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魔導世界の不適合者 作者:真中文々

第一話『隠れ姫』  (Episode01 『INVISIBLE・PRINCESS』)

第一話 第四章  解放されし真のチカラ 2

         2

 統護は全力で駆け出した。
 もう一秒ですら惜しい。
 百メートルを三秒以内で走り抜ける速度だ。最高級品で耐久力に優れている特注のシューズを履いていたが、靴底が悲鳴を上げていた。これ以上の速度は靴が壊れてしまう。素足よりも摩擦係数が高いので、靴を使用しないわけにはいかない。
(現実的にはこの速度が限界か)
 あっという間に校舎まで到達し、統護は走り込んできた勢いを殺さずに、窓の突起部を足がかりに、壁伝いにジャンプしていく。
 二秒で屋上まで飛び上がった。
 視線を落とす。雷の閃線で編み上げられている【結界】が、すぐ下にある。
 統護は拳を振りかぶり――魔力を込めた。
 ルシアの魔術の意味を考えると、やはり可能な限り手の内は隠しておきたい。
 いや、統護が推測している解放後の副産物を思えば、チカラは使わずに越したことはない。
「ぉぉおおおぉおっ」
 極小に魔力を集中し、拳に乗せると遠慮なく【結界】表面へと叩き込んだ。
 魔力による境界面を力ずくで破壊し、その断面に手を掛ける。統護は器械体操の鉄棒種目の要領で、【結界】の破損部へと宙返りして身を投げ込んだ。
 屋上の床へ着地を決める。
 ようやく辿り着けた。淡雪から緊急メールを受けてから、二分以上経過していた。
 素早く視線を巡らせた。
 アリーシアが倒れている。「貴方は……」と、統護に気が付いたのか、目を丸くしている。
 とにかく無事ならばそれでよかった。思わず表情が緩んだ。
「待たせたな。助けにきたぜ、お姫様」
「どうして、どうやって此処に?」
 可能な限り秘密にしたいので、その問いには生憎と答えられない。統護は状況把握に気持ちを切り替える。
 敵――【ブラック・メンズ】は五名。
 そして淡雪を発見。彼女は【ブラック・メンズ】の近くで倒れ伏している。外傷はみられない。おそらくは生きている。駆け寄って無事を確かめたいが、この状況では――。ちぃっ、と統護は舌打ちした。残りの一人、締里は……姿がみえない。何処だ?
 疑問は後回しだ、と統護は戦闘態勢をとる。ここまで一秒弱を消費した。
 複数の雷撃が統護に降りかかる。
 身体の捻りで三つを躱し、そのままステップワークで残りの二条からも身を逃す。
 予想通りの展開だ。
【ブラック・メンズ】達が一斉に統護へ殺到した。
 だが、手足による物理的な攻撃のみならず、亜音速に迫る雷の多重砲撃さえ、統護は残像を残しながら軽々と、かつ巧みに躱していく。
 人間離れした速度と挙動だった。
 乱戦の中で、別次元の動きをみせる統護に、アリーシアは息を飲んだ。
「莫迦! いくら貴方の運動能力が桁外れでも、魔術を使えない貴方が――」
 アリーシアの悲痛な叫び。
 確かにその通りだろう、と統護は思う。刺客達は容赦なく致死性の雷撃魔術を撃ち込んできている。打撃も全て急所狙いだ。どうやら淡雪とは違い、殺す気満々のようだ。
 今の自分は堂桜財閥次期当主の座から滑り落ちた、【魔導機術】の劣等生。
(ホント、不自由で――自由な身の上だぜ!)
 相手方の連携が、統護の動きに慣れてきている。一対一ではなく、一対二や一対三で応戦させられ始めた。対してこちらには有利となる要素ない。このままでは殺やれるだろう。

