れるものだということを再確認できる出来事だった。日本文化は、僕たち日本人が思っている以上に、他国の関心が高いようだ。
実際、浮世絵なんて、自分の家に飾っている若い日本人がどれほどいるだろう?
ほとんどいないんじゃないかと思う。
いま、日本の伝統文化に興味やニーズがあるのは、むしろ他国かもしれない。eコマースを使えば、日本にいながら海外に向けて商品を販売することもできる。日本の伝統文化に携わっている人なら、eコマースをはじめて、他国からのニーズを伺ってみるのはテストマーケティングとして「アリ」だろう。
ただ、海外市場で成功を目指すのは並大抵の苦労ではないということも触れておこう。海外に向けてeコマースで物を売ろうとするなら、これまで以上にコミュニケーションが求められる。商品の魅力、ブランドの背景といったものをきちんと伝えよう。それができれば、あなたのビジネスは桁がひとつ変わる可能性も十分にある。
尚、ヘンリー氏は現在、「浮世絵ヒーロー」に加えて、「Edo Superstar(江戸スーパースター)」という、江戸時代を舞台に、浮世絵風に描かれた動物のキャラクターが活躍するゲームの開発プロジェクトも開始している。
北斎や国芳たちも、あの世できっと喜んでいることだろう。
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