第五福竜丸事件:ビキニ事件、米が日本政府に圧力 米公文書、「死の灰」報道に不満

毎日新聞 2014年03月02日 東京朝刊

ビキニ核実験で第五福竜丸が浴びた死の灰を東京大学が分析した結果を報じる、1954年3月20日付毎日新聞夕刊の記事
ビキニ核実験で第五福竜丸が浴びた死の灰を東京大学が分析した結果を報じる、1954年3月20日付毎日新聞夕刊の記事

 【ワシントン及川正也】1954年3月1日に米国が太平洋ビキニ環礁で実施した水爆実験のため日本のマグロ漁船「第五福竜丸」が被ばくした事件を巡り、「死の灰」の成分分析を詳報するなど米国の対応に批判的な日本メディアに米政府が不満を強め、日米関係全体に深刻な影響を与えると日本政府に圧力をかけていたことが、機密指定を解除された米公文書で判明した。

 米政府は原爆や核実験で被ばくした日本の被害感情に配慮しつつ日本政府は「無責任」と決めつけ、日米の感情的対立が高まった舞台裏が浮かんだ。米公文書を収集・分析する米ジョージ・ワシントン大学の研究機関が2月28日に公表した。

 事件は3月14日に福竜丸が静岡県・焼津港に帰港した後に発覚。米政府は「安全保障上の問題」として機密保全を日本政府に求めた。だが、降下物を分析した東大が炭酸カルシウムを主成分とし、放射性ジルコニウムなど4元素が検出されたとの分析結果を同20日に発表、毎日新聞が詳報した。これをアリソン駐日米大使は21日付ダレス国務長官宛て公電で「増大する問題」の一例として報告した。

 22日付公電によると、アリソン大使は21日夜に岡崎勝男外相と会談し「数多くの友好的でない新聞報道」や「爆弾の種類や成分を探りだそうとする新聞や科学者の欲望」に言及。岡崎外相は「新聞幹部に説明し理解を得るのは可能だが、医者や科学者の活動制限は困難」と回答した。

 日本の報道が、米国による福竜丸の引き渡し要請を「証拠隠滅」と疑ったり、米国が患者を実験台として扱っていると批判したりしたことに、大使は「感情的」と不快感を示しており、政府を通じてメディアに圧力をかけようとした節がある。

 一方、東大病院に入院した乗組員2人に対する米国医師団の接触が制限されたことに関し、23日付公電でアリソン大使は「日本政府の無責任な態度」が続く場合、当時進んでいた原子力平和利用協力を含む「日米のすべての将来的な協力が危機にさらされる。これは戦後日本の責任が試される重要な試験になる」と警告した。

 岡崎外相は5月1日付の大使宛て書簡で「双方のいら立ち」を鎮める必要を訴える一方、「患者が『実験材料』として扱われる恐怖」から受診をいやがっていると伝え、対立は平行線のままだった。

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