プーチン大統領のウクライナ介入、経済にとって危険な賭け

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  • LUKAS I. ALPERT

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ウクライナ軍基地の周辺を警備する兵士と写真撮影する親ロシア派の家族づれ

 【モスクワ】ロシアのプーチン大統領は、ウクライナへの軍事介入をやめるよう求める国際社会の要求を無視すれば、経済的に高いリスクをはらむゲームを始めたことになる。しかし、そのこともプーチン大統領が行動をエスカレートさせるのをけん制するには十分でないのかもしれない。

 ロシアの通貨ルーブルは以前から下落していたが、ロシア上院が1日、ウクライナへの軍事介入を承認したことで一段と急落する公算が大きいとアナリストらはみている。クレムリンがこのマンデート(委託)に基づいて軍事行動を決断すれば、西側諸国は今年夏にロシアで開催される主要8カ国首脳会議(G8サミット)をボイコットする恐れがあるほか、資産凍結や経済制裁に訴える可能性がある。

 調査会社IHSグローバル・インサイトのLilit Gevorgyan氏は「ロシアは『われわれには力がある』と言いたいのかもしれないが、そうした軍事力を行使すれば、外交的にも経済的にも高くつくだろう」と述べ、「ロシアにとってリスクは大きい」と述べた。

Ukraine Prime Minister Arseniy Yatsenyuk urged Russian President Vladimir Putin to pull his troops out of Crimea saying, "we are on the brink of disaster." Photo: Getty Images

クリミアの親ロシア勢力とキエフの反ロシア集会

 ロシアはこれまで、議会から軍事行動の承認を受け、西側の自制要求を無視している。同国は外国領土併合プロセスの迅速化のため法案を可決し、ウクライナでロシア語を話す人々にロシアのパスポートを早急に提供しようとしている。

 しかしロシアが親ロシア地域であるクリミアの実質的な掌握以上に踏み込むようなことになれば国際協調的な経済制裁体制が敷かれる公算が大きい。しかしロシアの政治家たちは、最悪の事態の覚悟はあると述べている。

 旧ソ連共産党政治局員で現在はロシア上院議員のニコライ・ルイシコフ氏は1日、上院で演説し、「彼ら(西側)がわれわれに対して犬を放つ(戦いの火ぶたを切る)のに備える必要があるが、われわれは隊列を維持しなければならない」と述べた。

 カーネギー国際平和財団モスクワ・センターのドミトリ・トレーニン所長は「ロシアのエスタブリッシュメント(支配層)内部では、ウクライナと西側に対する強硬な戦術や戦略を求める圧力があるのは明らかだ。ロシアは、キエフで出し抜かれたと感じており、過去数カ月間の米国や欧州の態度に対し、極めて強い後味の悪さを抱いている」と語った。

 米国の元駐ウクライナ大使のスティーブン・パイファー氏は、ロシアはウクライナ、とりわけ1954年までロシアの一部だったクリミアとの間には長年の歴史があり、旧ソ連を構成していた共和国はモスクワの確固たる支配の下にあるとロシアは認識していると指摘、そのことは西側の反発(制裁発動など)に対するどんな懸念をも凌駕するはずだと述べた。

 軍事行動を拡大させるかどうかを選択するにあたってロシアが最も慎重に検討するであろう問題は西側とのエネルギー関係かもしれない。地上戦が勃発すれば、ウクライナの死活的な重要性を持つ天然ガス・パイプラインが混乱する恐れがある。同パイプラインはロシア国営エネルギー大手ガスプロムが運営し、欧州に天然ガスを輸送している。

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【ロシアが出兵したクリミア半島のウクライナ軍の施設】赤:ロシア軍が周囲を取り囲んだウクライナ軍施設、黒:ロシア海軍黒海艦隊の基地、×印:ウクライナ本土とクリミア半島をつなぐ検問所

 現在は米ブルッキングス研究所に勤務しているパイファー氏は「ロシアは過去30年間、欧州向けエネルギーの信頼できる供給源としてのイメージを獲得しようと努力してきた」と述べ、「ウクライナで(軍事)行動すると決断するということは、恐らく欧州における自分たちの評価を気にしないということだ。天然ガスの供給がたとえ一時的であれ遮断されれば、必ず厳しい(西側の)反応が予想されるからだ」と語った。

Hundreds of Russian troops surrounded a Ukranian military base in Crimean town of Perevalnoe early Sunday morning. Photo: Getty Images

 ロシアへの経済制裁の規模は、同国がどの程度ウクライナの奥深くに軍事的プレゼンスを拡大するかに左右される。だが前出のトレーニン氏は、ロシアがそこまで軍事行動を展開するかどうかは全く分からないとみている。

 トレーニン氏は「プーチン大統領はすでにクリミアを確保した。わたしはいわゆる"侵略"が検討されているとは思わない」と述べた。

 同氏は「彼らは、クリミアでキエフ(ウクライナ政府)に対する抵抗運動が勃発していたら、内戦につながる恐れがあったと考えたのだと思う。内戦となると、ロシアも引きずり込まれただろうが、その場合は受動的に引きずり込まれることになる。したがってプーチン氏は恐らくこれ(当面の行動)を紛争予防措置とみなしているのだろう」と語った。

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