魔導世界の不適合者
作者:真中文々
第一話『隠れ姫』 (Episode01 『INVISIBLE・PRINCESS』)
第一話 第一章 異世界からの転生者 3
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統護は教室内からアリーシアの姿が消えているのに気が付いた。
「ちっ」と小さく舌打ちした。
普段の彼女ならば掃除当番の友人を待っているはずだった。ドアから覗ける廊下の窓枠に背もたれているのだ。だが、今日は例外的に先に学校を出ているようだ。
うっかりしていた。決めつけによる単純ミスだ。後で淡雪に叱られるだろう。
とはいえ、掃除当番であるので箒を動かす手は止められない。
統護以外の面子は誰一人として真面目に掃除していなかった。【魔導機術】を用いずに、手作業で清掃するなど非効率的で無駄だと考えているゆえだ。
学校の方針として、【DVIS】が埋め込まれている魔術機器の清掃用具を使うのは禁止されていた。また、直接魔導を使用して清掃用具や机等を動かすのも禁止だった。
窓際で女子にちょっかいをかけながらサボっている掃除当番の男子――クラスで主席――に嘲られた。
「おい統護ぉ。お前の取り柄なんて身体動かす事だけなんだから、もっと働けよ!」
似たような言葉が、忍び笑いと共に他の掃除当番からも投げつけられる。
肩を竦めた統護は作業速度を上げた。
常識の範囲内にセーブするのに、細心の注意を払いながら。
しかし、と統護は内心で嘆息した。
元の世界での堂桜統護は空気のような存在だった。
ぼっちであったし、人付き合いを敬遠するヤツと認識されていた程度で、その事でについて影で揶揄されていたのは承知していた。
けれども、これ程までに他人から負の感情を向けられなかった。
この世界の堂桜統護は、いったいどれ程の嫉妬や羨望を受けていたのだろうか?
周囲の手の平返しは、【DVIS】を操る力を喪う前の堂桜統護への評価の裏返しだ。
だが元の世界の自分とこの世界の自分の共通点も把握していた。
――それは、この世界の堂桜統護も孤独であった事。
多くの取り巻きや知人、一族に囲まれていても、きっとまともな友人は一人もいなかったのだろう。
心を許していた者は妹である淡雪だけだったに違いない。
今の統護にとっても、頼れるのは異世界の妹である淡雪だけだ。
統護が【DVIS】を使用不能という件は、すぐに一族に露見した。
隠し通せるはずもなく、今でも【堂桜エンジニアリング・グループ】の研究者達は、原因を究明しようと躍起になっている。しかし、統護が異世界人で、この世界の堂桜統護とは別人という事は、突き止められていない。
堂桜統護が異世界からの平行存在――別人にして同一人物――だという秘密を共有しているのは、淡雪のみ。
統護の立場は、一族内でも微妙な位置に追い込まれていた。
興味などなかったが、次期後継者の資格は暫定的に淡雪へと移った。
なにより魔術を喪うだけではなく、【DVIS】の安全神話を崩壊させた統護を危険視する者も少なくなかった。
掃除を終えるのを見計らったようなタイミングだった。
スマートフォンに淡雪からのメールが入った。
[ ファン王国の反体制派が動き出したから、急いで《隠れ姫君》を保護して ]
事態が動いた。それも一番悪い方向へだ。
最悪だ、と統護は教室を飛び出した。
背中に罵声を浴びせられたが、今は躊躇している場合ではなかった。
…
統護は街中を疾走した。
堂桜一族が個人所有している軌道衛星【ウルティマ】からの追跡で、アリーシアの座標は掴んでいる。
淡雪からのナビゲートで、複数ある道筋での最短ルートを駆け抜ける。
ナビゲートで人目を避けているのか、それとも状況として必然なのか、不自然なレベルで人や通行車両とは鉢合わせない。
