2014年03月02日
ジュエル・ロブションが不味い理由をいろいろ考えてみた
先日、恵比寿のジュエル・ロブションに行く機会があった。身内にちょっとしたお祝い事があり、僕も曲がりなりにもメルマガでレストラン評論をやっているので、2014年のミシュラン・ガイド
に載っている三ツ星レストランはいちおう全部行ってアップデートしておこうと思っていたからだ。それで、いま東京に13軒ある三ツ星レストランのどれでもいいから行きたいところを予約しておいて、と言ってみた。どれでもいいから、と言いつつ、僕が行きたい三ツ星レストランはすでに決まっていて、そこをさり気なく提案すると、「えっ、どこでもいいの? だったら、ジュエル・ロブションに行きたい!」と押し切られてしまい、ジュエル・ロブションに行くことになった。あんまりレストランなんか詳しくない人でもすぐに名前が出てくるあたり、ジュエル・ロブションのブランドはすごいなぁ、と思った次第である。
僕がこのレストランに行くのは、ものすごく久しぶりというか、2回目だ。僕がはじめて行ったのは、最初の外資系投資銀行で働いていたときに、本社から来た偉いマネジャーと東京オフィスの若手数人でランチをする会みたいなのが催されたときである。そのときに選ばれたのが恵比寿ガーデンプレイスの中央にある18世紀フランス様式のあの城館の2階にあるジュエル・ロブションだった。予約したアシスタントの女の子が興奮気味に「すごくいいレストランに行けてラッキーね!」と言っていたのを思い出すが、正直言うと、何を食べたのか思い出せない。何を食べたのかを覚えていないのだがから、必然的に味なんか覚えちゃいない。それほど昔の話だ。
ところで、僕は車になんか興味がない、というかリスクの観点からむしろ車を運転するのを積極的に避けている。また、お金を払って綺麗な女の子と話す的なお店に行きたいとも思わない*。家もこれ以上大きくなると、自分の家を管理して掃除したりするために人を雇わなければいけなくなる。中間管理職を経験したことがある人ならわかると思うが、人を使うというのはとにかくめんどうなのである。少なくとも人を使うにはある種の才能が必要であり、僕の過去の仕事ぶりを見る限り、僕の人を使う才能に関しては苦笑するしかない。そうすると余ったお金は、美味い飯を食うぐらいしか使い道がない。
僕自身は、まだまだこれからがんばらなければいけない人であり、大して成功していないし、お金持ちでもないのだが、それでも高級レストランで払うお金ぐらいは、それ相応の美味いものを食べさせてくれるという条件付きで、それほどの高い出費とも思わなくなったのも事実だ。気が付くと、僕も同じような境遇の他の多くの金持ち連中と同じように、美食が趣味というか、メルマガでレストラン評論を書いたり、本を書いたり、とすっかり色んな高級レストランに行くのがライフワークになってきた。
*タダで連れてってくれるならやぶさかではないので、どうしても僕を連れていきたい取引先の皆様やお金持ちの皆様は遠慮せずに声をかけてくれてかまいません。
プロとアマチュアの違いというか、顧客から金を受け取る仕事というのはやはりある種の緊張感を生み出す。僕はこの2年間、週に1〜3軒ぐらいの高級レストランに行くようになり、おそらくこのペースはある種の仕事じゃなかったら絶対に無理だっただろうな、と思える。おかげで体重が増えてしまい、いまこれは解決すべき深刻な問題として僕の中で持ち上がっているのだが…。銀座の鮨屋なんかで酒を飲まなければ大したカロリーにもならず食後もじつに心地いいのだが、問題はワインをがぶがぶ飲んで自分も相手も酔わなければいけないシチュエーションでのイタリアンやフレンチである。このダイエット問題は重要ではあるのだが、今回のイシューとは関係ないのでこの辺にしておこう。
さて、ジュエル・ロブションである。ジュエル・ロブション氏というのは、フレンチの世界的な権威で数々の文化勲章を受賞してきた人物である。史上最年少でミシュラン・ガイドの三ツ星を獲得し、その後も出店するレストランが次々と評価され、現在、世界11ヶ国でレストランを経営し、ミシュラン・ガイドの星の数は世界一らしい。1945年生まれだから、もうすぐ70歳だ。まあ、人間国宝的な人なのだと思う。よく知らんが。
