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【社会】

ホタル館の灯消えそう 「幼虫確認2匹」 板橋区廃止へ動き

昨年6月、ホタル生態環境館で行われた特別公開で乱舞するゲンジボタル=阿部宣男さん撮影

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 ホタルを卵から成虫まで飼育する東京都板橋区の「ホタル生態環境館」が廃止の危機にひんしている。運営主体の区が、存廃を決める判断材料として館内の生息数調査を実施したところ、幼虫がわずか2匹しか確認されず、区は廃止に向けて動きだしている。しかし、調査手法に対する疑問の声も出ており、区民や関係者は存続を強く求めている。 (村松権主麿)

 区の委託業者が先月下旬に実施した生息数調査では、温室内にある約二十一メートルのせせらぎに入り、二十七カ所で幼虫をネットに追い込んだ。体長約二センチと比較的大きなゲンジボタルの幼虫二匹のみが捕獲され、生息数は二十三匹と推測された。ヘイケボタルの幼虫はゼロで、餌になる巻き貝のカワニナの総数もわずか約九百六十匹とされた。「幼虫は数万匹いる」とするホタル館側との見解と大幅に異なる結果となった。

 ホタル館の存廃問題が表面化したのは昨年一月。老朽化と飼育技術継承の難しさを理由に、区が「廃止も含めた施設のあり方を検討する」と方針を示した。

 今回の調査結果について区資源環境部の山崎智通(ちとる)部長(58)は「こんなに少ないとは思わなかった。決定に影響を与える」と説明。「用途地域の制限で施設の改築はできず、財政的に移設も難しい」と廃止の方向性を示す。

 一方、区職員として同館でホタルを飼育してきた阿部宣男(のりお)さん(58)は「この時期は一センチに満たない幼虫が多い。人が流れに入ると、石の下などに隠れた幼虫は逃げ、捕獲は難しい」と、調査に疑問を呈す。ホタルの専門家からも「調査方法に問題があるのでは。カワニナは土の中などで繁殖している可能性もある」(ホタル飼育関係者)などとの声が上がる。しかし、区側は「国が定めた手法に基づいて実施した」としている。

 ホタル館存続を訴える区民は昨年十一月、区議会に陳情を提出したが、委員会で結論が出ず、今月に入り再提出した。十九日の区民環境委員会で審議される。

 区の調査後、阿部さんはホタル館の担当から外されて辞表を提出。施設管理業者も変更され、館内で飼育を手伝ってきたボランティアの活動も止められた。ボランティアの一人は「区の調査や対応は廃止が前提だ」と批判する。

 ホタル研究者でホタル館運営にも協力した山岡誠・九州女子大学元教授(86)は「二十三区内でホタルをあれだけ飼育している施設はない。廃止は大きな損失だ」と話している。

 <東京都板橋区のホタル飼育> 1989年に区職員の阿部宣男さんが、福島県大熊町などで採取したゲンジボタルとヘイケボタルの卵を区施設の温室植物園(現・熱帯環境植物館)に放して以降、卵からかえった成虫が再び卵を産む世代交代が25年続いている。93年には新設されたホタル生態環境館に飼育場所を移し、毎年6〜7月には成虫が乱舞するように。年3万人ほどが見学に訪れていたが、施設の老朽化で2013年度から予約制になった。

 

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