本日12月1日から就職活動解禁だそうで、早速街にはリクルートスーツ姿の就活生があふれていました。そんな中、ドワンゴさんが新卒入社試験に受験料を徴収する件が話題になっています。ドワンゴさんぐらいの人気企業だと、こういうことやってもきっと応募がガンガンくるわけで、うらやましい限り。

新卒入社試験の受験料制度導入について(ドワンゴグループ 新卒採用ページ)

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ドワンゴさんらしいインパクト勝負のこの制度に、早速ネットでは「こんなの法律的にOKなの?」と賛否両論あるようです。

私見ではありますが、今回のような応募者の本気度を測るためにお金を払わせるというやり方は、違法とならないように行う道はあるものの、その趣旨説明と受験料の取扱いには相当な配慮が必要ではと考えます。

採用試験の“手数料”を取ることは合法


そもそも、企業が採用選考で学生からお金を取っていいのかという点については、すでに話題になっているとおり、職業安定法第39条にこんな条文があります。

職業安定法
(報酬受領の禁止)
第三十九条  労働者の募集を行う者及び第三十六条第一項又は第三項の規定により労働者の募集に従事する者(以下「募集受託者」という。)は、募集に応じた労働者から、その募集に関し、いかなる名義でも、報酬を受けてはならない。

「いかなる名義でも」と文言にはっきり書いてあるので、今回の件もダメそうに見えます。ところが、厚生労働省の「労働者募集業務取扱要領」には、この条文の行政解釈がこんなかたちで披露され、必ずしもダメではないことが解説されています。

労働者募集業務取扱要領 労働者募集の原則(厚生労働省ウェブサイト)
(5)報酬の受領及び供与の禁止(法第39条、第40条)
募集主又は募集受託者は、募集に応じた労働者からその募集に関していかなる名義でも報酬を受けてはならない。また募集主は募集従事者に対して、賃金、給料その他これに準ずるもの又は厚生労働大臣の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。
なお、募集とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人をして労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することであり、採用試験は募集に応じた者から雇用することとなる者を選考するために行うものであるため、募集とは別の行為である。このため、採用試験の手数料を徴収することは法第39条の報酬受領の禁止には該当しない。

職業安定法をここだけ読むと、一体この法律は何をしたいのかわからないかもしれませんが、全体を読めば、就職の機会均等の確保に加えて、その就職機会の提供にかこつけて本来労働者が受け取るべき給与等から不当に中間搾取をしようとする輩の排除を目指す法律であることがわかります。つまり「お礼にカネ(条文にいう「報酬」)をくれるんだったら、被用者にしてやってもいいけど?」という行為を禁じているというのが、第39条の主旨であると。したがってそういった意図、つまり報酬としてでなく、純粋に選考プロセスで発生する“手数料”を応募の意思に基づいて負担させる限りにおいては、合法であるとされているわけです。

この点、今回のドワンゴさんのQ&Aにも、

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とあります。あくまで自分の意思でプレエントリーし説明会に参加した学生の中で、ドワンゴに入ってみたいという意思を持った人=エントリーする人から受験料を徴収するという建て付けになっており、この点法律上問題とならないように慎重に配慮した形跡が見られます。

本気度を測るためのお金=“手数料”?


ただ、私が自分の所属組織で人事から本件の相談を受けていたら、

新卒のかたの入社試験に受験料をいただくことにしました。金額は2525円。目的は、本気で当社で働きたいと思っているかたに受験していただきたいからです。
集めた受験料は奨学制度の基金かなにかに全額寄付をする予定です。

この2点の記述・取扱いは、再検討をさせたかなと思います。

「2525円」というのはシャレをきかせた数字として面白いです。しかし、法律が徴収を認めているのがあくまで“手数料”である以上、実際に採用試験に掛かる実費を算定してそれを請求すべきではないかと。また、徴収したお金を「寄付」するというのも、儲けを目的としていないことの表明としてはわかりやすいとは思うものの、会社として応募者に“手数料”を請求しているということにならないのではと。そしてなにより、目的をここまで露骨に書く必要はなかったんじゃないかなと。実費としての受験料を負担させることだけでも、実質的には記念受験の就活生の多くは排除でき、目的は達成されるはずですしね。


同社にはインハウスの方も複数いらっしゃいますし、このあたりの法律は抜かりなく検証されたものと推測します。しかし、職業安定法の主旨にも現れているとおり、労働問題の中でも採用選考場面はとかくセンシティブな部分です。言葉じりを捉えられて世間の批判が高まれば、厚労省から指導が入る可能性も否定できません。昨年、「縁故採用宣言」をした岩波書店を機会均等の観点から調査した事例もありましたし。

就活シーズンに突入した今、私もひとごとではなく、こういった表現に関するアドバイス・判断には一層気を遣わなければと思いました。
 

2014.3.2追記:やはり実費としての根拠は必要だった


厚生労働省から指導が入ったとのことです。

ドワンゴ就職受験料、厚労省が中止求め行政指導
来春卒業予定の大学生らの採用を巡り、大手IT企業「ドワンゴ」(東京)が入社希望者から受験料を徴収する制度を導入した問題で、厚生労働省東京労働局が「新卒者の就職活動が制約される恐れがある」として、職業安定法に基づき、次の2016年春卒の採用から自主的に徴収をやめるよう行政指導をしていたことがわかった。
同社などによると、行政指導があったのは2月中旬。厚労省は「受験料制度が他社にも広がれば、お金がない学生の就職活動が制約される恐れがある」として問題視。来春卒業予定者の採用では、既に手続きのピークを過ぎているとして事実上、不問にしたが、16年春卒の採用からは徴収しないよう求めたという。

労働者の募集に関し、職安法は「いかなる名義でも報酬を受けてはならない」と規定。厚労省は指導の中で、ドワンゴの受験料が「報酬」にあたるかどうかは明確に判断しなかったといい、同社の担当者は「受験料は報酬にはあたらない」との認識を示している。

職安法(を解釈する行政庁としての厚生労働省)が徴収を認めているのはあくまで手数料実費にすぎないのであって、少なくとも「本気かどうかを確かめるための受験料」は認められない、という見解が示されることとなりました。「寄付」を表明して報酬ではないことを主張したとしても、やはり、実費なら実費としての根拠を示せる状態にしておくべきだった、ということでしょう。

ただし、12月にあれだけ話題になったにもかかわらず、わざわざ就活がピークアウトした2月に行政指導を入れ、しかも「来年度からは“自主的に”やめなさいね」とした点には、法解釈上も微妙なボーダーラインだったことを踏まえた、厚労省なりの落とし所の作り方であることが伺えます。