それで東京でもカフェなんかを含めると6店舗経営していて、レストランは全て星付きだ。その中で最高峰なのが、言うまでもなくガストロノミー・ジョエル・ロブションだ。ここは三ツ星を獲得し続け、日本のレストランの中では三ツ星レストランの中の三ツ星レストランである。そして、値段も最高峰だ。ふつうに真ん中ぐらいのコースで、ワインを含めるとひとり6万円はする。グラスワインは1杯5000円ぐらいするぼったくり価格だし、料理もサービス料を含めると真ん中のコースで4万円もするからだ。
ちなみに高級レストランの相場を書いておくと、銀座の最高級の鮨でひとり3万円ぐらい、ふぐで3万円ちょっとだ。銀座の高級鮨屋の相場がひとり1万5000円〜2万5000円ぐらいで、フレンチというのは、ふつうは和食より安い。東京の高級フレンチの相場はひとり1万円〜2万円ぐらいだ。ひとり6万円のフレンチというのが、いかに高いかわかってもらえるだろう。
もちろんジュエル・ロブションは様々なレストラン・ジャーナリストが絶賛し、食べログ(笑)のスコアも極めて高い。その割には、美味い物を食い歩いている人たちからはあんまりいい評判は聞かない、そんなレストランだった。まあ、ジュエル・ロブションは日本でもブランドを貸し出して様々なビジネスを展開しているので、そうしたレストラン紹介雑誌からは悪い評価が出ないのは当然としても、好きなことを言える食通の人たちがあんまり名前を上げないお店なので、そんなに僕は期待していなかった。それでも美味いことは変わらず、まあ、問題があるとしたらコスパ的なことなんだろうな、と思っていた。
そして、実食!
最初に出てきたのは、名物のキャビア・ロブション・スタイルである。これはキャビアの缶をお皿に見立てて、下に甲殻類のジュレを敷き詰め、上に高級キャビアをどっさり乗せた逸品である。
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これは美味い! さすがにひとり6万円の日本の、いや世界のフレンチの最高峰である。まあ、値段を考えたら割に合わないかもしれないが、今日は期待できそうだ。よし、テンション上がった!
しかし、である。その次のウニの料理がイマイチである。まあ、最近は、銀座の鮨屋なんかで最高に美味いウニなんかを食い慣れてしまっているから、さすがにフレンチだからウニが大したことないのは仕方がない。よし、気を持ち直して次に行こう。次は、64度で調理した卵のなんちゃら、みたいなのが出てきた。食ったら、これ、ただの温泉卵やんけ―! そんで、次の甲殻類の料理も、やっぱり美味い上海蟹食ったり、金沢で美味いズワイガニなんか食ってる身としてはイマイチ感が半端ない。
そんでフォアグラやホタテ料理なんか、どう考えても、僕がよく行くはるかに安いフレンチのほうが美味いじゃねーか!と思わずにはいられなかった…。
フレンチの伝統を打ち破る懐石スタイルだかなんだか知らないが、とにかく皿がいっぱい出てきて、一皿のポーションがすごく少ない。銀座の高級鮨屋では、ネタとシャリの温度が極めて重要で、握られてすぐに食べるのが鉄則である。ここで女とぺちゃくちゃしゃべっていて、握られた鮨をそのままにしてほかっておけば、大将にぱっと鮨を捨てられて、「もう食わんでいい、出てってくれ」と怒鳴られそうなそんな張り詰めた緊張感がいい鮨屋にはあり、僕はそれがとても好きだ。もともと僕は食べるのが早く、料理はそれが一番美味しい温度というのがあり、最高の料理はそれも計算されて出される、と思っているので、出てきた皿をペロン、ペロンと僕は秒速で食べる。全体としてはたっぷりなボリュームなので、僕はボリュームについて文句を言っているわけではない。むしろ多すぎるぐらいだ。いや、多すぎる。しかし、このスタイルのフレンチで鮨屋のようにすぐに食べると、全部で3時間もあるコースなので次の皿が出てくるまでが、なげー。とにかくなげーよ。
ここで鮨屋なら大将と今日の自慢のネタの話でもしながら、次はどんな鮨が握られるのかハラハラドキドキ感があって楽しめるのだが、フレンチだとそれがないので、この間が苦痛でしかない。ふつうのフレンチなら、せいぜい3皿や4皿なので一つひとつのポーションが大きく、ワインでも飲みながらゆっくり食べて楽しいのであるが、給仕が皿を置いて料理の説明をして、後ろを振り向いている頃には、僕はすでに秒速で全部食ってしまっているのだ。だからと言って、次の皿が出てくるまでの間にパンをむしゃむしゃ食べてしまっては、オーバーカロリーとなり、全コースを完走することができない。これは非常に困ったジレンマに直面することになってしまった。