 このまま、では、だが。

 あまりアリーシアを心配させたくなかった。
「……なあ、姫様よ。俺の異名を知っているよな?」
「え、ええ」
 距離をとった統護は、右手を水平に振るった。
 波動状の不可視の魔力が伝播する。これまでは、拳の一点に集中する事によって誤魔化していた。しかし、それをやめて放出した。
 元の世界でならば意味のない愚行だが、それで効果は充分のはずだ。
 この異世界においては。
 魔力の波動が放射状に広がって、浴びた【ブラック・メンズ】達の【DVIS】を動作不良に陥らせた。
 対して、彼等プロの戦闘員だ。動揺などせず、すかさず各々【DVIS】の再起動と自己リカバリー機能を選択する。
 だが、統護はその時間を黙っていない。
 計算通りに隙が生まれた。
 狙いは――右胸だ。
 統護はリーダー格の【ブラック・メンズ】まで瞬時に間合いを詰め、魔力を帯びた右拳を叩き込んだ。
 相手の専用【DVIS】は、粉々に吹っ飛んだ。
 軽い爆発音と煙があがった。
 驚愕に固まる相手の顔面に、とどめとなる肘撃を追加し、統護は「まずは一人」と呟いた。
 統護は次々と敵が身に付けている【DVIS】の箇所を見抜き、的確に破壊していく。プロの戦闘者である【ソーサラー】ですら、一対一では相手になっていない。
 アリーシアの呆けた呟きが耳に届く。

「……《デヴァイスクラッシャー》」

 心配無用だと統護はアリーシアに視線を送った。
 一度は各個撃破された【ブラック・メンズ】達は、しかし互いに交互に助け合い、ダメージ回復を図りながら陣形を立て直した。
 超人的な打たれ強さは、やはり戦闘装束ゆえか。
 あるいは噂が本当ならば、違法ドーピングによって真っ当な身を捨てているのか。サイバネティクス強化による肉体改造まで施術している者さえいるとの話だ。
【結界】である雷の檻は消えている。
 しかし魔術を失った【ブラック・メンズ】達は、メインアームをコンバットナイフへと切り替えた。
 ダメージは残っているはずなのに、闘志も殺気も微塵も衰えていない。
 アリーシアの顔が絶望に染まっていく。
 だから統護はアリーシアに言った。
「特別にお前に見せてやるぜ。本物ってやつをなぁ!」
 打撃で倒すには、殺す勢いで打たねばならないだろう。
 ならば完全無力化には、物理攻撃とは違う手段を用いるしかない。
 それも素手とは違って、相手の陣形に対し、同時攻撃可能な方法だ。
 試しに使ってみるか――という気になっていた。
 気分が高揚してきている、というだけではなく、いずれは使用せざるを得ない時がくるのは明白な状況だ。ならばここで実戦テストを試みるのは、悪い判断ではないはずだ。
 ルシアの魔術下なので、他者の観測外という今――踏み切ろう。
 統護は微かに息を吸い込み――〔言霊〕を、

