人気作家らが文学論巡り激論3月1日 21時17分
人気作家を数多く輩出してきた芥川賞と直木賞が、ことしで150回の節目を迎えたことを記念して「芥川賞&直木賞フェスティバル」が東京・丸の内で開かれ、綿矢りささんや道尾秀介さん、宮部みゆきさんなど歴代の受賞作家たちが文学論や創作手法などを巡って議論を繰り広げました。
人気作家が一堂に
イベントは芥川賞や直木賞の受賞作家17人が2日間にわたってトークショーなどを行うもので、初日は綿矢りささんと道尾秀介さんという、若手を代表する人気作家が対談しました。
平成16年に史上最年少の19歳で芥川賞を受賞した綿矢さんは、作家のイメージと現実との違いについて、「太宰治が好きだったので作家というものは障子が破れた部屋で叫んだりという破綻したイメージがあったけれど、実際にはみんなもっとスマートだと分かりました」と笑いを誘いました。
また創作の難しさについて小説の登場人物の描写を引き合いに出して、「作者の都合に合わせて登場人物を“雑”に扱っていると、書いている途中に頭の中にその人物が出てきて、無表情にくるっとこちらを向き『もう演じ飽きたよ』と言ってくる怖い瞬間があって、慌てて書き直す」と表現しました。
一方、平成23年に直木賞を受賞した道尾さんは、ファンにはおなじみの伏線の多いミステリー作りについて「スタートとゴールを決めて、あとは書きながら考えます。話のつじつまが全く合わないことに就寝中に気づいて夜中に起きて書き直すこともあります」と創作の苦労の一端を明かしました。
また「将来、仕事の依頼が無くなったらどうするか」という問いに対しては「大好きなローリングストーンズの歌で『ただのロックンロール、でも好きだ』という一節があるんです。自分が迷いそうになったらそのことばを思い出し、依頼がなくとも書いていきたい」と語りました。
道尾さんは、事前に今回の対談の細かい構成を準備していたほか途中から進行役もつとめるなどの用意周到ぶりも話題になり、綿矢さんは苦笑交じりで「私にはできません」と話していました。
作家たちのビブリオバトル・勝者は
観覧申し込みが最も多かったプログラムが、人気作家による「ビブリオバトル」(書評合戦)です。
北村薫さん、桜庭一樹さん、宮部みゆきさんの3人が、過去の直木賞受賞作からお気に入りの1冊を選び、5分間で本を紹介して表現などを競います。
3人が選んだのは、まず北村薫さんが「鶴八鶴次郎」(川口松太郎作・第1回受賞)、桜庭一樹さんが「赤目四十八瀧心中未遂」(車谷長吉作・第119回受賞)、そして直木賞の現役選考委員の宮部みゆきさんが「昭和の犬」(姫野カオルコ作・第150回受賞)でした。
北村さんが演歌「星影のワルツ」の「別れることはつらいけどしかたないんだ君のため」と冒頭の一節を紹介しながら「男と女の別れを描いた普遍の物語」と、じょう舌に魅力を語れば、桜庭さんは「ごく普通の男性がちょっとしたボタンの掛け違いから異界に落ちていく、ある種のダークファンタジー。異界の描きぶりが絶妙ですばらしい」と激賞し、宮部さんは「作品の2か所で大声を上げて笑いながら途中で泣いてしまうほど心を動かされた。犬と飼い主の物語を通して、困難な人生の中で巡り会う温かいものの象徴を描いていて、決してペット小説ではないし必ず再読したくなります」と力説。
結果、来場者の投票でいちばん読みたくなった本に選ばれたのは、宮部さんが評した「昭和の犬」でした。
こうした作家と読者が交流する大規模な催しは最近では珍しく、徳島県からこの日のために訪れたという60代の男性は、「好きな作家の話を『編集なし』で見ることができてよかったです。作品を読む楽しみが増えるのでこういう機会をどんどん設けてほしいです」と話していました。
「芥川賞&直木賞フェスティバル」は東京・千代田区の丸ビルで3月2日も開かれ、林真理子さんと浅田次郎さんの対談などが予定されています。
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