そこで僕はスマホに走った! 誤解のないように言っておくと、僕は、ちょっと成功した若者が高級レストランで写真を撮ってTwitterにアップしたり、スマホをいじっている姿を見て、そのマナーの悪さに眉をひそめているタイプの男である。いや、連れとしゃべれよ、と思われるかもしれないが、なんか連れも期待していたほど料理が美味しくなく、テンションが下がってきていて、あんまり会話が盛り上がらなかった。美味しい皿を目の前にして、料理についていろいろ話すのはいいのだけれど、さすがに結婚記念日とかのハレの日に超奮発して来ている他の客たちの前で、レストランのダメ出しをするわけにはいかない。どんなにレストラン・マナーが荒廃する世の中であったとしても、食事中の料理のダメ出しは絶対にダメなのだ。どんなことがあったとしても、だ。このときほどスマホに溜まっている、読んでいないメルマガに救われたことはないような気がした。
さて、お会計である。ガーン! やっぱりふたりで10万円越えている。とても嫌らしい話をすると、ぶっちゃけた話、10万円ちょっとぐらいのお会計なんて僕にとってはどうってことない金額だ。しかし、僕にはトレーダーの血が入っていて、何か不当に高い値段を払ってしまうとすごく嫌な気分になってしまうのだ。世間ではそれをケチと呼ぶのかもしれないが、僕は何かもっと誇り高い感情だと思っている。僕はクレジットカードを差し出し、その請求書に渋々サインした。このときに僕は、何か素晴らしい将来を約束しながら言い寄ってきた大して好みでもない紳士的な男とセックスしたら、次の日にはその男がすっかりと姿をくらませてしまったときの少女のような気分になっていた。何か大切なものが盗まれてしまったような気がしたのだ。僕のサイフから。
ひとり1万円やそこらのレストランで不味かったら、あ〜、運が悪かったなぁ、と思いスルーするだけなのだが、やはり10万円以上払って、ぜんぜん満足感が得られなかったので、ずっとジュエル・ロブションのことは僕の頭から離れなかった。というのも、ある意味でジュエル・ロブションの経験は僕の常識を打ち破っていたからだ。
料理が美味いかどうかはぶっちゃけた話、ほとんどが食材で決まる。ある一定レベル以上の料理人の間では、それほど腕に差が出るわけじゃない。だから、じつは採算なんか気にせず、ホームパーティーなんかで最高の食材を作って料理するのが一番美味しいのだ。レストランというのは、採算を考えて、どうしても材料費と調理の時間を節約しないといけないのでそれはしょうがない。その制約条件のなかで一番美味いものを作るのがプロの料理人の仕事である。
その点で言うと、ジュエル・ロブションはひとり6万円である。これだけの予算があれば最高の食材を使って料理できる。だから、まあ、コスパは合わないだろうが、大して美味くない、というのはありえない、と僕は思っていた。三ツ星レストランだし。
しかし、しかしである。ぶっちゃけた話、この前行ったひとり5000円の俺のフレンチのほうが美味かったじゃん、と思ったのは事実なのである。誤解のないように言っておくと、味覚というのは人それぞれだし、食べログ(笑)を見ると、多くの人たちが絶賛しているので、僕が間違っている可能性は十分にあるし、僕はジュエル・ロブションさんなんか知らないし、働いているシェフも運営会社も全く知らず、営業妨害なんてする気はさらさらない。たまたま腹が立ったウエイターがいたとか、そんなこともぜんぜんない。実際に、最高級レストランだけあってウエイターたちのサービスはなかなか良かった。単に、食事が思っていたほど僕の口に合わなかった、というだけの話だ。しかも、僕はブラインド・テストしたら松阪牛とスーパーの安い輸入肉の区別はほとんど誰もつかない、という類の話が大好きな人物であり、僕自身も、そんなに味覚が鋭いと思っているわけではない。実際のところ、ワインなんて、未だに美味いワイン、不味いワイン、重いワイン、軽いワインの4種類ぐらいしか区別が付かない。まあ、映画を見て、あれは面白かった、つまらなかった、と言ったり、あそこのラーメン美味いね、いやあれは僕は好きじゃない、とかそんな類のあくまで個人的な、超個人的なレストランの感想を、すごく個人的なブログに日記として書いている、というだけの話である