「――悪いけれど、その本物とやらのお披露目は後日にしてもらうわ。統護」

 締里の冷たい声色に、統護は〔言霊〕を止めた。
 姿を消していたはずの締里がいた。アリーシアを羽交い締めにし、楯にしていた。
 統護の視線がアリーシアに固定される。
 アリーシアのこめかみには魔銃ケルヴェリウスの冷たい銃口。
 なによりも締里とアリーシアは、迷彩塗装されている軍用小型ヘリからぶら下げられている綱梯子に掴まり足を掛けていた。最新式の【魔導機術】が組み込まれている性能か、プロペラとモーターがほとんど無音だ。
 統護は素早く【ブラック・メンズ】達へと視線を巡らせるが、彼等も困惑していた。
「お前、どうして?」
「統護が【結界】を破るのを察知して給水塔の裏に隠れていただけ」
 道理で姿が見えなかったはずだ。
 歯ぎしりする統護に、締里は勝ち誇るでもなし、と淡々と言う。
「こちらにもシナリオってやつがあるのよ。統護がきた時点で味方に通信を入れたんだけど、ルシアのお陰で通信不能。その程度は想定内だからアナログに信号弾を二発。それで脱出用のヘリを呼んだってわけ。期待通りにネックだった【結界】を破壊してくれてありがとう」
「このまま逃がすと思うか?」
「この銃って【AMP】としてだけではなく、普通の銃としても撃てるわ。つまりいくら統護とはいえども《デヴァイスクラッシャー》は使えない。【黒服】達も魔術を失っている。加えて、ルシアが使用している大規模魔術は本当に好都合だった。チェックメイトよ」
「お前……スパイだったのかよ」
「羽狩と双子だからって私と弟が同じ側――なんて先入観よ。《隠れ姫君》は私達【エルメ・サイア】が身柄を預かるわ。丁重にもてなすからその点だけはご心配なく」
 ヘリコプターは姿勢を揺らすことなく高度を上げていく。
 統護だけではなく、出し抜かれた【ブラック・メンズ】達もただ立ち尽くしているだけだ。
 もはや両者に戦う理由はない。そして共に脱出していく締里に手を出す手段がない。一か八かでアリーシアの命を危険に晒すという選択肢は、統護には採れない。
 アリーシアが遠ざかる統護へ手を伸ばして叫んだ。
「統護、統護ぉ!」
「アリーシア! 待っていろ、必ず助けるから!」
「待ってる! 信じている!」
 屋上から離れたヘリコプターは、締里とアリーシアを回収した。
 そして高速で空の彼方へと消えていった。


 屋上から軍用ヘリが移動していくのを見上げ、ルシアは【魔導機術】を停止させた。
 同時に彼女の白い肌から、薄く発光する幾何学的なラインが消える。
 大規模魔術の負荷から解放され、人形めいたメイド少女は微かにだか疲労の色を見せた。
「……どうやら敗北したようですね、ご主人様」
 特に落胆は窺えない口調であった。
 ルシアは己の自我で思考する。
 物理的な戦闘での敗退は、この世界で最強の存在である統護ならばあり得ない。
 唯一の例外は、この自分だけだと信じている。
 しかし勝利条件が=物理戦闘での勝利とも限らない。
 今回の勝利条件はあくまで『アリーシア姫の保護』なのだ。
 そして彼はアリーシア姫を敵の手に渡した。
 すなわち敗北だ。
 とはいえ、この敗北は先の展開の為に必要なステップだろう、とルシアは予測していた。
 ここで勝利してしまうと、おそらく最終的には大敗北を喫しただろうから。
「さて次は……彼女がどう動くか、ですか」

         …

 ヘリコプターの内部に引きずり込まれたアリーシアは【DVIS】を回収された。
 彼女の衣服に付けられていた追跡用超小型マーカーも全て外された。いくら精巧かつ小型であっても、マーカーを取り付けた締里本人にとっては無意味だった。
 そして目隠しと耳栓をされる。
 恐かった。
 しかしアリーシアは毅然とした態度を維持する。
 自分はファン王国を継ぐと決めた以上、この程度で泣き喚くわけにはいかない。
 なによりも――統護との約束がある。
 何度か食事は与えられた。とはいってもゼリー状のカロリーパックだが。
 トイレも数回。個室に入れられ、手探りで用を足した。
 睡眠は摂らなかった。ゆえに日にちは跨いでいないはず――とアリーシアは判断していた。
「……着いたわ」
 時間感覚が曖昧になってきた頃。
 ようやく耳栓が外され、目隠しが解かれた。
 しかし瞼には締里の手が被せられたままで「ゆっくりと、光に慣らしながら」と注意された。
 視界を取り戻したアリーシアは周囲を見回す。
 どこかの高級ホテルの最上階スイート。
 内装からはそうとしか思えなかった。しかし、景観を楽しむ為のガラス窓が全て鏡面化されていた。
 間取りはおろらくワンフロア丸々。5LDK以上だろう。

