読売新聞地域ニュース富山版2001523日朝刊

県警などに捜査要望 コーラン破り捨てたのはだれ?
                                イスラム教徒300人が集結 県庁正面玄関では気勢

「コーランはただの本じゃない。私たちの命だ」−。
パキスタン人男性が経営する小杉町の中古車販売店前に、イスラム教の聖典「コーラン」が破り捨てられていたなどとして、約三百人のイスラム教徒が二十二 日、県警や県などに、コーラン破り捨てに対する徹底した捜査や、イスラム教徒に対する嫌がらせ対策などを要求した。この日は、県内だけでなく、関東、近 畿、中部、など全国各地から集結。イラン、イラク、アフガニスタンなど他のイスラム教国の人も集まった。さらに、在日パキスタン大使館の書記官や、在京の パキスタン日刊紙記者も駆け付け、国際問題に発展する恐れも出てきた。
  小杉町白石で中古車販売店を営むパキスタン国籍のイムティアズ・アーメド・ゴンダルさん(37)によると、二十一日午前八時三十分ごろ、国道8号線に面し た同店前の歩道上に、破かれたコーラン一冊と、パキスタン人やイスラム教徒を中傷する日本語のビラがまかれていた。コーランはアラビア語で書かれ、パキス タン語訳が添えられているもの。三月下旬、新湊市内の礼拝所でなくなったものと同種という。ゴンダルさんらは同日、小杉署に通報するとともに、東京の在日 パキスタン協会などと対策を話し合い、二十二日の行動となった。
  新湊市内の「モスク」に集合したイスラム教徒らは同日午前十時半ごろ、まず小杉署を訪れ、制止する署員に「二度とこんな事件が起きないように対策をとって ほしい」などと詰め寄った。同署の駐車場は教徒らで膨れ上がり、ハンドマイクを手に次々とシュプレヒコールを上げた。近くに住む主婦は、「前にもパキスタ ン人が署にきたことはあったが、今回の人数はすごい」と不安そうだった。
 その後一行は富山市の県警本部に行き雨の中正面玄関前で「神よ助けたまえ」などと連呼。通りかかった乗用車の日本人男性が「うるさい」などと、怒鳴ると、逆上した数十人が乗用車を追いかける一幕もあった。午後一時四十分頃には、県庁の正面玄関前に移動して気勢をあげた。


神の言葉として非常に重要なもの
 東京外語大アジア・アフリカ研究所の飯塚正人助教授(イスラム学)は、「イスラムではコーランは神の言葉として非常に重要なもの。それが破られたということになれば信仰する人たちが憤慨するのも無理はない。コーランを粗雑にあつかわれるのは彼らにとっては大きな問題。」
 在日パキスタン大使館のアハマド・イムティアズ一等書記官は「他の宗教を尊厳できない人がやったのだと思うが、警察はやったひとを見つけて取り調べてほしい。パキスタン人は非常に闘争的になっているが冷静になるようにお願いしている。」と話した。

事件立件の可能性を探る 県警備
 小杉署は二十一日、ゴンダルさんの店の前にコーランが散乱しているのを確認。この日の要請に対しては、「紙が散乱していただけだから、すぐには罪名や適用 法令は分からないが、法律に従って捜査する」などと説明した。県警警備部も同日、「捜査を進めている」と回答したが、窃盗の被害届が出ていないことや、な くなったコーランと破られて見つかったものが同一かどうか分からず、刑事事件としての立件の可能性は微妙としている。
 県庁では人権問題の伏江喜夫・生活文化課長らが、ライース・スィディキ在日パキスタン協会会長らに「事件が事実とすれば残念。祖国の風俗・伝統・宗教を尊重しなければならない」と立場を説明した。
  県警や県との交渉に立ち合った中古車販売組合副会長バット・シャヒドさん(富山市)は「警察や県の回答には納得できないところもあるが、今後の対応に期待 したい」と話し一連の要請行動を取材した在日パキスタン向け新聞「パク」のムハンマド・ツベル記者(37)は「犯人にはコーランが私たちにどれだけ重要か わからなかったのだろう」と怒りを抑えながら分析していた。


イスラム教国の関係者は320人
 県国際・日本海政策課によると、県内に外国人登録しているパキスタン人は昨年末現在、六十四人で、富山、高岡、新湊市に多い。イランやバングラデシュなどを含めたイスラム教国では約三百二十人に達する。
  新湊市などの国道8号線沿いには、おのみ伏木富士港にやってくるロシア人を相手にするパキスタン人経営の中古車販売店が集中。四月十七日には小杉町で、路 上駐車の自動車運搬車にトラックが衝突し女性が死亡。同二十八日には新湊市で、街宣行動中の政治団体構成員の男がパキスタン人男性の乗用車のガラスを割り 逮捕される事件もあった。

「抗議し保護求める」
パキスタン二等書記官
 在日パキスタン大使館のムハンマド・モダセロ・ティップ二等書記官は二十二日、要請行動の一行とは別に、県庁では伏江生活文化課長に対し、「コーランは 人生の価値を説いた大切なもの。法律のもとに富山にいるパキスタン人をできるだけ保護してもらいたい」などと県内に住むパキスタン人の人権と宗教の自由を 守り二度とコーランが破られるようなことが起きないように求めた。