それで僕はなぜジュエル・ロブションがあの値段でもぜんぜん美味しくないのか、その理由をいろいろと考えてみたのだ。いや、あの請求書のおかげで、あの食後感が僕の心の中の澱としてずっと残っていて、自然と無意識のうちにいろいろ考えてしまっていたのだ。それでジュエル・ロブションのビジネス・モデルを考えると、僕が美味しいと思っている東京のいくつかのレストランとは正反対のことをやっていることに気がついた。
僕は個人的には、美味いものを食いたかったら銀座の高級鮨だと思っているのだけれど、銀座の鮨屋にメニューはない。最高のネタを最高の状態で出したいから、毎日同じメニューにすることは不可能なのだ。いい車海老が市場に入らなければ、お任せメニューから車海老は消えてしまう。反対に、すごく美味しいノドグロなんかが入って、いい熟成状態で出せるとなるとそれが出てくる。とにかく素材命なので、大将は毎日市場に行き、一番いいネタを仕入れてきて、それを一番いい状態になるまで寝かしたりして仕込んで客に出すのである。
フレンチだって、知り合いのハンターが取ってきた状態のいいジビエがいい熟成状態になると、今日はこれが美味いよ、なんて出てくる。だからオーナー・シェフの小じんまりした美味しいフレンチは、鮨屋みたいなところがあってメニューが毎日変わる。
しかし、多分これが売りなんだろうけど、恵比寿のジュエル・ロブションでは、世界11ヶ国でレストランを経営しているためにめったにキッチンには来ないジュエル・ロブションさんお墨付きの固定化されたメニューが一定期間続く。そこには現場のシェフが市場に行って今日は何がいい食材なのかを見極める自由がない。地中海から空輸された舌平目とかがドヤ顔で出てきても、魚は日本のほうが美味いのに、と思ってしまうのだ。
俺のフレンチの経営者の本を読んだら、成功の秘訣のひとつはとにかくその店のシェフを信頼して、仕入れからその日のメニューまで全ての権限を与えたことだと書いてあった。大企業だと、ひとりの人間に仕入れも何でも全ての権限を与えるとすぐに業者と癒着して悪いことをしでかすなんて発想になるから、料理人と仕入れ担当で分けたりする。しかし、本来ならシェフがいろんな業者と付き合ったり、自分で市場に行ったりして、最高の食材をどこからどう仕入れるのかを常に考えなければいけないのだ。しかし、大企業のジュエル・ロブションでは、食材の仕入先も、その日のメニューを決める権限も、現場のシェフにはない。さらにジュエル・ロブションの名前を前面に出すために、現場のシェフの名前は全く外に出ない。店の前の看板にまでシェフの名前を出している俺のフレンチとは対照的だ。シェフに権限がなく、自分の名前が出ることはなく、偉い人の名前を使わせてもらうために上納金を払い続けなければいけないような環境で、腕のいいシェフがずっと働きたいだろうか? 僕ならそうは思わないだろう。
ジュエル・ロブションみたいな大企業的な経営で美味いものを出すのは、季節によって移り変わる希少な食材を使う必要がない、牛丼屋やラーメン屋やファミレスみたいなのにはすごく向いているのかもしれないが、高級レストランには向いていないのだと思う。もっとも、向いていないのは高級食材を使った美味い料理を出す、という点に関してだけで、ジュエル・ロブションみたいに上手くブランディングしてマーケティングすれば、美味いものは出せなくても、商業的には大成功するのだと思うけれども。
いや、不味い不味いって言っても、さすがにいいレストランで三ツ星レストランだから、もちろんふつうには美味いですよ。これでひとり1万5000円ぐらいだったら、ぜんぜんありだと思うし、僕もオススメするんだけど、ひとり6万円はないわ、というだけの話です。
ということで、ジュエル・ロブションより安くて美味しいフレンチを知りたい人はメルマガを購読して下さい(笑)。
→まぐまぐ、ブロゴス、夜間飛行、ブロマガ
僕がこのレストランに行くのは、ものすごく久しぶりというか、2回目だ。僕がはじめて行ったのは、最初の外資系投資銀行で働いていたときに、本社から来た偉いマネジャーと東京オフィスの若手数人でランチをする会みたいなのが催されたときである。そのときに選ばれたのが恵比寿ガーデンプレイスの中央にある18世紀フランス様式のあの城館の2階にあるジュエル・ロブションだった。予約したアシスタントの女の子が興奮気味に「すごくいいレストランに行けてラッキーね!」と言っていたのを思い出すが、正直言うと、何を食べたのか思い出せない。何を食べたのかを覚えていないのだがから、必然的に味なんか覚えちゃいない。それほど昔の話だ。