この世界の統護はその気になれば、短距離走の世界記録を軽々と上回る速度で、フルマラソンを余裕で完走するだけの身体能力を有していた。
完全に人目を気にしなくて良いのならば、飛行系統の魔術など必要とせずに、忍者よろしく屋根から屋根へと一足刀に飛び移れる。
もはや超人といっていい。
否、正確に表現すれば、凡人であった自分はこの世界には『存在できない』かもしれない。
元の世界で継承していた伝統芸能にしても、本来ならば子供騙し程度の効果だった。
ゆえに、統護はそんな技能の継承に疑問を覚えずにはいられなかった。
しかしこの世界では決定的に違った。
【イグニアス】と呼ばれる、誰もが魔力を秘めているこの異世界では――
けれど、その事は可能な限り隠し通す必要がある。
もしも『この堂桜統護』の正体が露呈してしまえば、実験動物に身を堕とすのは必至だ。
「――やあ。どんな気分だい? 世界最強の存在になったというのは」
それは、謳うような楽しげな声色だった。
統護の目の前に、少女が顕れていた。
何処か、懐かしい感じのする容姿の若い女だ。狡猾さと無垢さが同居しているような美貌だ。少女の浮かべている笑みからは、魔的なナニかを感じられずにはいられない。
間違いなく美しい造形なのに統護には美しいとは感じられない――そんな不思議な感覚。
少女は長い黒髪をポニーテールにしている。
服装は特徴的だった。
赤いラインが特徴的な学生制服姿の上に、吸血鬼を想起させる漆黒のマントを羽織っている。黒髪に紅い双眸。黒と赤で構成されている女だ。
火花が散ったように記憶がフラッシュバックした。
あの日の夕方。廊下の窓に映っていた幽霊もどきの女だった。
着ている制服も、公立藤ヶ幌高校の女子用制服を原型としている物だ。
「アンタ、まさかあの時の?」
頬を伝う一筋の汗を、統護は乱暴に拭った。汗は走っていた為のものではない。
いくら疾走しようとほとんど上がらなかった鼓動が、今は早鐘のようだ。統護は識っている。この魔術を根幹とする世界にあって、自分という異分子は紛れもなく――
「ひょっとして、元の世界と、この世界での俺を知っている――?」
少女は意味深に口元を歪める。
「敵対する意志はないよ」
「何者だ、アンタ」
その誰何とは裏腹に、統護の脳裏に禍々しい映像がこびり付いていた。
この女を淡雪に遭わせては――
「そうだね。アタシの名はオルタナティヴとでも呼べばいい」
少女――オルタナティヴは、統護に不意打ちの右ストレートを打ち込んできた。
予備動作のない、空気を切り裂く超速の一撃。
ドゴン!
鐘を全力で突いたような重い打撃音が響く。
統護はオルタナティヴの右拳を左手でキャッチした。腕全体に痺れが走った。
キャッチした際に鳴った轟音が、その破壊力を物語っていた。
(マジか。いや、やっぱりか)
オルタナティヴが披露したスピードとパワーは、統護と同じく超人レベルだった。
この異世界の人間は、総じて元の世界よりも身体能力は上だ。しかし、今の右ストレートは統護が全力で放つ一撃に匹敵するレベルだ。
「流石だね、世界最強」
クスリ、とオルタナティヴが微笑む。
「おいおい。敵じゃないんじゃなかったのかよ」
「殺し合いはしない。けれど少しばかりアタシの実験に付き合ってもらうよ――、最強」
「実験?」
「こっちの都合さ」
それならば、こちらにも譲れない事情があった。
幸いこちらの世界は元の世界に比べて、私闘に関しては寛容な風潮があった。邪魔をするのならば実力行使に躊躇いはない。
「悪いが先を急ぐんだ。少しばかり手荒に排除させてもらうぜ」
と、同時に統護は巻き込むような左フックを見舞った。
ほとんど手加減なしだった。たとえ相手が女性であっても、間違いなく同レベルの相手だと分かっていたから。
閃光めいた渾身の左フックは、しかし空を切った。
「承知しているわ。だからこそこのタイミングを選んだのさ」
