クアルコムは、MWC 2014において、LTEをWiFiの5GHz帯に利用する「Unlicensed Band」や、WiFi Directならぬ「LTE Direct」 のデモンストレーションを実施し、WiFi陣営に勝負を仕掛けています。  

電波が足りない

まず大前提として、無線電波は有限で、世界的に携帯電話やスマートフォンなどの通信に使える周波数が足りない状況にあります。これは、スマートフォンが普及し、モバイルで利用するコンテンツがリッチになったことが1つの要因です。一人あたりの使うデータ量が増えたことで、負荷が急拡大しています。例えるなら、これまでだって満員だったのに、乗客全員がぶくぶく太ってしまった、そんな満員電車を想像してください。

携帯電話会社は、より効率的に利用者をさばけるよう、2Gから3G、3Gから4G、現在は5Gに向けた話し合いも進めています。とはいえ、拡大するユーザーをさばききれなくなっているのも事実。ユーザーを固定回線側に誘導するといった、いわゆるデータオフロード策も並行して実施しています。

屋外でのデータオフロード策と言えば、現在、公衆無線無線LANサービスなど、WiFiに逃がす方法がとられています。しかし、使ってみればわかる通り、現状では必ずしもうまくいっているとは言えません。

携帯網からWiFi網にスムーズに切り替わってくれない、WiFiに切り替わったとしても結局ネットに繫がらない、WiFiから携帯網になかなか切り替わってくれない、そういう経験がある利用者も少なくないでしょう。そもそもWiFiは、携帯系の通信規格とは異なり、多くのユーザーを収容するための通信規格ではない、ということもあります。

Unlicensed Band のLTE利用




今回クアルコムが提案する 「Unlicensed Band」 は、10mW以下の小さい出力であれば国の認可がいらない2.4GHz帯と5GHz帯を、いっそのこと携帯のLTE網として使うのはどうでしょう? というものです。

この提案はクアルコムにとっては都合が良い一方で、WiFi陣営、とくに公衆WiFiサービスや、対応機器を供給する企業にとっては、自分たちの陣地を奪われる、そんな風に感じる提案といえます。

2.4GHz帯と5GHz帯で提案していますが、2.4GHz帯は WiFiやBluetooth、電子レンジまでもが使う帯域とあって、現時点で混雑した状況にあります。仮にこの提案が受け入れられるとしても、現実的には5GHz帯の利用になるでしょう。

クアルコムにとって都合のよい「Unlicensed Band」 は、携帯電話事業者にとっても都合の良いもの、と言えるかもしれません。5GHz帯がLTEで使えるとなれば、携帯網からWiFi網へのスムーズな通信の移行に試行錯誤することなく、携帯会社の運用実績のある得意なLTE網の1つとして制御できるからです。

LTE同士であれば、互いの通信が協調して出力をコントロールし、電波干渉を防ぐといった技術もあります。携帯電話会社としてもWiFi網へのオフロードに四苦八苦せずとも、LTEを制御した方がコントロールしやすいはずです。

認可のいらいない2.4/5GHz帯は、出力が小さいことが無免許で使える条件です。仮にLTEで利用できるようになった場合、狭いエリアをカバーするピコセルやフェムトセルといった小さな基地局になることが予想されます。

なお、クアルコムはなにも5GHz帯を我々によこせ! と言っているわけではありません。もともと免許のいらない5GHz帯に対応した小型のLTE基地局を、WiFiに干渉することなく使えるようにするものです。

一方で利用者にとっても、つながりやすくなる以外の変化が考えられます。携帯会社の公衆WiFiは現状、携帯電話サービスの利用者が実質的に無料で利用でき、パケット通信制限の対象にはなりません。しかし、「Unlicensed Band」を使った5GHz帯LTEサービスが始まった場合、携帯電話会社がコントロールしやすいということは、5GHz帯のLTE通信も含めて、7GBの通信制限の対象となる可能性もあるでしょう。

LTE Direct



このほか、「LTE Direct」 なるLTEを介したP2P型ネットワーク技術も新しく展示していました。こちらもWiFi Direct にケンカを売っているような名称です。これは、500m範囲にいるユーザーを基地局側で認識し、500m範囲にいる利用者同士でP2P型のネットワークが構築できるという技術です。

災害時に基地局が倒れた場合に、P2Pで繫がるユーザーが情報をバケツリレーすることで、現地の災害情報をより遠隔地に送るといった使い方や、趣味嗜好の似た利用者同士を認識して情報を共有するといった活用が可能。また、店舗周辺にいる上顧客になりうるユーザーに、LTE Directで情報を送るといった使い方がGPSを介さずにできます。

今回の「Unlicensed Band」も「LTE Direct」もそうですが、今後、WiFiとLTE関連の技術が似通ってくることが予想され、陣取り合戦のような様相にまで発展する可能性があります。利用者からしてみれば、LTEで繫がろうがWiFiで繫がろうが、スムーズに高速通信が継続できる、そんな状態が理想的でしょう。いずれにせよ、利便性の高いものになって欲しいと願うばかりです。