ところで、僕は車になんか興味がない、というかリスクの観点からむしろ車を運転するのを積極的に避けている。また、お金を払って綺麗な女の子と話す的なお店に行きたいとも思わない*。家もこれ以上大きくなると、自分の家を管理して掃除したりするために人を雇わなければいけなくなる。中間管理職を経験したことがある人ならわかると思うが、人を使うというのはとにかくめんどうなのである。少なくとも人を使うにはある種の才能が必要であり、僕の過去の仕事ぶりを見る限り、僕の人を使う才能に関しては苦笑するしかない。そうすると余ったお金は、美味い飯を食うぐらいしか使い道がない。
僕自身は、まだまだこれからがんばらなければいけない人であり、大して成功していないし、お金持ちでもないのだが、それでも高級レストランで払うお金ぐらいは、それ相応の美味いものを食べさせてくれるという条件付きで、それほどの高い出費とも思わなくなったのも事実だ。気が付くと、僕も同じような境遇の他の多くの金持ち連中と同じように、美食が趣味というか、メルマガでレストラン評論を書いたり、本を書いたり、とすっかり色んな高級レストランに行くのがライフワークになってきた。
*タダで連れてってくれるならやぶさかではないので、どうしても僕を連れていきたい取引先の皆様やお金持ちの皆様は遠慮せずに声をかけてくれてかまいません。
プロとアマチュアの違いというか、顧客から金を受け取る仕事というのはやはりある種の緊張感を生み出す。僕はこの2年間、週に1〜3軒ぐらいの高級レストランに行くようになり、おそらくこのペースはある種の仕事じゃなかったら絶対に無理だっただろうな、と思える。おかげで体重が増えてしまい、いまこれは解決すべき深刻な問題として僕の中で持ち上がっているのだが…。銀座の鮨屋なんかで酒を飲まなければ大したカロリーにもならず食後もじつに心地いいのだが、問題はワインをがぶがぶ飲んで自分も相手も酔わなければいけないシチュエーションでのイタリアンやフレンチである。このダイエット問題は重要ではあるのだが、今回のイシューとは関係ないのでこの辺にしておこう。
さて、ジュエル・ロブションである。ジュエル・ロブション氏というのは、フレンチの世界的な権威で数々の文化勲章を受賞してきた人物である。史上最年少でミシュラン・ガイドの三ツ星を獲得し、その後も出店するレストランが次々と評価され、現在、世界11ヶ国でレストランを経営し、ミシュラン・ガイドの星の数は世界一らしい。1945年生まれだから、もうすぐ70歳だ。まあ、人間国宝的な人なのだと思う。よく知らんが。
それで東京でもカフェなんかを含めると6店舗経営していて、レストランは全て星付きだ。その中で最高峰なのが、言うまでもなくガストロノミー・ジョエル・ロブションだ。ここは三ツ星を獲得し続け、日本のレストランの中では三ツ星レストランの中の三ツ星レストランである。そして、値段も最高峰だ。ふつうに真ん中ぐらいのコースで、ワインを含めるとひとり6万円はする。グラスワインは1杯5000円ぐらいするぼったくり価格だし、料理もサービス料を含めると真ん中のコースで4万円もするからだ。
ちなみに高級レストランの相場を書いておくと、銀座の最高級の鮨でひとり3万円ぐらい、ふぐで3万円ちょっとだ。銀座の高級鮨屋の相場がひとり1万5000円〜2万5000円ぐらいで、フレンチというのは、ふつうは和食より安い。東京の高級フレンチの相場はひとり1万円〜2万円ぐらいだ。ひとり6万円のフレンチというのが、いかに高いかわかってもらえるだろう。
もちろんジュエル・ロブションは様々なレストラン・ジャーナリストが絶賛し、食べログ(笑)のスコアも極めて高い。その割には、美味い物を食い歩いている人たちからはあんまりいい評判は聞かない、そんなレストランだった。まあ、ジュエル・ロブションは日本でもブランドを貸し出して様々なビジネスを展開しているので、そうしたレストラン紹介雑誌からは悪い評価が出ないのは当然としても、好きなことを言える食通の人たちがあんまり名前を上げないお店なので、そんなに僕は期待していなかった。それでも美味いことは変わらず、まあ、問題があるとしたらコスパ的なことなんだろうな、と思っていた。
そして、実食!
