社説:消費増税間近 「駆け込み」過熱は禁物
毎日新聞 2014年03月02日 02時30分(最終更新 03月02日 17時27分)
4月の消費増税まで1カ月となり、増税前に駆け込み的に増える需要を狙った販売商戦が日用品にも広がってきた。だが、「駆け込み需要」の盛り上がりが大きければ、4月以降にその反動で消費が落ち込む「反動減」の谷も深くなる可能性が高い。小売業界は反動減を見据え、消費意欲を持続させる工夫が必要だ。
駆け込み需要は高額品から始まり、徐々に日用品に移りつつある。スーパーの店頭では2月半ばから飲料や調味料、洗剤といった保存がきく商品を対象に、まとめ買いセールや期間限定のポイント付加、カード割引が行われている。百貨店も時計や家具の特売セールを頻繁に開いたり時期を前倒ししたりしている。
業者がセールを一斉に繰り広げるのは、他社との競争に出遅れるわけにはいかないからだ。買い替え需要の掘り起こしは期待できるが、消費を先取りする面も大きい。先のことを考えずにセールに走り、4月以降、ぱたっと商品が売れなくなってしまえば困るのは業者自身だ。
消費税が初めて導入された1989年にも駆け込み需要と反動減はあった。ただ、当時はバブルの好景気の最中で、経済全体に大きな影響は出なかった。ところが、97年に消費税率が3%から5%に上がった際の反動減は長びいた。経済情勢も悪く、銀行や証券会社の破綻が相次いで不安が広がり、消費不振は最近まで続いたデフレの象徴となった。
今は経済状況が当時とは大きく異なる。株価は底堅く、大企業を中心に賃上げのムードも出ており、17年前の消費不振が再現する可能性は低い。それでも、4月からの反動減に備え、購買意欲を一気に冷やさないよう準備をしておく必要がある。
消費者の嗜好(しこう)の変化を把握することは大切だ。小売業界には、97年の反動減の際に、低価格商品に偏り過ぎ、「安かろう悪かろう」で消費者の売り場離れを招いた苦い教訓がある。最近、値段は少し高くても品質の良い商品の売れ行きがよいことから、その品ぞろえを充実させる企業がある。「低価格」と「高品質」の二極化が進むと見る企業もある。
集客力を上げるため売り場を改装した店も多い。来年10月には消費税率の10%への引き上げも予定されている。今の販売状況を分析し、次に生かすことも必要になる。
一方、家計への影響を抑えようと、税金の少しでも安いときに買いたいと消費者が考えるのは無理からぬところだ。ただし「お得」の宣伝文句に踊り、余計な買い物をしては節約にならない。「駆け込み需要」が叫ばれると何か買わなければいけない雰囲気になるのは避けたい。消費者も賢い選択が必要だ。