(英エコノミスト誌 2013年6月15日号)
力強さに欠ける安倍晋三首相の構造改革案に、多くの人が失望している。
最も熱望されていた第3の矢は、大きな失望を招いた〔AFPBB News〕
6月5日に発表されたアベノミクスの「第3の矢」には、国内外から大きな期待が寄せられていた。アベノミクスは日本を長期にわたる停滞から抜け出させるため、安倍晋三首相が掲げた構想だ。
1本目の矢は4月4日、日銀による金融革命という形で放たれた。就任したばかりの黒田東彦総裁が、日本経済に大量の現金を注入し、デフレを終息させると宣言した。2本目の矢は1本目に劣らず劇的な10兆3000億円規模の財政出動だった。
しかし、3本の矢の中で最も重要性が高く、熱望されていたのは、長期的な経済成長を目標とする今回の成長戦略だ。ところが、いざ発表されると、力強さを欠くその内容に多くの人が失望した。株価の下落が続いた後ということもあり、アベノミクスが早くも勢いを失ったと思わせる発表だった。
大胆な改革案が出ていたのに・・・
安倍首相は、成長戦略の策定に際し、いくつかの改革諮問会議を招集した。その代表が、自民党内に設置された日本経済再生本部と、産業競争力会議だ。会議には、民間の企業経営者や経済学者、改革推進派も名を連ねた。メンバーの1人である竹中平蔵氏は、郵政民営化への激しい反発と戦った小泉純一郎元首相(2001~06年)の右腕だった人物だ。
改革派がこれらの会議に期待していた分野の1つが労働市場だ。日本企業は、倒産寸前に追い込まれない限り、従業員の解雇を禁じられている。それが困った結果を生んだ。
厚生労働省は1月、「追い出し部屋」という悲惨な現象の調査に乗り出した。報道によれば、複数の有名企業で、数百人の従業員を特別な部屋に送り込み、一日中ほとんど、あるいは全く仕事がない状況を強いているという。
表向きには、従業員を再教育し、新たな業務に就かせるための部屋だが、真の目的は自主退職に追い込むことだと、多くの人が証言している。ほとんどの企業が余剰人員を抱え続け、その経費がかさんでいるため、若手の雇用や昇給に消極的になっている。そして、それが給与水準の停滞やデフレの長期化につながっている。
改革派は、労働市場やほかの経済分野に関して大胆な提案をしている。企業は退職手当を支払えば従業員を解雇できるようにすべきだという提案もあった。7月には自由貿易協定である環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が始まるため、農業の改革は急務だ。農家の大部分は小規模な兼業農家で、競争力に欠ける。