最初に出てきたのは、名物のキャビア・ロブション・スタイルである。これはキャビアの缶をお皿に見立てて、下に甲殻類のジュレを敷き詰め、上に高級キャビアをどっさり乗せた逸品である。
これは美味い! さすがにひとり6万円の日本の、いや世界のフレンチの最高峰である。まあ、値段を考えたら割に合わないかもしれないが、今日は期待できそうだ。よし、テンション上がった!
しかし、である。その次のウニの料理がイマイチである。まあ、最近は、銀座の鮨屋なんかで最高に美味いウニなんかを食い慣れてしまっているから、さすがにフレンチだからウニが大したことないのは仕方がない。よし、気を持ち直して次に行こう。次は、64度で調理した卵のなんちゃら、みたいなのが出てきた。食ったら、これ、ただの温泉卵やんけ―! そんで、次の甲殻類の料理も、やっぱり美味い上海蟹食ったり、金沢で美味いズワイガニなんか食ってる身としてはイマイチ感が半端ない。
そんでフォアグラやホタテ料理なんか、どう考えても、僕がよく行くはるかに安いフレンチのほうが美味いじゃねーか!と思わずにはいられなかった…。
フレンチの伝統を打ち破る懐石スタイルだかなんだか知らないが、とにかく皿がいっぱい出てきて、一皿のポーションがすごく少ない。銀座の高級鮨屋では、ネタとシャリの温度が極めて重要で、握られてすぐに食べるのが鉄則である。ここで女とぺちゃくちゃしゃべっていて、握られた鮨をそのままにしてほかっておけば、大将にぱっと鮨を捨てられて、「もう食わんでいい、出てってくれ」と怒鳴られそうなそんな張り詰めた緊張感がいい鮨屋にはあり、僕はそれがとても好きだ。もともと僕は食べるのが早く、料理はそれが一番美味しい温度というのがあり、最高の料理はそれも計算されて出される、と思っているので、出てきた皿をペロン、ペロンと僕は秒速で食べる。全体としてはたっぷりなボリュームなので、僕はボリュームについて文句を言っているわけではない。むしろ多すぎるぐらいだ。いや、多すぎる。しかし、このスタイルのフレンチで鮨屋のようにすぐに食べると、全部で3時間もあるコースなので次の皿が出てくるまでが、なげー。とにかくなげーよ。
ここで鮨屋なら大将と今日の自慢のネタの話でもしながら、次はどんな鮨が握られるのかハラハラドキドキ感があって楽しめるのだが、フレンチだとそれがないので、この間が苦痛でしかない。ふつうのフレンチなら、せいぜい3皿や4皿なので一つひとつのポーションが大きく、ワインでも飲みながらゆっくり食べて楽しいのであるが、給仕が皿を置いて料理の説明をして、後ろを振り向いている頃には、僕はすでに秒速で全部食ってしまっているのだ。だからと言って、次の皿が出てくるまでの間にパンをむしゃむしゃ食べてしまっては、オーバーカロリーとなり、全コースを完走することができない。これは非常に困ったジレンマに直面することになってしまった。
そこで僕はスマホに走った! 誤解のないように言っておくと、僕は、ちょっと成功した若者が高級レストランで写真を撮ってTwitterにアップしたり、スマホをいじっている姿を見て、そのマナーの悪さに眉をひそめているタイプの男である。いや、連れとしゃべれよ、と思われるかもしれないが、なんか連れも期待していたほど料理が美味しくなく、テンションが下がってきていて、あんまり会話が盛り上がらなかった。美味しい皿を目の前にして、料理についていろいろ話すのはいいのだけれど、さすがに結婚記念日とかのハレの日に超奮発して来ている他の客たちの前で、レストランのダメ出しをするわけにはいかない。どんなにレストラン・マナーが荒廃する世の中であったとしても、食事中の料理のダメ出しは絶対にダメなのだ。どんなことがあったとしても、だ。このときほどスマホに溜まっている、読んでいないメルマガに救われたことはないような気がした。