「……手荒な歓迎をして申し訳ありません、アリーシア姫」

 そう言ってアリーシアに一礼したのは、異母兄の護衛であった女性――フレアだった。
 アリーシアは息を飲む。辛うじて悲鳴を堪えた。
 フレアの足下には、簀巻きにされているエルビスが転がっている。
「どうして……兄さんが?」
「決まっているわ。この役立たずに見切りをつけたからよ」
 慇懃な態度をやめて、フレアはつま先でエルビスの顔面を蹴った。
「やめて!」
「姫君の頼みならば」と、フレアは肩を竦めた。
「貴女が……【エルメ・サイア】の幹部だったのね」
「ええ。多大な労力と時間を割いて、この役立たずの側近として信頼を勝ち得た――のはよかったけれど、流石にもう見切り時というか限界ね」
 アリーシアは胸を撫で下ろした。
「よかった。つまり兄さんは【エルメ・サイア】ではなかった……」
「あ、アリーシアぁ」
 フレアは呆れ声で言った。
「お人好しな言葉だこと。この男は半分とはいえ血をわけた妹を殺せと、ワタシに無断で彼等に命令していたのよ。まあ【黒服】部隊も我が【エルメ・サイア】のメンバーではなく。所詮は王子が金で雇った連中で、あまり信用していなかったんだけどね」
 つまり【ブラック・メンズ】達は、あくまでエルビスの命で動いていたのだ。だが、実質はフレアがコントロールしていた。アリーシア抹殺は、そのコントロールが効かなかったのだ。
 アリーシアはフレアを睨む。
「私を殺す命令を貴女に無断でしたから、それで兄さんを?」
「いいえ。このバカについてはその程度は想定していたわ。だからニホン支部にスパイを兼ねた保険を掛けていた。いざという時に、ワタシの命令で敵味方を出し抜いて貴女を奪取できるようにと。それが彼女ってわけ。お互いに顔を合わせるのは初めてなんだけどね。ワタシも今この時まで楯四万締里がこちら側だとは知らなかったし、それは彼女も同じはず」
 締里はフレアに一礼した。
「お初にお目にかかります。【エルメ・サイア】ニホン支部の楯四万です」
 会話に出てくるニホン支部という単語に、アリーシアは戦慄した。
【エルメ・サイア】は国内の防衛ラインによって、ニホンには入ってこられないはずだったのに、まさか国内に支部まで作られていようとは。
 アリーシアの表情を見て、締里が言った。
「……一応、ニホン人として弁明すると、支部とはいっても組織としての活動は皆無よ。現状は【エルメ・サイア】に共感した者による同好会に近いわ。事実、本組織に支部認定されているけれども、物理的な繋がりは国防ラインに遮断されているし。とはいっても、支部内のネットワークがあれば今回のように、各分野の専門家が無償で協力し合う程度はできるけど」
「それでいいのだ楯四万。そういう純粋な同志こそ【エルメ・サイア】に相応しい」
「は。ありがたきお言葉」
 フレアは締里からアリーシアへ視線を戻した。
「話を戻すと、このボンクラを見限る決定打になったのは、堂桜宗護への独断による接触よ。せっかくライバルである栄護に取り入ることに成功しつつあるのに、無理に二股かけようとしてね。そんな交渉力があるのならば、最初からニホンに単身で来る羽目にならないっていうのに、その程度すら理解できていないんだもの。いい加減にここが引き際だったわ」
「だから……兄さんを捨てる?」
「換わりに貴女が手に入りそうだったからチェンジってわけ。王政派が生き残ろうが、革命派が王国を変えようが、アリーシア姫、貴女の存在は重要な鍵となるわ。ファン王国の未来にとっても、我ら【エルメ・サイア】が期待するレアメタルの利権と、堂桜とのコネについても」
 アリーシアは怒りを込めて声を張り上げた。
「私は【エルメ・サイア】になんて、絶対に協力しないからっ!」
 その怒りを平然と受け流し、フレアは言った。
「だったらお前の出来損ないの兄を殺すだけ。こちらとしても貴女を人質に使うという下策は避けたいの。返事を考える時間を与えるから、兄妹水入らずで話し合いなさい。返事によっては最後の会話になるでしょうから」