統護の左フックを鼻先で躱したオルタナティヴは、自信に溢れた笑みを零した。統護の超速の一撃を目にしても、少しも怯んでいない。それどころか嬉しそうですらある。
次の瞬間。
お互いのボディブローが土手っ腹にめり込んでいた。
双方の顔が微かに歪み、共に歯を食いしばった。
そして、弾かれたように同時にバックステップして、間合いをとる。
手応えはあったが、オルタナティヴは平然としている。
耐久力も自分と同等か。
コイツ……思った以上に強い、と統護は油断なく身構えた。
…
アリーシア姫、という言葉に、アリーシアは薄ら笑いを浮かべた。
タチの悪い冗談だ。あるいは皮肉か。
「人浚いにしたってもうちょっとマシな言い訳ないの? それに私を人質にとっても身の代金なんて期待できないわよ。なにしろ孤児なんだから」
「知っているよ。けれども身の代金目的の誘拐ではないんだ」
つまらなげな少年の言葉に、隣にいる少女が怒った。
「誘拐って、なに余計なコトを言っている」
「いいだろう。ちょくちょく離れていた姉さんとは違って、こっちは長期間ずっと付き合わされてストレスが溜まっているんだ。果たしてアリーシア姫がどの程度の器か、遊ぶ程度の余興はあってもいいだろう?」
「まったくお前は」
少女は頭痛を堪えるように、人差し指の先を額に当てた。
「だから今朝も訊いただろ。姉さんは、ほんっと~~に一切の不満がないと?」
「仕方のないヤツね」
自分を余所に会話する姉弟に、アリーシアは大きく息を吸い込んだ。
少年がそれを見て、止めた。
「ああ、大声を出しても音は【結界】で遮断されるから無駄だよ。ついでに言うと、周囲に人はいないし、人払いもしている。つまり――大人しく投降がベストだよ」
「よく言う」と、姉の少女は苦笑した。
助けを求めるのは無駄、と知らされたが、アリーシアに落胆はなかった。
絶望もなかった。
思えば、誰かに助けてもらった記憶なんて、ほどんどない。
施設の家族と支え合って、どうにか今日まで暮らしてきたのだ。満足な助成金・補助金もないままで、自分達で運営してきた。足りないお金は年長組がアルバイトでまかなった。
世間は助けてくれない。
金持ちは、自分達を見棄てる。
だから――戦うしかない。
幸い、その資質と力は、神様が与えてくれた。
幼少時は近所のガキ大将と取っ組み合いをする勇気だったが、高校生となった今は違う。
その資質を開花させる為の努力の具現が、己の右手首に在った。
「――ACT」と、アリーシアは起動呪文を唱えた。
同時に、己に宿る魔力を最大限に励起させて【DVIS】へ注ぎ込む。
登録者の声紋を認識したリング状の【DVIS】は、アリーシアの意識内に【ベース・ウィンドウ】を展開する。アリーシアにしか視えない、電脳世界での立体映像だ。
この電脳世界は、軌道衛星【ウルティマ】によって統合管理されている高次元世界。
電脳世界に、専用【DVIS】をIDとしてログインし、データと神経をリンクする。
ノーマルユーザーとして、軌道衛星【ウルティマ】に搭載されている超次元量子スーパーコンピュータの演算領域を割り当てられた。
ウィンドウ内に提示された複数のフォルダから――『戦闘系』を選択。
フォルダ内のアイコンは『炎系』だけであった。
現状でアリーシアの【DVIS】にインストールされてる戦闘系魔術は『炎系』のみ。
八割以上の魔術師が、一属性の魔術の制御をマスターするのに、その生涯と才能を使い切るのが現実だ。アリーシアは初期設定の段階で、最も汎用性の高い五大エレメント属性において『炎系』を選んだ。そして自分専用のプログラムコードを開発した。
「――《フレイム・ナックル》」
電脳世界内に新たなウィンドウ――【アプリケーション・ウィンドウ】が表示され、その窓内に、膨大な数行の数式が上から下へと流れていく。
それこそが【ウルティマ】によってコンパイラされた【スペル】と呼ばれる文字列であり、