さて、お会計である。ガーン! やっぱりふたりで10万円越えている。とても嫌らしい話をすると、ぶっちゃけた話、10万円ちょっとぐらいのお会計なんて僕にとってはどうってことない金額だ。しかし、僕にはトレーダーの血が入っていて、何か不当に高い値段を払ってしまうとすごく嫌な気分になってしまうのだ。世間ではそれをケチと呼ぶのかもしれないが、僕は何かもっと誇り高い感情だと思っている。僕はクレジットカードを差し出し、その請求書に渋々サインした。このときに僕は、何か素晴らしい将来を約束しながら言い寄ってきた大して好みでもない紳士的な男とセックスしたら、次の日にはその男がすっかりと姿をくらませてしまったときの少女のような気分になっていた。何か大切なものが盗まれてしまったような気がしたのだ。僕のサイフから。
ひとり1万円やそこらのレストランで不味かったら、あ〜、運が悪かったなぁ、と思いスルーするだけなのだが、やはり10万円以上払って、ぜんぜん満足感が得られなかったので、ずっとジュエル・ロブションのことは僕の頭から離れなかった。というのも、ある意味でジュエル・ロブションの経験は僕の常識を打ち破っていたからだ。
料理が美味いかどうかはぶっちゃけた話、ほとんどが食材で決まる。ある一定レベル以上の料理人の間では、それほど腕に差が出るわけじゃない。だから、じつは採算なんか気にせず、ホームパーティーなんかで最高の食材を作って料理するのが一番美味しいのだ。レストランというのは、採算を考えて、どうしても材料費と調理の時間を節約しないといけないのでそれはしょうがない。その制約条件のなかで一番美味いものを作るのがプロの料理人の仕事である。
その点で言うと、ジュエル・ロブションはひとり6万円である。これだけの予算があれば最高の食材を使って料理できる。だから、まあ、コスパは合わないだろうが、大して美味くない、というのはありえない、と僕は思っていた。三ツ星レストランだし。
しかし、しかしである。ぶっちゃけた話、この前行ったひとり5000円の俺のフレンチのほうが美味かったじゃん、と思ったのは事実なのである。誤解のないように言っておくと、味覚というのは人それぞれだし、食べログ(笑)を見ると、多くの人たちが絶賛しているので、僕が間違っている可能性は十分にあるし、僕はジュエル・ロブションさんなんか知らないし、働いているシェフも運営会社も全く知らず、営業妨害なんてする気はさらさらない。たまたま腹が立ったウエイターがいたとか、そんなこともぜんぜんない。実際に、最高級レストランだけあってウエイターたちのサービスはなかなか良かった。単に、食事が思っていたほど僕の口に合わなかった、というだけの話だ。しかも、僕はブラインド・テストしたら松阪牛とスーパーの安い輸入肉の区別はほとんど誰もつかない、という類の話が大好きな人物であり、僕自身も、そんなに味覚が鋭いと思っているわけではない。実際のところ、ワインなんて、未だに美味いワイン、不味いワイン、重いワイン、軽いワインの4種類ぐらいしか区別が付かない。まあ、映画を見て、あれは面白かった、つまらなかった、と言ったり、あそこのラーメン美味いね、いやあれは僕は好きじゃない、とかそんな類のあくまで個人的な、超個人的なレストランの感想を、すごく個人的なブログに日記として書いている、というだけの話である
それで僕はなぜジュエル・ロブションがあの値段でもぜんぜん美味しくないのか、その理由をいろいろと考えてみたのだ。いや、あの請求書のおかげで、あの食後感が僕の心の中の澱としてずっと残っていて、自然と無意識のうちにいろいろ考えてしまっていたのだ。それでジュエル・ロブションのビジネス・モデルを考えると、僕が美味しいと思っている東京のいくつかのレストランとは正反対のことをやっていることに気がついた。
