第2次大戦末期にヤルタ会談が開かれた黒海の保養地クリミア半島が危機のさなかにある。

 ウクライナの政変に伴い、半島をロシアへの帰属に変えようとする動きが急激に強まった。

 現地では武装集団が自治共和国の政府や議会、空港を占拠している。ロシア黒海艦隊の関与が伝えられ、ロシア軍は国境付近で大規模演習も始めた。

 オバマ米大統領は「軍事介入には代償が伴う」と警告した。だが、ロシア上院はプーチン大統領の提案に応じ、ウクライナへの軍部隊の展開を承認した。

 いまや本格介入の瀬戸際である。プーチン大統領は武力を使った強硬策を控えるべきだ。米欧との協議を進め、平和的な事態収拾に努めねばならない。

 自治共和国議会は、独立に近い権限の是非を問う住民投票の実施を決めた。半島はすでにウクライナ新政権の統治から離れつつある。

 もともと半島の住民は、約6割がロシア系だ。ソ連時代の1954年にロシア共和国からウクライナ共和国に帰属替えされた経緯もあり、ロシアとの関係が深い。

 ソ連崩壊によるウクライナの独立後、地元ではロシア復帰を望む動きもあったが、ロシアは黒海艦隊の駐留継続を条件に半島をウクライナ領と認めた。

 ロシアはその後も、旧ソ連諸国が欧米陣営に転じることを強く警戒してきた。今回も、ウクライナ新政権が欧米寄りに傾くのを阻む狙いがあろう。

 しかし、軍事介入は、きわめて危険な強権発動である。

 もし介入がウクライナ側との衝突に発展すれば、08年のグルジア紛争と同様、激しい流血の惨事を招く。そうなれば、ロシアは国際社会から重大な責任を問われることになろう。

 ウクライナの命運を決めるのは国民自身であり、領土は当然保全されるべきだ。力ずくで隣国の分離を誘導するような大国エゴは厳に慎まねばならない。

 ウクライナの新政権も冷静に事態に対処してほしい。言語政策などでは、東部のロシア系住民への配慮が必要だ。

 国際社会は事態の沈静化のために結束した行動をとらねばならない。米国と国連安全保障理事会は、ロシアに自制を強く促すとともに、ウクライナ再建に向けて各国・組織の協力を呼びかける必要があろう。

 とりわけ隣国ウクライナの混乱から深刻な影響を受けるEU諸国は、外交力が問われる。ウクライナの国民対話の促進と、ロシアへの説得の両面でさらに力をそそぐべきだ。