【イグニアス】世界の摂理に上書きされる仮想現実のエミュレートだ。現象のイメージとして『魔』として呼ばれるが、根幹に電脳技術が根付いている。本物の魔法など空想上の存在でしかなく、技術ではないからだ。
ゆえに『術』であり『法』ではない。
だから魔法ではなく、魔術。魔的な仮想に、現実を書き換えてエミュレートする技術。
現実を上書きする仮想現実の技術を、技術者や研究者は【魔導機術】と定義する。
アリーシアの魔術が【DVIS】のアプリケーション・プログラムを起動させ、この世界に存在する自然現象としての炎とは別種の炎が顕現した。――彼女の両の拳に。彼女の拳を灼くことなく、さながら武装するかのように。
この《フレイム・ナックル》が、アリーシアの魔術の【基本形態】となる。
基本的に魔術師がオリジナル魔術を使用する際、魔術特性となるエレメントを標準装備した形態を創り出し、その上から更に魔術を施術するのが一般的だ。
そして【基本形態】には、施術者の身体機能・感覚機能の向上が組み込まれている場合が多い。魔術による身体強化とはこの状態を指す。身体強化のレベルは術式と施術者の容量と制御技能に依存している。
またフィードバックされてきた実行プログラムを制御するのにも、施術者の意識容量と魔力が必要となり、従って【ウルティマ】の演算機能とフィードフォワードおよびフィードバックをリアルタイムで行えるだけの技能と資質を持つ者――数百人に一人の才能を持つ者――だけが、公的に魔術師と認定されるのだ。
アリーシアは【アプリケーション・ウィンドウ】内に、アルファベットで【コマンド】を書き込む。同時に、起動の為の【ワード】を叫んだ。
「――《ショットガン・フレイム》!」
必殺技の名前を叫ぶように、アリーシアの【ワード】が凛と響く。
突き出された炎を纏った右拳から、流星群のように炎の散弾が撃ち出された。
その総数は実に二十発以上。
アリーシアの魔力の上限値を注ぎ込まれた渾身の二十撃であった。
炎としての熱量は制御されており、あくまで弾丸としての衝撃で敵を倒す魔術であった。
至近距離からの必倒の先手だ。
だが。
ドン、ドン、ドン、ドンドドドオオオオオッ!
その二十発を超える炎弾が、全て同じ炎の弾丸によって打ち消された。
爆音の多重奏は、外界には遮音用【結界】によって届かないが、その暴力的な音波はアリーシアの鼓膜を破らんとばかりに痛めつけた。
三半規管を揺さぶられたアリーシアは、大きくよろけて倒れ込みそうになる。
どうにか踏み留まったアリーシアが目にしたのは。
異形の拳銃を構える少女の姿。
あれは――、とアリーシアは恐怖した。
軍用の制式銃のような機能的なデザインとは異なる、獣を模した黒い銃だった。
術者単体による【魔導機術】ではなく【AMP】と呼ばれる技術のカタチ。本来は『アクセラレート・マジック・ピース』の略称であったが、軍用拡張兵器の場合を指す『アームド・モデリング・パーツ』の方がメインになっている。
(どうして高校生が【AMP】を持っているの――?)
そもそも違法に入手しても、電脳世界にアクセス拒否され、扱えないはずだ。
それとも不正アクセスが可能なのか。
しかし絶対数が少ない戦闘用【AMP】に対しては、魔術犯罪が増加の一途を辿っていても規制が不可能と判断された【DVIS】とは異なり、厳しい規制がかけられているはず。
アリーシアの疑問に回答する者はいない。
一歩、二歩、とアリーシアは後退する。
消費し尽くした体内の魔力を、全速で再循環させていた。
距離が近い。相手は自分の散弾を迎撃できるが、自分にはそんな芸当は不可能だ。
本当ならば背中を見せて走り出したい――のを懸命に自制していた。
拳銃型の【AMP】に搭載されている【DVIS】に、少女は【ワード】で命じた。
銃口から炎の弾丸が、散弾モードで射出される。
ガガガガガガガガガッ!!
