東日本大震災3年:原発賠償格差に憤り
毎日新聞 2014年03月03日 07時10分
広野町では2月末現在、約3900人が慰謝料を打ち切られたまま避難生活を続ける。同町は11年9月に旧緊急時避難準備区域(原発20〜30キロ圏内)が解除され、同区域の住民への避難に伴う月額10万円の慰謝料は、12年8月に打ち切られた。しかし、町民約5200人のうち自宅に戻ったのは約1300人にとどまる。
広野町の担当者は「インフラや生活関連サービスが復旧せず帰還が進まない状況で、旧緊急時避難準備区域の住民だけ賠償が打ち切られたことに不満が出ている」と話す。隣の川内村でも住民の帰還が進んでおらず、広野町の遠藤智町長と川内村の遠藤雄幸村長は2月5日、政府与党に賠償の継続などを求める要望書を提出した。
◇ADRの硬直性に不満
国は福島第1原発事故の賠償金を巡る紛争を迅速に解決するため、原発ADRを通した訴訟外での和解を促してきた。だが、住民には、柔軟な判断をほとんど示さないADRには申し立てをせず、賠償を求めて訴訟を検討する動きが出始めている。
2月23日、福島県田村市都路(みやこじ)地区の旧緊急時避難準備区域(原発から20〜30キロ圏内)の住民約30人が、市内の仮設住宅に集まった。賠償継続を求める集団訴訟に向けた弁護士らとの協議だ。都路地区は原発20キロ圏内外にまたがる。避難指示が続く20キロ圏内の住民には賠償が続くが、圏外の住民への賠償は12年8月に打ち切られた。住民からは「線引きされるのは納得できない」といった声が相次いだ。
出席した仮設住宅の自治会長、今泉信行さん(66)は「ADRでは(原賠審の)指針に沿った内容しか認められない。指針の問題点を指摘するため、時間がかかっても裁判に訴えようという意見が大勢だ」と話す。
原発ADRには2月21日までに9917件の和解仲介手続きが申し立てられ、5700件で和解が成立した。だが、賠償の追加が認められるのは原賠審の指針に沿ったケースが中心だ。指針は「賠償の下限」とされ、文部科学省は指針から外れた事例について「直ちに賠償の対象とならないというものではない」としている。賠償の範囲を広げるような和解案が徐々に提示され始めているものの、指針を超える事例が認められることはまれで、指針は「賠償の上限」という印象を住民に与えている。