社説:安倍政権と日米関係 歴史の原点を忘れるな

毎日新聞 2014年03月03日 02時30分

 日米関係は、危険水域に入りつつあるのではないか。安倍政権周辺から同盟の原点を揺るがす言動が続く現状を、深く憂慮する。

 米国の反対を振り切った安倍晋三首相の靖国神社参拝。それに対する米国の「失望」表明と、首相補佐官の「こちらこそ失望だ」という反発の応酬。NHK会長や経営委員の歴史をめぐる発言。一連の出来事が、日米同盟の基盤にかつてない深刻な亀裂を生じさせている。

 今起きているのは、過去の通商摩擦や防衛摩擦とは質的に異なる、歴史摩擦である。放置すれば同盟の根幹が崩れる。政治指導者は立て直しに真剣に努力すべきだ。

 ◇永遠の同盟はない

 日本は日米安保条約によって米国主導の戦後国際秩序の主要な担い手となり、平和を享受してきた。半世紀以上も続く成功体験が、この同盟関係を、水や空気のように永続するものと錯覚させている。

 だが、英国の元首相パーマストンの「永遠の同盟というものはない。あるのは永遠の国益だ」との言葉にあるように、同盟は利害の一致によって生まれ、共通の価値観が失われれば、消えてなくなる。

 日米同盟の土台は、1952年発効のサンフランシスコ講和条約だ。日本はA級戦犯の戦争責任を東京裁判受諾で受け入れ、戦前の日本と一線を画す国に生まれ変わることで、世界に迎え入れられた。

 日米同盟は単なる軍事同盟ではなく、人権意識や文化の成熟など先進民主国家同士の共通の価値観に基づく同盟として、今日まで日本外交の資産となってきたのだ。

 太平洋戦争をめぐる歴史認識は、そうした戦後国際秩序の前提であって、日米同盟の基盤である。それが揺らげば同盟も揺らぐ。

 日本側が「(オバマ政権は民主党だから)共和党とならうまくいくはずだ」と考えているなら、それは誤った見方だ。歴史認識や人権といったテーマは、どの政党の政権かによらず米国は厳しい、ということを忘れてはならないだろう。

 見逃せないのは、政権周辺の無責任な言動を首相がはっきり否定しない限り、それは安倍政権と自民党の考えだと、国際社会が受け止めることだ。日本は戦後国際秩序への挑戦者だと宣伝工作する中国につけいるスキを与えないためにも、早めに手を打つべきではないか。

 一方、日米同盟に不協和音が出ているのは、米国側にも責任があることを強調しておきたい。

 日本でナショナリズムが高まる背景には、尖閣諸島周辺で相次ぐ中国の挑発的な行為がある。日本が領土拡張主義なのではない。

 にもかかわらず、オバマ政権は、中国の脅威にさらされる日本への十分な理解があるようには見えない。アジア最大の同盟国に対するとは思えない冷たい対応が、日本人の不満と不安をあおっている。

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