回し車のハムスターにならないために:買い物をする前に自分に問うべき3つの質問
私たちの遺伝子が取るべき対策
Center for Applied Rationalityの共同創設者であり現理事長のJulia Galefさんは、この現象をこう説明します。「私たち人類は、心理におけるこの不遇な側面、つまり、走っても走っても幸せは変わらないという状態を保ちながら、進化を遂げてきました。私たちは、祖先の持つ貪欲さを引き継いでいるのです」
なぜ我々の祖先は、洞窟の大きさを比較していたような時代から、そんなにもがむしゃらになる必要があったのでしょうか。「遺伝子上、私たちは多くの資源や地位を求めるようにできています。その理由は、子孫繁栄のためにそれらが必要だからです。しかし遺伝子は、私たちがその競争を楽しめるかどうかまでは気にしてくれません」
ちょっと視点を変えてみましょう。私たちの祖先にこんな2つのグループがいたら、どっちが繁栄すると思いますか? 1. いつも火のそばに座っては溜息をつき、現状に満足しているグループ。2. いつも現状に満足できず、常に富、権力、地位を追い求めているグループ。――後者であることは明らかです。つまり、現在生き残っている私たちは、後者の子孫だと考えるのが自然しょう。私たちがその欲求を受け継いでいるのもうなずけます。
もっと近代的な幸せのとらえ方
昔からの有名な問答に、こんなものがあります。
問「大きい家に住んだら本当に幸せになれるのか?」
答「それは人による」
LifeWise Strategies/Money Habitudesの創設者でありエグゼクティブコーチのSybel Solomonさんはこう言います。「大きい家に住むということは、あなたにとって大切なスペースを持てることを意味します。つまり、そこで仕事をしたり、大家族と一緒に楽しい生活を送ることで、大きなスペースが幸せをもたらしてくれるのです。ただし、それが幸せかどうかはその人の視点次第で変わります。いくら大きなスペースがあっても、そこで楽しませるための相手がいなかったり、家でできるような仕事をしていなかったり、スペースがないことを言い訳に使っているような場合、むしろ幸せでなくなってしまうことだってあるのです」
愛する人と大きな家に住み、永遠に続く特別な瞬間を共有することで幸せになることは間違いないでしょう。でも実は、その幸せを運んできたのは、"大きな家"ではないのです。幸せを運んできたのは、"体験"と"人"。Galefさんは、この2つこそが、幸せの方程式に不可欠な要素なのだと言います。
お金や時間の使い方をじっくりと考えることで、幸せメーターの針を動かすことは可能です。そのための方法の1つが、買い物をする前に、次の3つの質問をすること。去年買ったモノのうち、永遠の喜びをもたらしてくれたもの、つまり快楽の回し車とは異なるものは何だったのか、家計簿を振り返ってみるのもいいかもしれません。
質問1:それは自信につながるのか?
「私たちが喜びを得ることができるのは、自分自身を誇れる何かをしたときです」。それは例えば、ペディキュアを塗ったとき、遊びに参加したとき、愛する人とデザートをシェアしたときなどのように、感覚的なものや、お金に無関係なことの場合もあります。「誰かの痛みや喜びを知ったこと、そしてその相手に気持ちに寄り添ってあげたときなど、何でもいいのです。他者に「No」と言って、自分に「Yes」と言えるだけの余地を作ることでも構いません」
私たちは、止まることのない回し車の中で、義務をつぶしてしまいがちです。そして、インスタントな喜びよりも長続きするはずの、純粋に喜ばしい瞬間を見失ってしまうのです。
質問2:それには意味があるのか?
多くの人は、コミュニティの一員となり貢献することによって満足を得られます。それは、ボランティアでも、似た者同士が集まるサークルや組織でも構いません。そのような場所で有意義かつ記憶に残る交流をすることで、長期的な幸福感が高まるのです。
「誰かと時間を過ごしたり、誰かのためにお金を使うことで、幸福感が高まるという研究結果がたくさん出ています。それに、雰囲気は伝染するものです。誰と時間を過ごすかを決めるときには、そのことを覚えておいた方がいいでしょう」とGalefさんはアドバイスをしています。
質問3:それは自分を魅了するもの、または課題を与えてくれるものなのか?
作家エドガー・アラン・ポーが言ったように「人生最高のことは、必ず骨が折れるもの」です。ただし、これをあまり文字通りに受け止めないでください。パズルを解く、ピアノを弾く、ゴルフをする、新しい趣味をマスターするなど、あなたが喜びを得られることはいろいろあるでしょう。ただ、どんな活動であれ、あなたがそれを始めたとたん、時計は姿を消してしまいます。「人生の楽しみの一部は、時間の感覚を忘れてしまうほど自分を魅了してくれる何かに取り組むことです」とSolomonさんは言います。
心理学では、この状態を「フロー」と呼びます。フローの状態にあるときは、報酬、満足、喜びと相関を持つあらゆる種類の神経化学物質が脳から分泌されているという研究結果も出ています。
ですから、もし今度、セーターにお金をつぎ込むか、長期休暇のために貯金しておくかを悩んだら、どちらがより長期的な影響力を持つかを考えて決めるのがいいでしょう。
Will That Purchase Really Make You Happier? 3 Questions to Ask Yourself | LearnVest
HOLLY CRAWFORD(原文/訳:堀込泰三)
- お買い物の経済心理学: 何が買い手を動かすのか (ちくま新書)
- 徳田 賢二|筑摩書房