「しらずしらず」が人に及ぼす影響の大きさとは

2014.03.03 07:30

しらずしらず──あなたの9割を支配する「無意識」を科学する


しらずしらず──あなたの9割を支配する「無意識」を科学する』(レナード・ムロディナウ著、水谷淳訳、ダイヤモンド社)の「しらずしらず」が意味するものは、つまり「サブリミナル(subliminal=潜在意識の)」。たしかに「潜在意識」より柔らかい印象があるので言葉選びのセンスがいいなと感じましたが、ともあれ本書では、無意識の心の働きとそれが及ぼす影響を解説しているわけです。

経験することを理解するためには、「意識的な自己」と「無意識の自己」、そしてそれらがどう作用し合っているのかを理解することが必要。著者はそう主張しています。なぜならサブリミナルな脳は、自分や他人に対する見方、日常生活での出来事の意味、判断や決断を行なう能力などに影響を及ぼしているから。だとしたら、その点を突き詰めれば人間は可能性をさらに伸ばすことができるかもしれません。

ところで、日常生活ではどんな「しらずしらず」があるのでしょうか? 第1章「なぜ同じ名前というだけで好意を抱くのか? ──『無意識』の知られざる影響力」から、いくつかを引き出してみます。

スミスさんはスミスさんと結婚する?


私たちは、自分の行動の原因を理解していると信じているもの。でも、意識外の力が自分の判断や行動に役割を果たしているとしたら、自分のことも、自分がなにをしようと考えているかも知りようがないことになります。そしてこの点について著者は、アメリカ南東部の3つの州で、どういう名前の人がどういう名前の人と結婚したかを示して説明しています。

最愛の人の笑顔、寛容さ、しとやかさ、色っぽさ、感性などなど、「愛の源」については昔から考えられてきましたが、はっきり語られたことがない要因は「名前」だそうです。つまり相手の名前が自分自身の名前と一致するかどうかが、心に微妙な影響を与えるというのです。

このことについて書かれたページには、アメリカでもっとも多い5つの名字の男女が何組結婚したかを表す表が掲載されています。それを見るとたしかにスミスさんの結婚相手はジョンソンさん、ウィリアムさん、ジョーンズさん、ブラウンさんよりも、スミスさんの方が3〜5倍多いことがわかります。もちろん、残る4つの名字についても同じです。

なぜこういうことが起こるのかについての、著者の説明は次のとおり。


人間は自分自身に満足したいという基本的欲求を持っており、そのため、たとえ名字のような無意味そうな特性であっても、自分に似た特性を無意識に好む傾向があるということだ。(17ページより)


単なる偶然のようにも思えますが、その好みを仲立ちしているのが「背側線状体」と呼ばれる脳の一領域であることまで突き止められているのだそうです。(15ページより)


BGMひとつで揺らぐ「合理的な意思決定」


・青と黄色の箱に入っている洗剤の方を高く評価する
・酒屋の通路を歩いているときにドイツのビアホールの音楽がBGMで流れると、フランスワインでなくドイツワインを買ってしまう
・好きな匂いのするシルクのストッキングの品質を高く評価する


これらはすべて、行動経済学者が行なった実験から導き出されたデータです。

たとえば洗剤を使った実験では、3種類の箱に入った洗剤を数週間試してもらい、「どれがいちばん気に入ったか」と「その理由」を報告してもらったそうです。ちなみに箱の色は、ひとつが黄色、もうひとつが青色、3番目は青色に黄色が散りばめられたもの。ここで注目すべきは、圧倒的に好まれたのは2色の混ざった箱の洗剤だったということです。なお違っているのは箱だけで、なかに入っている洗剤はまったく同じだったとか。

ワインの例でも同じです。あるスーパーの棚に、値段と味がほぼ同じフランスワインとドイツワインを4種類ずつ置き、フランスワイン音楽とドイツ音楽を1日交替で流してみたのだそうです。するとフランス音楽を流した日には、売れたワインのうち77パーセントがフランスワイン、ドイツ音楽を流した日には、同じく73パーセントがドイツワインだったというのです。

ストッキングを使った実験では、まったく同じ4組のストッキングにそれぞれ違う微かな匂いをつけ、被験者に詳しく吟味してもらったといいます(もちろん被験者は、すべて同じストッキングであることを知りません)。すると被験者は「そのうちの一組のストッキングが優れている理由」について、生地、織り方、感触、光沢、重さの違いを感じたと報告したのだとか。ところが、その理由のなかに匂いだけは含まれておらず、ストッキングに匂いがついていたことに気づいた被験者も250人中わずか6人だったといいます。

このような実験の結果、人は無関係な要素から強い刺激を受け、それらの要素は無意識の欲求や動機に訴えかけるということが明らかになったというわけです。(22ページより)


こうした事例がふんだんに盛り込まれた本書からはたしかに、無意識がもたらす可能性を実感することができます。問題は、それをいかに活用するか。本書を読んで、自分なりのアイデアを探してみてはいかがでしょうか?


(印南敦史)

  • しらずしらず――あなたの9割を支配する「無意識」を科学する
  • レナード・ムロディナウ|ダイヤモンド社
コメント
Hot Entry
Recommended
関連メディア