高橋 洋一 高橋洋一「ニュースの深層」

2013年12月02日(月) 高橋 洋一

東京大学の民営化までにらんだ改革を!国立大学教員に年俸制導入で大学はどう変わるのか

 

文部科学省は11月26日、国立大の機能強化に向けた方針「国立大学改革プラン」を発表した。学長の強いリーダーシップを確立し、各大学の強みを生かすように「経営」することを求めている。また、教員の給与システムに「年俸制」を導入することもあるという。

学長のリーダーシップは、学長に大きな責任がかかってくるので、学長が頑張るしかない。お飾りの学長はこれから大変になるだろう。

教員の年棒制は、多くの教員にとって人ごとではないので、かなり話題になっている。下村博文文科相が目指すのは国際競争力のある大学像であり、そのために教員たちのぬるま湯体質を是正したいとの思いがある。

教員1万人に年俸制を導入

文科省の国立大学改革プラン(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/11/__icsFiles/afieldfile/2013/11/26/1341852_01_4.pdf)をきちんと読んでみよう。

話題の箇所は、「6.(4)人事・給与システムの弾力化」である。

 

2013年度の国立大学の事業費は2兆3768億円。このうち付属病院経費は9032億円だが、これは付属病院収入9032億円で賄われるので、大学そのものの事業費は1兆4736億円だ。これを、運営交付金1兆792億円、授業料等3706億円、雑収入238億円で賄う。運営交付金の占める割合は73%にもなる。この意味で、運営交付金は国立大学の命綱だ。これを使って、年棒制を導入しようとしている。

また「退職手当にかかる配分方法を早期に見直し」という文がある。これは退職金の引き下げだろう。

 

改革加速期間は今2013年度~2015年度なので、教員1万人に年俸制を導入することとなる。

平均給与は826万円、東大は948万円

文科省のサイトに、独立行政法人、国立大学法人等及び特殊法人の役員の報酬等及び職員の給与の水準一覧(平成24年度)(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/06/attach/1336820.htm)がある。この中で、国立大学法人(86法人)と大学共同利用機関法人(4法人)をすべて調べると、国立大学教員は常勤・非常勤で5万3719人、平均給与は816万円だ。このうち、常勤だけをとれば、5万1431人、平均給与は826万円だ(各大学の平均給与は下図のとおり)。ちなみに、東大は948万円。

 

 

また、年棒制大学教員は、前の文科省資料を調べると、3488人で平均給与は658万円となる。今のところ年棒制教員比率は6.5%であり、2015年中に1万人にするということは、今後2年間で6500人を年棒制にする必要がある。およそ、国立大学の常勤の全教員の1割強が対象になるだろう。

 

年棒制の趣旨は、実績主義だ。1500人の常勤ポストを若手・外国人に振り向けるということなので、シニア教員にやめてもらおうということだろう。

上記の文科省の方針をまとめると、今後2年間で国立大学教員の13%の人に、まず辞めていただき、その四分の三(全体の10%)は再雇用するが年棒制に移行する。のこりの四分の一(全体の3%)とは再雇用しないで若手にポストを譲ってもらうということだろう。

いよいよ国立大学にもリストラがやってきたといえよう。そこで、国立大学の教員は喧々囂々となっている。

国立大学の教員にしてみればはじめての経験かもしれないが、民間企業では当たり前のことだ。そもそも大学教員だけが年功序列のシステムを維持できるはずない。本来であれば、業績で勝負すべき大学教員が、年齢が同じだとほとんど同じ給料というのも奇妙な話だ。業績主義というのは、大学教員などのインテリ層が言い始めたものなのに、我が身に火の粉が降りかかると大げさに騒ぎ出すのは見苦しい。

欧米の一流学者を呼ぶためには2000万円は必要

年棒制に移行するのが全教員の10%。これで平均的な給料ダウンは170万円。本当に辞めてもらうのが全教員の3%。この程度の不適格者はどこの組織でもいる。

国立大学の常勤教員の全給与額は年間4250億円。年俸制への移行で浮く金額は85億円。辞めてもらって浮く金額が120億円。併せて200億円。これを1500人に使えて、一人あたり1300万円の上乗せが可能だ。

先の文科省の資料から非常勤教員の給与を計算すると589万円になるので、1500人には大体2000万円の給料が払えることになる。

今の東大の常勤の給料948万円では、欧米の一流学者は呼べない。せめて2000万円は必要だ。一応、そこに手が届くところまできている。

ただし、この先は国立大学の方式には限界がある。東大や京大などが本当に世界で戦うためには、寄付金を受け入れて、民営化で自由な経営をするほうがいい。そのためには、まず、大学への寄付金を税額控除方式にする必要がある。

そうすれば、寄付者はその分税金負担がなくなる。一方で税収は減るわけだが、寄付者が使い道を決められるわけで、国が税金を吸い上げて使い道を決めるという方式の大転換になる。

と同時に、国立大学を民営化して、寄付金に依存して、自由な大学経営をすべきである。

ここまで、将来を見据えた大学改革でないと、現状をかえたくない大学教員の反対にあって、尻すぼみとなるおそれもあるだろう。