歯科鋳造用リングライニング材
- 【要約】
【目的】 アスベストを含まないにも拘わらず、室温時や加熱時に適度な柔軟性と緩衝作用及び強度を有し、鋳造体に鋳バリ等の鋳造欠陥を発生せず、更に鋳造修復物の欠損支台部分への適合物の良好な歯科鋳造用リングライニング材。
【構成】 1000℃以上の耐熱性を有する無機繊維とガラス繊維と無機粉体とを主成分とし、無機バインダーと有機バインダーで結着してシートに成形することを特徴とする。
- 【特許請求の範囲】
【請求項1】 1000℃以上の耐熱性を有する無機繊維とガラス繊維と無機粉体とを主成分とし、無機バインダーと有機バインダーで結着し、シートに成形して成ることを特徴とする歯科鋳造用リングライニング材。
【請求項2】 該無機バインダーがアルミナゾル及び/またはシリカゾルと該有機バインダーが合成樹脂エマルジョン及び変性シリコン樹脂エマルジョンで構成される請求項1に記載の歯科鋳造用リングライニング材。
【請求項3】 1000℃以上の耐熱性を有する無機繊維とガラス繊維と無機粉体とを主成分として配合、水中で離解混合したものに無機バインダーと有機バインダーとを混合し、所定の厚さに抄造、脱水、乾燥してシートに成形して成ることを特徴とする歯科鋳造用リングライニング材の製造方法。
- 【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、歯科鋳造に於いて、鋳造用リングの内側に裏装して用いる歯科鋳造用リングライニング材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】歯科鋳造に用いられる短冊状のリングライナーは鋳造修復物を口腔内の実質欠損部分に正確に適合させるために溶湯が鋳込まれ、室温にまで冷却される際に生じる収縮を補償すべく歯科用鋳型材の凝結膨張や加熱膨張を抑制せず、クッション材として歯科鋳造用リングの内側に裏装して使用される。この様な目的で用いるリングライニング材を歯科に於いて鋳造用緩衝材または鋳造用リライニング材と称されているものである。
【0003】従来リングライニング材はアスベストを主成分とするアスベスト紙が用いられ、最近になって一部セラミック繊維を主成分とするセラミック紙が用いられる様になった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】近年アスベストは発癌性があるとのことでアメリカ国内に於いては建築材料へのアスベストの使用を禁止しており、日本に於いても規制する等、社会問題となっている。歯科に於いてもアスベストに代わる材料への要望が高まって来ている。
【0005】一方アスベストを主成分としたリングライニング材の代替用として、アルミナシリケート質の繊維を主成分としたセラミック繊維系のリングライニング材が市販されている。このセラミック繊維系のリングライニング材はセラミック繊維を主成分とし、アクリル樹脂等の合成樹脂または天然パルプをバインダーとしている。
【0006】この様なセラミック繊維系のリングライニング材は、歯科で用いるに充分なクッション性を有しており、鋳型材の凝結時の膨張や加熱時の膨張を抑制することは無いものの、鋳造用リング内の加熱されたリングライニング材は綿状に崩れ、鋳造用リングがあるにも拘わらず、宛かもリングレス鋳造の状態を示す。即ち鋳型中に容易に亀裂が発生し、鋳造欠陥を発生させる。この鋳造欠陥は欠損支台部分への適合性にも悪影響を与える。
【0007】即ち、歯科でう蝕で罹患した歯(虫歯)や脱落した歯を修復する場合に合金を鋳造して、インレー、クラウン等を作成する。鋳造に際してはロストワックス法と呼ばれる精密鋳造法が用いられる。精度が悪いと、鋳造したインレーやクラウンを患者の歯に確実に装着することができないためである。
【0008】しかしながらロストワックス法でも歯科用合金は鋳型の中で凝固した後に常温に冷却されるまでの間に1.5〜2.3%程度収縮するので、鋳型材は凝結中及び加熱中に鋳造合金の収縮を補償するだけの膨張をすることが必要である。合金の溶湯を鋳込む際の鋳型はワックスパターンの寸法よりも1.5〜2.3%程度大き目になっていることが必要で、このため鋳型材は凝結膨張と熱膨張するようになっている。鋳型材は鋳造リングの中にワックスで形成したパターンを埋没させ鋳型材を凝結後に電気炉内で加熱脱ろうして鋳型を形成する。