 フレアと締里がフロアから去った。
 エルビスは簀巻きによって芋虫状態だが、アリーシアは拘束されていない。試しに備え付けの電話機を使用してみたが不通のままだった。エルビスを縛るワイヤーもビクともしない。
 施錠されているドアも頑丈だ。脱出は不可能そうだった。
「ゴメンよ……、アリーシア」
 体育座りで項垂れたままのエルビスは、涙を流しながらアリーシアに謝った。
「兄さん」
「一番信用していたフレアにすらこれだよ。本当に色々と目が覚めた。僕はバカだった」
 アリーシアは異母兄の涙をハンカチで拭う。
「僕はね……王子王子と周りに持ち上げられていたけど、全然優秀じゃなかった。第一王子だけど、次の王様は僕じゃないって、そう思っていた。父様はそうじゃないって言うけど、僕は信じられなかった。王になってもファンを治められる自信だって無かった」
「……」
 アリーシアは何も言えなかった。
 拭いても拭いても、異母兄の涙は消えない。嗚咽が大きくなっていく。
「それに父様は僕を一番に愛していないのを知っていた」
「え?」
「父様はこっそりと、一人の女の子の写真を見ていた。隠れてて見ていたけど僕は知っていた。赤毛の可愛い女の子だった。僕は最初、その子が僕の未来の婚約者候補だと思った。僕もその子を好きになっていた。僕にすり寄ってくる多くの女とは違ったんだ。初恋だった。写真だけだったけどね。だから何年も待っていたんだ。早く僕に婚約者として紹介して本物に逢わせてくれって――」
 エルビスは唇を噛み締めて、アリーシアを見た。
 その表情でアリーシアは写真の女の子が誰だか、わかった。
「けれど、その子は! 父様が本当に愛したニホン人との娘で! つまりは僕の母様は父様にとって一番じゃなくてぇ! 勝手に初恋していた女の子は異母妹だったわけだ!」
「に、兄さん……」
 涙混じりの叫びを、アリーシアは憐憫の想いで受け止めた。
「僕はお前を憎んだ! 父様もだ! そんな僕に、共和国化の話が持ちかけられた。分かってたさ、御輿だって事くらいは。けれど乗ってしまった。父様から王の座を奪える上に、国を治めなくていいって連中はいうから。だけど、気が付いたら僕とお前と父様以外の王族は途絶えていたんだ。僕は王政派に国賊扱いされて王位継承権を失い、そしてアリーシア、秘匿されていたお前の存在が両陣営にクローズアップされたんだ」
「だから兄さんが直接?」
「国賊扱いされて御輿ですらなくなった僕には、反政府派の中にすら居場所なんて残ってなかったんだ……」
 逃げてきたのが実相さ、と虚ろに笑った。
「こんなオチになるんだったら、いっそ王権派のボンクラ王子として殺されていた方が」
「バカ言わないでっ!」
 アリーシアはエルビスの頬を挟んで、怒鳴りつけた。
 エルビスは息を飲んで、アリーシアの瞳に吸い寄せられた。
「私は兄さんとこうして出会えて嬉しいよ。たとえ憎まれていても、嬉しいんだよ。だって、ずっと血を分けた人はいないって思っていたから。確かに王族の血は重いけど、この先に苦しくなるかもしれないけれど……それでも兄さんと父さんが生きているって、幸せだよ」
 アリーシアも泣いていた。
 そして異母兄をきつく抱きしめた。
「だから二人で生き残ろう。大丈夫だから。統護が絶対に助けてくれるから――」
「アリーシア、お前はこんな僕を許してくれるのか?」
「当たり前じゃない。だって貴方は私の兄さんなんだから」
 ゴォォン!

 ドアが轟音と共に吹っ飛んだ。

 残響の中、兄妹は「へ?」という間抜けな声を上げて、揃って音源の方を見る。
 閉じる事ができなくなった長方形の穴に――一人の少女のシルエット。
 クラシカルな学生制服に黒いマントを羽織った、黒髪ポニーテールの少女であった。
「感動的な場面を邪魔して悪いわね」
 少女――オルタナティヴは苦笑いしながら告げた。

「……本当に申し訳ないんだけど、和解した兄と妹、再び離れ離れになってもらうわね」
+注意+
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