第15回「肝寿会」肝臓教室
講演1:肝炎ウイルス物語
08.4.19
要旨
肝寿会の皆様はB型肝炎やC型肝炎については十分にご存知だと思いますが、今回の肝
臓教室では細菌(バクテリア)とウイルスとの違いや肝炎ウイルスがどのように発見され
たかについてお話しします
1)細菌とウイルスの発見
細菌は1676年にレーウェンフック博士によって顕微鏡で初めて観察され、その後、この
微生物が細い棒状であったため、ギリシア語で小さな杖を意味するΒακτηριoυ‐αから
"Bacteria(バクテリア)"と呼ばれるようになったようです。コッホによって細菌の培養法の
基礎が確立され、『感染症が病原性細菌によって起きる』という考えが定着しました。
しかし、1892年にロシアのイワノフスキー博士が細菌の濾過器を通してもタバコモザイ
ク病が感染することを発見し、細菌よりも小さな病原体(ウイルス)があることがわかり、
ウイルスの発見につながりました。ウイルス
(Virus)はラテン語で「毒」を意味する語であ
り、日本では以前『ろ過性病原体』や『病毒』
と呼ばれていました。
2)細菌とウイルスの違い
| 細菌 | ウイルス |
細胞構造 | あり | なし |
核酸(遺伝子) | DNAとRNAの両方を持っ | どちらか片方 |
特徴 | 遺伝子(設計図)とエネルギ一 産生工場をもつ完全な工場 |
遺伝子(設計図)とわずかな部品しか持たない不完全なヤドカリ的物体 |
エネルギー産生 | できる | できない |
単独で増殖 | できる | できない |
抗生剤 | 有効 | 無効 |
多くの種類の細菌は水分と少しの栄養があれば、どんな所でも成長して増えることがで
きますが、ウイルスは水分や栄養だけでは絶対に増えることはできません。ウイルスは遺
伝子(設計図)と少しだけの部品を持った不完全な病原体で、ヒトなどの細胞内に入り込
むことによってのみ、増えることができます。細菌には抗生剤は有効ですがウイルスには
無効です
。
3)肝炎ウイルスの発見,
肝炎ウイルスとは、ウイルスの中で肝臓が好きで主に肝細胞の中だけで増えることがで
きるウイルスです。A型,B型,C型,D型,E型肝炎ウイルスなどが知られていますが、A
型とE型肝炎ウイルスは主に食べ物や飲料水を通して口から感染(経口感染)し、急性肝
炎を起こします。慢性化することはありません。
一方、B型やC型肝炎ウイルスは、エンベロープと呼ばれる脂質でできた外套をもち、
経口感染はほとんどありませんが血液を介して感染し、慢性化することが多くあります(特
にC型肝炎の場合は、60〜70%が慢性化します)。
◆B型肝炎ウイルスの発見
1964年にブランバーグ博士は、オーストラリア原住民の血液の中に、肝炎を起こす原因
(B型肝炎ウイルス)があることを発見し、『オーストラリア抗原』と名付けました。1970
年には・B型肝炎ウイルスの本体であるDane粒子が発見され、1979年に全遺伝子が明ら
かになりました。B型肝炎ウイルスには、いくつかの遺伝子型(A型〜G型の7っ)があ
り、日本ではほとんどがC型ですが沖縄にはB型が多く、一般に遺伝子型のB型の方が
治療が効きやすいことが知られています。
◆C型肝炎ウイルスの発見
1989年に米国のカイtン社の研究グループがC型肝炎ウイルスを発見し、約9,500塩
基からなるプラス鎖RNAであることがわかりました。皆さんもご存知のようにC型肝炎
ウイルスにもいくつかの遺伝子型があることがわかり、日本人は1b型が多く約70%を占
めています。C型肝炎はインターフェロンで完全に治すことができる可能性がありますが、
遺伝子型とウイルス量によってその効果が異なります。 ウイルス量が少ない人や遺伝子型
が2aや2bの人はかなり治癒が期待されます。
ウイルス | B型肝炎ウイルス | C型肝炎ウイルス |
核酸の種類 | DNAウイルス3,200塩基 | RNAウイルス9,500塩基 |
急性肝炎後の慢性化 | 少ない | 60〜70%慢性化する |
治療 | インターフェロン ラミブジン、エンテカビルなど | 基本はペグインターフェロン十リバビリンの併用 低ウイルス量ではインターフェロンのみ |
予防・ワクチン | ワクチン有効 | ワクチンなし |
今年の4月から『肝炎治療特別促進事業』がはじまりました。今までよりもインター
フェロン治療が自己負担がかなり少なくなります。是非、この制度を利用して肝炎の治療
を受けてみてください。