【0009】従って鋳造用リングの内周面に鋳型材の膨張を吸収するリングライニング材を設けている。このリングライニング材は、鋳造用リングの内周面に短冊状にて裏装している。そのため鋳造用リングにフイットすること、鋳型材の凝結時の膨張や加熱時の膨張を吸収すること、加熱されたリングライニング材はシート状を維持し綿状に崩れないことが要求される。また、リングライニング材は鋳型材の吸水膨張による膨張のバラツキを無くするために水分を吸収することの無いよう撥水性が必要である。
【0010】しかしながら、上記セラミックス繊維を主成分とし、合成樹脂または天然パルプをバインダーとしたものは、鋳型材の膨張を抑制することはないものの、鋳造リング内周面へのフィット性、加熱されたリングライニング材が綿状に崩れ鋳型中に容易に亀裂が発生し、鋳造欠陥を発生或いは鋳型材の水分がリングライニング材に吸収され鋳型材の膨張のバラツキが発生する等の問題があった。
【0011】
【問題点を解決するための手段】本発明はアスベストを全く含有せず、鋳型材の水分を吸収すること無く、鋳造リング内周面に短冊シートがフイットし鋳型材の凝結時の膨張や加熱時の膨張を吸収すること、加熱されたリングライニング材は、シート状を維持し綿状に崩れず鋳型中に容易に亀裂が発生しないことにより鋳造体に鋳バリ等の鋳造欠陥が発生せず、しかも鋳造修復物の欠陥支台部分への適合性も良好となるリングライニング材を鋭意検討した結果、従来から使用されている1000℃以上の耐熱性を有するセラミック繊維や無機粉体に400〜700℃で軟化焼結し、セラミック繊維や無機粉体のマトリックスとなるガラス成分を加えること、及び有機バインダーが熱分解する200℃以上の温度で接着力を発揮する無機バインダーと常温で接着力を発揮する有機バインダーを併用することによってアスベスト紙が有すると同様な、適度な緩衝作用を有し、鋳型凝結時や加熱時の膨張を抑制せず、しかも適度な強度を有して鋳バリを発生させないリングライニング材を見い出し、本発明を完成した。
【0012】即ち、本発明は1000℃以上の耐熱性を有するアルミナシリケート質のセラミックス繊維とガラス繊維とアルミナ粉末等の無機粉末に、無機バインダーと合成樹脂エマルジョンを加え、シート化したリングライニング材はアスベストを全く含まず、しかも鋳造体には鋳バリ等の鋳造欠陥を発生させず、支台部分への適合性も良好であった。
【0013】本発明によるリングライニング材により、鋳バリの発生も無く適合性の良好な鋳造修復物が得られる理由には、先ず室温時に鋳型材が凝結する際、セラミック繊維とガラス繊維と無機粉体による適度なクッション性と有機バインダーによる適度な引張強度を有するため凝結膨張を抑制しない。
【0014】更にその凝結した鋳型を、鋳型内に埋没されているワックスやレジンから成るパターンを焼却する際、鋳型の熱膨張を抑制せず、しかも200℃以上で接着力の効果を有する無機バインダーの効果により鋳型に亀裂が発生することが無い。
【0015】本発明のガラス繊維は700℃以下で軟化し、鋳型材に含有される石英やクリストバライト骨材の熱変態温度、即ち石英573℃とクリストバライト200〜300℃で大きな膨張を示すが、骨材の熱変態による大きな膨張に対して適度な緩衝作用と強度を与える役割を示す。例えばソーダガラス,リン酸塩ガラス,ホウ酸塩ガラス等を使用する。
【0016】更に云えば鋳型材に含有されている石英やクストバライトの熱変態温度が石英で573℃、クリストバライトが約200〜300℃で大きな膨張を示すため、200℃以下は有機バインダーの効果により、200℃以上は無機バインダーの効果により、適度な強度を有することが可能になった。
【0017】室温〜200℃の膨張を抑制せず適度な強度を得るためにアクリル樹脂または酢酸ビニル樹脂系の有機バインダーの適切な配合量は5〜15重量部である。また200℃以上の膨張を抑制せず適度な強度を得るためにアルミナゾルまたはシリカゾル系の無機バインダーの適切な配合量は1〜10重量部未満である。有機バインダー5重量部未満、無機バインダー1重量部未満では、強度不足により鋳バリ等の鋳造欠陥が発生し、適合性へも悪影響を及ぼす。有機バインダー20重量部以上、無機バインダー18重量部以上では強度が大き過ぎてクッション性が無くなり鋳型の膨張を抑制し、鋳造体の支台部分へ適合性が不良となる。アルミナ粉末に代表される無機粉体を配合する理由はアスベスト紙の感触を出すためであり、10〜40重量部が適切である。