「ッ!」
アリーシアは咄嗟に、照準せず《ショットガン・フレイム》で撃撃し、真横に転がった。
魔力の充填が不十分だった為、散弾数は先ほどの半分程度だった。
運良く過半数の弾丸を相殺し、残りの弾丸も当たることはなかった。
横転から膝立ちで立て直すアリーシア。
やはり喧嘩とは違う。自分は不殺のつもりでも相手はそうとは限らない。
これが――実戦。
背筋が震える。それでもパニックには陥らなかった。
何故ならば【魔導機術】を学び魔術師になるという事は、魔術戦闘に身を置く覚悟を要求される事と同義なのだと、専用【DVIS】を国家から授けられる時に教えられていたから。
魔術師に要求されるのは平和な技能者――総称【ウィッチクラフター】だけではない。もっとも重宝されるのが、戦闘技能に長けた【ソーサラー】だからだ。
どんな世界でも、最先端技術は軍事技術である。
この【イグニアス】世界においても、それは例外ではなかった。
根強く社会に浸透した【魔導機術】であるが、その反面、魔術犯罪と呼ばれる【魔導機術】を悪用した犯罪が誕生し、そして増加し続けている。
堂桜財閥の軌道衛星【ウルティマ】は、魔術師からの膨大なアクセス数がある為、ユーザーの識別は事実上、不可能であると公表していた。ゆえに行政側も法的な規制には踏み切れなかったのだ。あくまで表向きの話、と云われているが。
そう。規制によって【魔導機術】の発展と経済効果が損なわれるのを、社会は拒んだ。
よって魔術犯罪には魔術で対抗する、という構図が必然として成立した。
それもまた、様々な思惑(利権)が絡み合った一種のイノベーションであった。
アリーシアは魔術師を志した瞬間から、【ソーサラー】としての戦いの時を覚悟していた。
魔術師として収入を得るには、一番現実的な道だったからだ。
弱い者を守る。
魔術師として強くなって、理不尽な暴力から自分達のような弱者を――
「負けるかッ!」
味わってきた孤児としての苦しさは、こんなモノではなかったと、アリーシアは次の魔術をセレクトすべく【アプリケーション・ウィンドウ】に、意識を集中した。
敵の少女は拳銃のグリップからカードリッジを取り出し、別の物に入れ替えた。
再び【ワード】と共にトリガーを引き、魔弾を撃つ。
今度は、大口径の氷の弾丸であった。
ワンアクションで流れるような連続魔術施行だ。まぎれもなく手練れの技能だった。
この様に、術者の【基本形態】の切り替えを必要とせずに、複数のエレメントが使用可能になるのが【AMP】という魔導具の利点である。
対してアリーシアがセレクトした魔術は――
「――《フレイム・ガード》!」
間一髪。
前面に炎壁が、尽きだした右手の中心から渦巻く丸楯として展開した。
氷と炎。
相反する属性が正面衝突し、後塵を拝したのは――アリーシアであった。
術者のみで起動する直接魔導と、【AMP】を用いた魔導戦闘の最大の差は、やはり魔導具による拡張性であった。
その身こそ氷の弾丸に貫かれる事は免れたが、余波によって後方に弾き飛ばされ、電柱に背を打ちつけられたアリーシアは、肺を痛めて呼吸ができなくなった。
呆気なかった。
痛みとダメージで戦うどころか、もう満足に動けない。
「……ぜったいに、まけないわ。まける、ものか」
言葉こそ、決して折れない。
しかし心の奥底では――
助けて……誰か。
次の瞬間には、無防備の自分に魔術の弾丸が撃ち込まれるだろう。
しかし、その前に。
雷を纏った刃を振りかぶった少年が、嗤いながらアリーシアに斬りかかってきた。
(あ。光り輝く剣の【AMP】って――)
まえに、みた、きおくがあるな……、とアリーシアは両目を瞑った。
両の瞼は重すぎて、その重さに負けた。
…
統護は驚愕を禁じ得なかった。
自身と同等の肉弾戦を演じられる存在が、この世界に存在していたなんて。
それどころか、相手――オルタナティヴは軽々と統護の攻撃に、正確無比にカウンターを合わせてくる。統護はカウンターにカウンターを返し、千日手のような展開になっていた。
まさか、これ程だったとは。
オルタナティヴはまだまだ余裕をみせている。
「やるじゃないか! 世界最強。アタシの期待通りだよ」
しかし統護も限界は遥か先だ。
否、自分の限界を知らない。
正直なところ、自分自身でも何処まで自身の躯をコントロール可能か把握できていない。
最悪で自身のコントロールに失敗して自爆してしまう。
「もう……猶予はないか」
急がなければ。
危険は伴うが、更に肉体と神経のリミットを解放するしかなさそうだ。
そうでなければ《隠れ姫君》――アリーシア・ファン・姫皇路の身が危ない。
+注意+
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