僕は個人的には、美味いものを食いたかったら銀座の高級鮨だと思っているのだけれど、銀座の鮨屋にメニューはない。最高のネタを最高の状態で出したいから、毎日同じメニューにすることは不可能なのだ。いい車海老が市場に入らなければ、お任せメニューから車海老は消えてしまう。反対に、すごく美味しいノドグロなんかが入って、いい熟成状態で出せるとなるとそれが出てくる。とにかく素材命なので、大将は毎日市場に行き、一番いいネタを仕入れてきて、それを一番いい状態になるまで寝かしたりして仕込んで客に出すのである。
フレンチだって、知り合いのハンターが取ってきた状態のいいジビエがいい熟成状態になると、今日はこれが美味いよ、なんて出てくる。だからオーナー・シェフの小じんまりした美味しいフレンチは、鮨屋みたいなところがあってメニューが毎日変わる。
しかし、多分これが売りなんだろうけど、恵比寿のジュエル・ロブションでは、世界11ヶ国でレストランを経営しているためにめったにキッチンには来ないジュエル・ロブションさんお墨付きの固定化されたメニューが一定期間続く。そこには現場のシェフが市場に行って今日は何がいい食材なのかを見極める自由がない。地中海から空輸された舌平目とかがドヤ顔で出てきても、魚は日本のほうが美味いのに、と思ってしまうのだ。
俺のフレンチの経営者の本を読んだら、成功の秘訣のひとつはとにかくその店のシェフを信頼して、仕入れからその日のメニューまで全ての権限を与えたことだと書いてあった。大企業だと、ひとりの人間に仕入れも何でも全ての権限を与えるとすぐに業者と癒着して悪いことをしでかすなんて発想になるから、料理人と仕入れ担当で分けたりする。しかし、本来ならシェフがいろんな業者と付き合ったり、自分で市場に行ったりして、最高の食材をどこからどう仕入れるのかを常に考えなければいけないのだ。しかし、大企業のジュエル・ロブションでは、食材の仕入先も、その日のメニューを決める権限も、現場のシェフにはない。さらにジュエル・ロブションの名前を前面に出すために、現場のシェフの名前は全く外に出ない。店の前の看板にまでシェフの名前を出している俺のフレンチとは対照的だ。シェフに権限がなく、自分の名前が出ることはなく、偉い人の名前を使わせてもらうために上納金を払い続けなければいけないような環境で、腕のいいシェフがずっと働きたいだろうか? 僕ならそうは思わないだろう。
ジュエル・ロブションみたいな大企業的な経営で美味いものを出すのは、季節によって移り変わる希少な食材を使う必要がない、牛丼屋やラーメン屋やファミレスみたいなのにはすごく向いているのかもしれないが、高級レストランには向いていないのだと思う。もっとも、向いていないのは高級食材を使った美味い料理を出す、という点に関してだけで、ジュエル・ロブションみたいに上手くブランディングしてマーケティングすれば、美味いものは出せなくても、商業的には大成功するのだと思うけれども。
いや、不味い不味いって言っても、さすがにいいレストランで三ツ星レストランだから、もちろんふつうには美味いですよ。これでひとり1万5000円ぐらいだったら、ぜんぜんありだと思うし、僕もオススメするんだけど、ひとり6万円はないわ、というだけの話です。
ということで、ジュエル・ロブションより安くて美味しいフレンチを知りたい人はメルマガを購読して下さい(笑)。
→まぐまぐ、ブロゴス、夜間飛行、ブロマガ
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この記事へのコメント
1. Posted by A 2014年03月02日 22:39
長い
2. Posted by B 2014年03月02日 23:42
ひさびさにブログ書いたと思ったらなげーw