【0018】尚、本発明の1000℃以上の耐熱性を有する無機繊維としては通常用いられているAl2O3/SiO2の重量比が0.4〜0.6のセラミックス繊維の他、アルミナ繊維,ジルコニア繊維,シラス繊維,チタン酸カリウム繊維を用いることができ、適切な配合量は30〜60重量部である。またガラス繊維の適切な配合量は10〜50重量部である。また従来から使用されている天然パルプを混抄することも抄紙の作業性を向上させる。
【0019】更に、リングライニング材の吸水性をコントロールするため、変性シリコン樹脂を有機バインダーの一部に加えることにより鋳造体の膨張の再現性が良くなり、支台部への適合性に好結果を得た。
【0020】更に、バインダーの付着方法としてビータサイズ法と含浸方法とがあるが、両者共リングライニング材としての効果に差は無いものの鋳造用リングへの装着の作業性に就いて前者の方が優れていた。即ちビータサイズ法によってバインダーを付着させた場合は樹脂のマイグレーションが起こらず、リングライニング紙を柔軟に仕上げるため、リングへの装着時に折れが無く、スムーズに装着が可能であった。
【0021】
【実施例】以下実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1〜3セラミックス繊維(新日鉄化学 SC-1260R)35重量部,アルミ粉末25重量部,ガラス繊維25重量部,クラフトパルプ(NBXP)15重量部を水中で離解する。これにシリカゾル2.5重量部(固形分),アクリル樹脂(東亜合成 PDLA-160WR)5〜15重量部(固形分),変性シリコンエマルジョン1重量部(有効成分)を加え、更に高分子凝集剤を加え、通常の方法で抄紙し、乾燥して0.7mmのシートを得た。(ジーシー社製、商品名ニューキャスティングライナー)
【0022】実施例4〜6セラミックス繊維50重量部,アルミナ粉末25重量部,ガラス繊維25重量部,を水中で離解する。これにアルミナゾル1〜10重量部(固形分),酢酸ビニル樹脂10重量部,変性シリコンエマルジョン1重量部(有効成分)加え、更に高分子凝集剤を加え、通常の方法で抄紙、乾燥し0.7mmのシートを得た。(ジーシー社製、商品名ニューキャスティングライナー)
【0023】リングライニング材の引張強さは0.7mm厚のシートを長さ50mm,幅25mmに切断し室温時と700℃に加熱した後、室温まで冷却して引張試験機にて測定した。鋳バリ発生試験は既製のクラウン型ワックスパターンを円錐台に植立しリングライニング材を裏装した鋳造用リングを円錐台に固定しパターンを鋳型材に埋入した後、700℃で加熱焼却し歯科用金銀パラジウム合金(商品名キャストウェルMC12:而至歯科工業社製)を鋳造し室温まで冷却して鋳型より取り出しバリ発生の有無を目視にて観察した。尚鋳型材は平均粒径10μmのクリスバライト粉末70重量%と平均粒径15μmのα半水石膏30重量%を混水比0.33で混合したものを調整して使用した。
【0024】適合性はA.D.A規格No.2にあるフルクラウン型及びMODインレー型を用い歯科技工の通法によりワックスパターンを作製し鋳バリ発生試験と同様の方法で鋳造し鋳造体を鋳型から取り出した後、原型に戻し原型との間隙の度合により適合性の良,不良を観察した。
【0025】
【表1】【0026】
【発明の効果】表1から明らかな如く、無機バインダーと有機バインダーを併用したリングライニング材はアスベストを含まないにも拘わらず室温時や加熱時に適度な柔軟性と緩衝作用及び強度を有しており、鋳造体に鋳バリ等の鋳造欠陥が発生せず更に鋳造修復物の欠損支台部分への適合性も良好であり、実施例の何れの場合に於いても比較例より優れ、歯科鋳造用リングライニング材に要求される性能が向上していることが判明した。
- 【公開番号】特開平5−31128
【公開日】平成5年(1993)2月9日
【発明の名称】歯科鋳造用リングライニング材
- 【出願番号】特願平3−156190
【出願日】平成3年(1991)5月31日
【出願人】
【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
【識別番号】000232760
【氏名又は名称】日本無機株式会社
- 【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】野間 忠夫 (外1名)
- ※以下のタグをホームページ中に張り付けると便利です。
-
当サイトではIPDL(特許電子図書館)の公報のデータを著作権法32条1項に基づき公表された著作物として引用しております、
収集に関しては慎重に行っておりますが、もし掲載内容に関し異議がございましたらお問い合わせください、速やかに情報を削除させていただきます。